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慢性腰痛には

去年の春に腰を痛めて以来、ずっと腰痛を抱えています、という方がいらっしゃいました。重たい物を持ち上げた時にぎっくり腰を起こしてからは怖くて腰をかがめるような動きを避けているとのことでした。ぎっくり腰の原因が腰椎の関節だったのか、筋肉だったのか、椎間板にあったのか、はたまた別の要因だったのかは今ではわかりません。お医者さんに行っても画像所見は見当たらないとのことですから、ぎっくり腰を起こした時の組織の損傷も治癒をしているはずです。しかし痛みの原因となる組織の損傷が治癒した後、半年以上も経っても痛みが残り続けているということは、ぎっくり腰を起こしたところとは別の要因があるのではないかと考えられます。

先週、痛みは脳からのアウトプットであるとご紹介しました。痛みは侵害受容器からの入力の量には比例せず、侵害受容器からの入力があっても痛みを感じない時もあるし、逆に侵害受容器からの入力がなくても痛みを感じる時もあります。今回のような慢性的な痛みの場合、組織の侵害受容器への刺激が継続して入っているという状況もあるかもしれませんが、侵害受容器からの刺激がないにも関わらず、脳が痛みの知覚を生み出してしまっていることも考えられます。ぎっくり腰の痛みの記憶から、これは痛い、あれは痛いということばかりを考えてしまうと、患部の組織自体は治癒をしているのに無意識のうちに患部をかばった使い方をしていることは少なくありません。

身体を動かすと腰が痛むから運動はしないほうがいいと考えて動かさないようになると、身体はますます凝り固まり、筋力もなくなってしまいます。脊柱のすぐ近くで背骨を安定させてくれるために働く多裂筋は、腰部の組織の損傷の後、筋肉の萎縮や結合組織の変化、変性(脂肪浸潤)、そして筋線維の種類の変化(遅筋/速筋)などが報告されています。

知覚された情報を判断したり解釈したりすることは認知と呼ばれます。つまり、認知はものごとの受け取り方や考え方を表しています。慢性腰痛の治療に対して推奨されている認知行動療法も随分と一般的となってきました。自分の身体がどのような仕組みであるかということを知ること、そしてどのようにすると身体が痛くないのか、どのように動くと身体にとって良いかということを知って身体を動かしていくことが重要となります。これは腰痛だけはなく、他の症状においても大切なことです。痛みが脳からのアウトプットであるのであれば、痛みを改善するためには脳へのアプローチが必要となります。

<参考文献>
Kjaer et al.; Are MRI-defined fat infiltrations in the multifidus muscles associated with low back pain? : BMC Medicine 5(1):2, 2007

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