万由子

理学療法士。パフォーマンスの向上や健康・ウェルネスのためのピラティスを提供している。 …

万由子

理学療法士。パフォーマンスの向上や健康・ウェルネスのためのピラティスを提供している。 大学院博士課程で身体感覚について研究中。

最近の記事

動作学から考える犬のしつけ

このnoteを最後に書いてからしばらく経っているのに、ぽつぽつとフォローをしてくださる方がいて、ありがたく思います。この1年は柴犬の子(犬)育てに明け暮れていました。わたしが犬を飼いたいと言ったものの、犬を飼うのは初めての経験。そして家族に迎えた柴犬はいかにも柴犬らしい、独立心が強く頑固な性格。子どもの頃からたくさん犬を飼っていた主人も、独特な和犬の性格に驚いていました。 犬のしつけの本やインターネットの情報、そして動物病院でのパピークラスで子犬のしつけについて教わって、い

    • 素晴らしい柔軟性

      おでかけをするのに、新しく買った靴を履いてしばらく歩いていると、履きなれない靴だからか右足のかかとに靴擦れができてしまいました。歩くたびに擦れて痛むのは嫌だなぁ、、とちょっと歩き方を変えてみると、靴擦れの部分が当たらない。これなら足を気にせずに歩けそう。こんな経験をしたことがある方もいらっしゃるでしょう。 こんな風に何かが起こっても、身体は自然と楽なように動きを変えて対処してくれます。わたし達の身体は自由度が高いため、神経系は環境や状況に応じて動きを調整してくれています。も

      • 運動の企画

        日常、何気なく行なっていること。たとえば、目の前にあるカップに手を伸ばしてコーヒーを飲むこと。多くの場合は意識されないですが、自分からどのくらいの距離にあって、カップの中身がどのくらいの量で、というのを予測した上で、それにちょうどいい力を発揮するための”運動の企画”が行われ、その行為が実行されています。カップに並々とコーヒーが入っている場合は、こぼさないように意識的にゆっくりとカップを口元へと運ぶことが多いでしょう。 わたし達の行動は、記憶や経験を元にして起こります。カップ

        • 筋肉が動く仕組み

          最近は脚気(かっけ)という病気をあまり聞かなくなり、その検査をすることも減ってきました。この検査は膝蓋腱反射と呼ばれるもので、膝のお皿の下にある腱の部分(膝蓋腱)をハンマー(打腱器)で叩いて起こる反応を見ています。経験したことがある人は、勝手に足が伸びた!と思ったことがあるかもしれません。 筋肉が腱となり骨に着いていく前の部分をハンマーで叩かれると、その筋肉がわずかに伸びます。筋肉には筋紡錘と呼ばれる長さの変化を感知するセンサーがあり、”筋肉が伸びたぞ!”という信号が脊髄に

        動作学から考える犬のしつけ

          動いているのは?

          電車の中。駅での停車中に窓から外を見ると、隣のホームに電車が止まっている。車窓が動き出したので電車が発車したのだろうと周りを見ると、乗っている電車のドアはまだ開いたまま。あれ?と思ってもう一度窓の外を見ると、隣の電車が発車して反対方向に走っていた。 そんな経験をしたことがありませんか? 視界に入っている物が動いたために、脳は”動いているのは自分”と勘違いをしてしまいます。これは、身体が動くと、それに伴って視野も流れるように動くという経験に基づいています。もちろん、いつも勘

          動いているのは?

          スマートなシステム

          レストランへ行ってメニューが500個もあると、嬉しい反面、選ぶのに迷ってしまいますよね。視覚、聴覚、触覚など全ての感覚情報を合わせると、毎秒4千億bit、つまり50Gbも脳へ流れこんでいるそうです。感覚情報も、多すぎてしまうと選ぶのに困ってしまいます。そのため、神経系は状況に応じて必要なフィルターをかけてくれているそうです。 前回見たように、神経を伝わっていく情報はどんなものも”活動電位”という形で伝わっていきます。この活動電位という情報は、一つの神経上では信号は減衰せず、

          スマートなシステム

          神経を伝わっていく情報

          指先に物が触れたという感覚は、感覚神経を通って脊髄へと入ります。脊髄に入った情報は、脊髄を上行し、脳の視床という部位を経由して一次体性感覚野へと伝わります。触れた部分が指ではなく肘だった場合、神経を伝わる情報は違った形へと修飾され「今のは肘、肘が触れられたよ〜」と変わるのでしょうか? 神経を伝わっていく情報自体は、活動電位と呼ばれるものです。活動電位はインパルスとも呼ばれます。指が触られても、肘が触れられても、温かいという情報であっても、筋肉が伸ばされたという情報であっても

          神経を伝わっていく情報

          迷走する神経

          自律神経の中でも身体を休めたり気持ちを落ち着けたりするために働く副交感神経の役目をする迷走神経という神経があります。迷走神経は脳から直接出ている末梢神経である脳神経の1つであり、脳神経の中で唯一腹部にまで到達する長い神経です。迷走神経は脳幹の延髄から起こり、咽頭や喉頭、心臓、 肺、食道、そして胃や肝臓、大腸の上部(上行結腸+横行結腸の一部)などへと枝を伸ばしています。 心臓や肺が入っている胸腔と、他の内臓が入っている腹腔は横隔膜によって分けられています。心臓から全身に血液を

          迷走する神経

          電気信号と化学信号

          様々な神経ネットワークは神経細胞の集まりから構成されています。1つの神経細胞は、細胞体と呼ばれる情報が入ってくる部分と、軸索と呼ばれる電気ケーブルのような役目をする部分からなります。軸索は神経線維とも呼ばれ、その太さや軸索を包んでいる髄鞘が神経伝達の速さに関係をしているということは前々回ご紹介しました。 1つの神経細胞内では、情報は電気信号として細胞体から軸索の終末へと向かって伝わっていきます。軸索終末は枝分かれをしていて、他の神経細胞と結合をしています。この結合の部分はシ

          電気信号と化学信号

          メンタルプラクティス

          先週ご紹介した動画TED-Edの後半の部分では、スポーツやダンスなどを練習する時に、鮮明に細かい部分まで思い浮かべて脳の中で練習をすることが効果的であることについて触れられています。一度定着した身体運動であれば、それをイメージするだけで強化されるということがいくつもの研究で言われています。そのような練習はメンタルプラクティス(mental practice)と呼ばれています。 メンタル(mental)というと、”心理的な、精神的な”という意味を思い浮かべますが、このment

          メンタルプラクティス

          神経の各駅停車と特急

          運動神経や感覚神経などの神経は軸索と呼ばれる電気ケーブルのような神経線維を通して情報が伝達されています。神経線維はその種類により、伝達速度が変わります。たとえば筋肉の長さを感知してその情報を脊髄から脳へと送る神経線維は伝導速度が早く、また触覚の中でも柔らかく絵筆でなでられるような心地の良い刺激は伝導速度が遅い神経を通って脊髄から脳へと情報が送られるとされています。 電線が太い方が電気信号がたくさん伝わるように、神経線維が太い方が神経の伝導速度も速くなります。電気ケーブルの絶

          神経の各駅停車と特急

          感覚神経の様々なタイプ

          先週は神経には運動神経と感覚神経があることをお話しました。今日は感覚神経の様々なタイプを見ていきます。 "かっけ"の検査で膝のお皿の下を叩かれると反射的に膝が伸びるのは、筋肉の中にあるセンサーである筋紡錘が関連しています。そして筋肉を骨へと繋ぐ腱にはゴルジ腱器官と呼ばれるセンサーがあります。筋紡錘は筋肉の長さやその変化率を、ゴルジ腱器官は筋肉の張力を感じとり、このようなセンサーからの感覚情報は感覚神経を通じて脊髄から脳へと伝わります。 筋紡錘やゴルジ腱器官からの感覚神経は

          感覚神経の様々なタイプ

          運動神経と感覚神経

          「運動神経が良いね」と聞くと、プロアスリートやオリンピック選手など運動が優れている人を想像するでしょう。神経生理学では神経は下の図のように分類されています。つまり、運動神経とは脳・脊髄以外の末梢神経系の中で、自律神経系ではない体性神経で、運動の指令を出す神経のことを指しています。 運動の場面では、サッカーでゴールが決まったとか、野球のピッチャーが三振を奪ったといったことが注目されます。シュートやピッチングは運動の結果であり、このような運動を起こすために脳は身体へ指令を出して

          運動神経と感覚神経

          戦うか、逃げるか

          はるか大昔、わたし達の先祖が動物を狩りに出掛けた時、天敵に出会してしまいました。 コマンド? 呪文が使えれば良いですが、現実世界ではなかなかそうもいきません。道具を探しているうちに喰われて命を落としてしまいかねません。「どうしよう!」と思っている暇はなく、考える前に攻撃を始めるか、走って逃げ始めなければ間に合いません。そのため、身の危険が感じられた時には、アドレナリンやコルチゾールというホルモンが放出され、戦ったり逃げるために適した身体の状態を作ってくれます。 これは闘

          戦うか、逃げるか

          脅威のバケツ

          痛みは脳への入力ではなく、脳からのアウトプットであり、わたし達が生きていく上で”安全かどうか?”を知らせてくれる大切なシグナルです。スポーツ選手の例にもあったように、痛みは文脈にも依存しています。このように、神経系は危険度に応じて痛みの感じ方を変えているようです。 この状況をわかりやすく説明した『脅威のバケツ』というものがあります。 (Zhealthより) このバケツに、睡眠や人間関係、仕事のストレス、栄養、動きのパターン、教育、エクササイズ、視覚的スキルなどが入ってい

          脅威のバケツ

          慢性腰痛には

          去年の春に腰を痛めて以来、ずっと腰痛を抱えています、という方がいらっしゃいました。重たい物を持ち上げた時にぎっくり腰を起こしてからは怖くて腰をかがめるような動きを避けているとのことでした。ぎっくり腰の原因が腰椎の関節だったのか、筋肉だったのか、椎間板にあったのか、はたまた別の要因だったのかは今ではわかりません。お医者さんに行っても画像所見は見当たらないとのことですから、ぎっくり腰を起こした時の組織の損傷も治癒をしているはずです。しかし痛みの原因となる組織の損傷が治癒した後、半

          慢性腰痛には