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#エッセイ

雨の日にはイワシの塩焼きと……

雨の日にはイワシの塩焼きと……

一昨日の夜から降り続いている雨。場所によっては豪雨に見舞われて被害も出るほどだが、幸い我が村周辺は、程よくチピチピと降ってくれている。恵みの雨と呼びたいところだけれど、そろそろ各地のワイナリーでスタートしているブドウの収穫に影響しませんように……。

ところで、雨の日になると食べたくなるものがある。それは、

『イワシの塩焼き』

どうして雨の日にイワシ?

そう思うはず。私もそう思った。

『こ

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あなたとまた手を繋ぐ

あなたとまた手を繋ぐ

久しぶりの外食。子どもたちが成人してからというもの、夫婦二人だけでの食事が多くなってきた。

「いつものでええか」

『イカの鉄板焼き』これが夫の“いつもの”。スペインバルでは比較的どこにでもあって、調理が簡単だからこそ素材の良さやシェフの腕前がよく分かる一品。この料理にお店のオリジナル料理やら本日のお薦め品が追加されていく。

「久しぶりやね、二人で来るのん」

「やっと二人で来れるようになった

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私の知らない私

私の知らない私

 若者たるや、お腹を空かせて帰ってくるだろうからと、親が料理を沢山作って待っている日には帰って来ず、冷蔵庫が空っぽで何もない日に限って帰ってくるもの。突然、友達や彼女がオマケについてくる事もある。

 この日もそう。翌日の朝一番に、息子に空港まで送ってもらう予定がある金曜日の夜。前夜は息子たちも早めに帰宅してみんなで夕食をと思っている……のは親だけ。

 晩ごはん4人前と思い込んでいる母は、ワイン

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義母の味、母の味、私の味【イワシの酢漬け】(レシピエッセイ)

義母の味、母の味、私の味【イワシの酢漬け】(レシピエッセイ)

今、イワシを手開きにしている。

鰓が鮮やかな赤色で、青く反射する背がピンと張っているのが新鮮な証拠。指先で鰓と下顎の部分を除いて、頭を外し、人差し指で内臓をかき出す。安価で手が届きやすい上、栄養価の高い青魚。思えば、スペインに来て、最初に教えてもらった料理が、この『イワシの酢漬け』だった。

私が一尾捌く間に四尾も捌いてしまう義母の手際良さ。慣れない私の手の動きは悲しいくらいに鈍く、折角の新鮮な

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いつも小瓶をポケットに入れて

いつも小瓶をポケットに入れて

 25年も前の話になる。人口8000人のバレンシアの片田舎で、私の外国人嫁としての苦難は予告なしにスタートした。

 標準の日本語しか知らない外国人が、いきなり東北弁や沖縄弁でしか存在しない世界に飛び込んだ時を想像してほしい。大学や語学スクールで勉強したのは文法中心の標準スペイン語のみ。公的機関での標準語としてのスペイン語はもちろん存在しても、村での共通語はあくまでもバレンシアの地方言語。

 パ

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切る。焼く。食べる。秋の味覚を丸ごと楽しむバレンシアの風物詩【焼きカボチャ】

切る。焼く。食べる。秋の味覚を丸ごと楽しむバレンシアの風物詩【焼きカボチャ】

夏が去り、広葉樹の葉が緑から黄色へと移り変わり、美しい色遊びを楽しませてくれる季節。

この時期になると決まって、小さなガレージの扉を潜り抜ける。お世辞にも清潔感があるとは言えない薄暗いガレージの奥から、ロリおばさんの「ハーイ!ちょっと待って!」という声と、左後足の短い老犬チワワの甲高い吼え声が一緒になって私を迎えてくれる。

この店ときたら、営業日も定休日も決まっていなくて、昨日、来たらお休みだ

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