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小さき者へ、生れ出づる悩み/有島武郎





ある日の午後、母との会話にふっと出てきた”有島武郎”という人物。
私は、その母との会話で初めて有島武郎という人を知りました。


そして、夜になりフォローしている方々の記事を拝読していたら、Sakitaさんの記事で再び有島武郎の名前が。


これは私に拝読しろということなのかと思い、近所のブックオフで手に取ったのが「小さき者へ、生れ出づる悩み」。
装丁画が大好きな酒井駒子さんだったため迷わず購入しました。


私小説2話が収録された100ページくらいの薄い文庫本なのでサラッと読んでしまおうと思っていましたが、なぜかなかなか進まず読了するまでに長い時間を要してしまいました。
決して、内容が面白くないからという訳ではなく、ただ単に昔の言葉に馴染めなかっただけです。
(2022,1,16 読了)




有島武郎はアメリカへ留学していたこともあり、思考や文章の描き方が少し日本人離れしているところがあるようにも感じます。
ときおり海外文学を読んでいるような錯覚に陥ることもありました。
とくに情景描写の描き方が丁寧で、「生れ出づる悩み」はほとんど有島武郎の空想で書かれているのにも関わらず、まるで実際に見てきたのではないかと思えるほど。



「小さき者へ」は、幼くして母親を亡くしてしまった我が子達へ宛てたお話。
我が子達への深い愛情と自分の覚悟が書かれていますが、その五年後になぜ愛する我が子達を残して自殺してしまわねばならなかったのかと哀しくなってしまいました。


「生れ出づる悩み」は、現実と自分の夢の狭間で苦悩する若者の姿を描いたお話。
若者のモデルは、木田金次郎という画家だそうです。
本当は夢に突っ走って生きてゆきたいのに、貧困という現実と自分の夢に対しての覚悟がなかなか持てず苦しむ若者の姿は、どことなく他人事ではないような気がしました。


「俺は一体俺に与えられた運命の生活に男らしく服従する覚悟でいるんじゃないか。それだのにまだ小っぽけな才能に未練を残して、柄にもなく野心を捨てかねているとみえる。-中略-
この一生をどんな風に過ごしたら俺はほんとうに俺らしい生き方が出来るのだろう。」




私とは全く意味合いがちがいますが、私も今「覚悟」と「捨てきれぬ夢」の狭間で苦悩しているので、若者の姿に自分を写してしまいます。
「捨てきれぬ夢」がある限り「覚悟」は揺れてしまうもの。
だからといって、どちらかを突き進めるのには大きな勇気がいるものです。正直怖い。



本書読了後に、「生れ出づる悩み」のモデルとなった木田金次郎について少し調べてみると、「捨てきれぬ夢」を諦めずに生き、後に立派な画家として成功され岩内に美術館まであるということを知りました。
これに、私は少し勇気を貰えたのです。
「捨てきれぬ夢」と「覚悟」の狭間で揺れながらも、諦めずにいたら何か見えてくるものがあるかもしれません。






「生れ出づる悩み」には、才能ある木田金次郎に対する有島武郎の熱い想いと励まし、また木田金次郎のように「捨てきれぬ夢」と「覚悟」の狭間で苦悩しているような読者への励まし、そして苦悩する若者と自分自身を重ねて自らを励ます想いが含まれているのではないかと思いました。

君よ、春が来るのだ。冬の後には春が来るのだ。君の上にも確かに、正しく、力強く、永久の春が微笑めよかし…僕はただそう心から祈る。




焦らず、自分らしく生きるためにはどうすればいいのかを少しずつ考えていきたいと思わせてくれる1冊でした。









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