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ハノイのおっちゃん

映えよりも、旅先での一期一会が好きだなと思う人へ。


ハノイの旧市街地の東側を流れるソンホン川。
金曜朝の通勤ラッシュに、市街地へ向かってこの橋を渡るのは一苦労。


ハノイに着いた翌日の朝、ツアーに参加するためにローカルバスに乗って集合場所まで行くことに。


朝7:30。


外に出ると道路を埋め尽くす車と歩道にまで溢れ出るバイクの波。


東南アジアらしいとでも言えるのか、

信号はあってないようなもので、横断歩道のラインも消えている。皆ひっきりなしに流れる車とバイクの川の中に身一つで乗り出し反対側の道へと渡る。この数日で私もできるようになってきた。


バス停の場所が分からず、目の前に居た年配の警備の制服を着たおじいちゃんに、伝わらない言葉と身振り手振りで尋ねてみる。


「Bus? here?」

おじいちゃんは素敵な笑顔で頷いて、ベトナムではよく見かける、赤いプラスチックの小さな椅子を差し出してくれた。

「そうだよ、いいからここに座って待ってや!」

こんな感じだと受け取った。

なんて優しくて可愛いおじいちゃんなんだ!

道路から湧き出るバイクと交通渋滞に圧倒されつつも、少し安心して、しばらくそこで待ってみる。



しばらくして気づいたこと。

ここにはバス停の表示も何もない。


そこで、珍しく徒歩で通りかかった、私と同じくらいの背丈の目がギョロッとしたおっちゃんに、同じようにして、ここはバス停かと尋ねる。


反応が薄い。

なんとなく伝わっていないような。


「バス」という単語が多少の発音の違いがあるにせよ、世界共通語なのだと信じて叫び続けていた私。

しかし、それは違うのだと悟った。


急いでGoogle翻訳を取り出し、ベトナム語を登録し、今度はスマホの画面を見せて、再度そのおっちゃんに、ここはバス停かと尋ねると、

「あぁーちがう!」という表情。

そして無言で「こっちへこい!」と言うように手を振って、バイクの川の中へと私たちを誘導してくれた。

おっちゃんありがとう!


今回はおそらく大丈夫だろうとおっちゃんに付いて行くことに。


異国の地にお邪魔して、自分はなんて無知で傲慢だったのだろう。

英語がちょっとできるようになったからといって、日本を出たらみんなが英語を当たり前に使うわけではない、という当然の事実に今更ながら気づく。

数日間の旅行とは言え、ベトナムに来て、ベトナム人に英語で話しかけ、伝わらないことを不満に思うことを、私はしたくないと思う。

そんなことを猛反省しながら、あのカオスの中、おっちゃんに身を委ねて付いていった。


言葉は全く通じないが、

向かってくるバイクをものともせず、ずんずんと進んでいくおっちゃん、かっこいい!


そこに、私が乗りたい43番のバスが!!

これは伝えねば!

と再び、Google翻訳に入力して画面を見せると、「ああこれはもうダメ」という。

ツアーの集合時間に間に合わないかもしれないことが心配で、バスに乗れなかったことに激しく落胆する。

そしてまたどんどんと川の中を進んでいくおっちゃんに付いていく。




10分ほどずんずんと行ったところで、また43番のバスが通りかかるのが見えた。

しかしまだバス停は見えない。

ああ、また逃すんだ。


そう諦めたとき、おっちゃんが手を上げてバスを止めてくれた。

バスのドアが開くと、おっちゃんは運転手に何かを伝え、

「ほい、乗れ」と言うようにバスの中を指差す。

ああ、なんて優しいおっちゃんなんだ!

私とバスとの間にはバイクの川が流れていたけれども、

そんなことは関係なく、おっちゃんは私の背中を押して早くバスに乗るように促す。

轢かれるって!まだ危ないって!

と心の中でつっこみながらもなんとか川を渡り、おっちゃんに全力でThank you! と伝えた。



あああ、ありがとうくらいベトナム語で覚えておくべきだったとこの旅行最大の後悔。
(バスに乗って秒で調べた)


それでも無愛想に笑って手を振ってくれたおっちゃんの温かさが嬉しくて涙が溢れそうになった。


「Excuse me!」では振り返ってくれないけど、

「おっちゃん!」の呼びかけにはなぜか振り向いてくれる。


おっちゃん、かっこよかったなあ。

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