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生まれ出づる悩み


有島武郎 1918

(    悩める君へ )

中学生の君は作家である私を訪ねてきて、画を見てもらいたいと言う。私は君を高慢ちきな若者だと思ったが画を一目みて、あまりの素晴らしさに驚かずにはいられなかった。画の欠点はどこかと聞いてきたので、私がいくつかの指摘をすると「今度はもっといいものを描いてきます」言う。聞くと君は東京の学校に通っていたが、事情があって郷里に帰ると言う。そして君からは、その後、1、2度手紙が来ただけで消息が途絶えてしまった。
10年後、スケッチ帳が送られてくる。本物の芸術家のみが描き得る画。そして手紙。
10年前、君は芸術への熱意を抱きながらも、貧しい生活の渦に巻き込まれ漁師として生きなければならなかった。
私は君が漁師として一生を過ごすのか、それとも芸術家として生きるのがいいのか分からない。だが、この地球上の君と同じ悩みを持って苦しんでいる人達に最上の道が開かれることを祈った。地球は生きて呼吸をしている。私はこの地球の胸の中に隠れて、生まれ出出ようとするものの悩みを君から感じることが出来る。冬の後には春がくる。君の上にも春がくることを私は心から祈る。

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