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ミュージカルが日本で重要な次なる産業になる理由とは?

芸術産業は、なぜ投資を受けることが難しいのだろうか。
芸術やエンタテイメントは産業としてもっと成長できないだろうか?

今回はミュージカルのプロデュースを手掛け、「ブルーマン・グループ」の社会・経済的成功に導かれた出口最一さんにお話をお聞きする機会を頂きました。

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●NYを熱狂させた「ブルーマン・グループ」のプロデューサー、出口最一さんとは?
元々は日本で俳優活動をされ、
当時倍率が80倍の劇団四季で数多くの公演に出演し、人々を魅了した。

その後アメリカに渡ってニューヨークの劇団で仕事をするうちに、日本の演劇に限界を感じるようになった。日本のミュージカルで代表的なものは海外から輸入したものが多く日本産のオリジナルのものがほとんどないのは残念だと思い、俳優からミュージカルのプロデューサーへと転身した。

日本から世界で通用するミュージカルを作って輸出する仕組みを作りたいと思い、
プロデューサーとして活動を決めた。結果、「ブルーマン」や「TRIP OF LOVE」を製作するきっかけとなる。

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●日本とニューヨークにおけるプロデューサーの役割の違い
プロデューサーの役割とは何か。日本のプロデューサーと大きく役割が異なる。日本のプロデューサーはサラリーマンとしてリスクを取らないが、ニューヨークではオリジナルの演目を開発し、ブランディングやPRだけではなく、ミュージカルを開催する費用まで集めなくてはならない。全リスクを背負う1起業家だ。

実はミュージカルは多額の資金が必要だ。ブロードウェイは最低でも15億円を集めなくてはならない。
出口さんはこの費用を個人投資家などを説得し、集められた。ほとんどの投資家には断られてしまったが、諦めずに資金を集めた。日本の投資家だけではない。中国・アメリカ・シンガポールなど世界中の投資家にミュージカルの意義を説明し、資金を集め、公演を開催された。

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●ミュージカルとベンチャー企業は似ている
そもそも、投資家はミュージカルに出資したお金を回収できるのだろうか。そう疑問に思う方が多いだろう。特に日本だとベンチャー支援の出資先としてミュージカルがある事はあまり知られていない。ベンチャーキャピタリストは、IT、AIなどトレンディーなハイテクに目が行く。
だが実は新しいミュージカルの製作事業もベンチャー企業のようなもので、成功すればきちんと投資した分が何倍にもなって返ってくるのだ。

例えばチケット1枚を1万円、週8回の公演とすると売上が週で約1億円、これが52週間続くと年間約50億円の売り上げになるのだ。
ミュージカルの1年目は得たチケット代を投資して頂いた分をお返し、2年目からはミュージカルの利益とした。
これが大ヒットすると、同時に世界で40箇所を超えて上演される。この時点で年商50億円の掛け算が始まる。更にロングランの意味は、その掛け算が毎年倍増し続ける

●ミュージカルと映画
ところで、エンターテイメントと言えば、ミュージカルより映画を思い浮かべる人が多いだろう。実は映画は映画館での上映期間が短い。他方でミュージカルは、何十年も劇場で上演が続く事がある。
世界中で上映されているミュージカル「ウエスト サイドストーリー」はなんと60年以上も再演が続いている。

またあまり知られてない事実だが、映画「スターウォーズ」よりも、実はロングランを30年も継続中のミュージカル「オペラ座の怪人」の方が興行収入は多いのである。これは、観客のリピーター達が支えている点に注目したい。

にもかかわらず、ミュージカルに投資するベンチャーキャピタルや個人投資家は少ない。ミュージカルは産業として成り立つはずだが、産業として育てようと考えている人は残念ながら少ないのだ。また、それを金融界に説得できるエンタメ関係者が皆無に近く、グローバルに考えるアメリカ式プロデューサーは殆ど存在しない。
日本でもミュージカルはもっと流行すべきであるし、産業として、投資先として大きく認知されていいのではないだろうか

ミュージカルが産業として栄える事には意味がある。ミュージカルがヒットする事で、他のクリエイティブ産業も活性化するからだ。デザイナー、舞台照明機器、衣装、演出、作家、作曲家、振付家、ミュージシャン、イリュージョン技術等。またミュージカルから、映画が生まれることもある。

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●ミュージカルの注目すべき点
日本だけではなく、世界各地で公演がされるようになる可能性があること。
普通の企業が様々な国に展開する事は難しいが、ミュージカルではそれが可能となる。世界にフランチャイズが出来る事だ。現在の東京でのミュージカル公演は、ニューヨークやヨーロッパから買い付けてきた作品群で、元祖オリジナル作品プロデューサーの全世界展開ビジネスプランの中で、東京支店を受け持つことになる。

●今後日本のミュージカルはどう変化すべきか?
日本らしさというものに拘ることなく、グローバルに通用するミュージカル制作に取り組む必要がある。CATSが正にそうだ。
現在制作をリードするプロデューサーが少ないのも問題である。具体的には、舞台製作以外に資金集め、広報、マーケティングを全て行えるプロデューサーが少ない。また日本国内だけで展開しようとするのではなく、初めから「世界規模」で考えて戦略を立てられる人を増やすべき

●ミュージカルの醍醐味とは?
今は、世の中ネットで閲覧できる映像コンテンツが溢れている。
それも面白いしハマる人も多いだろう。だが、ミュージカルには「ライブ」ならではの魅力がある。ミュージカルは観ている人は、実は体験をしているのです。
例えば、隣に座っている人が泣いていたら、自分もその影響を少なからず受けますよね。観客が立ったり、会場が拍手で響いたり…会場全体が観客によってつくられているのです。いわば、会場全体が作品のようになるライブには毎回違う感動があるのです。

ミュージカルってリピーターがとても多いのです。「レ・ミゼラブル」などはその良い例で、何度も同じ公演を観に来る理由は、ライブならではの魅力があるからだと思っております。人間の心の波動の集合体の芸術商品、AIにはまだ追いつかれません。

●今後AIが普及する中で、人間性が問われる
AIが普及し、便利な世の中になっていくにつれて「人間性」が失われていくと思うのです。
せっかく動けるのに、部屋のから外出しなくなったり、人と接することが少なくなる人が増えると思うのです。
私は人間性とは、「生きる」というサバイバルをする中で培われるものだと思っております。昔の世界なら、ジャングルの中でどうするか、常にサバイバルをしていたと思うのです。サバイバルとは、現実世界で「困難に立ち向かいながらも生きていくこと」ですね。ミレニアム世代には、ここが特に要。
今は世の中が便利になり過ぎて、サバイバルしなくてもよくなってしまった。
部屋に閉じこもり、外の世界へ飛び出すきっかけを失ってしまった。
ミュージカルは、外の世界へ飛び出すきっかけを与えてくれる場だと思うのです。ミュージカルという「ライブ」ならではの魅力は、会場で観ないと体感できない。生の心の波動を揺さぶるパワースポットとしての劇場。古代ギリシャの円形劇場から5千年たった今でも、全く滅びていない劇場でのライブ・エンタテイメント産業は、今後も末永く生き残るだろう。

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●出口さんにとってアーティストの存在とは?
いつの世もアーティストとは世の中を創造していく人達です。
それは「神のわざ」を人間がやることであり、アーティストは神々のメッセンジャーだと思います。
そもそも、無の発想から絵を描くことは誰でも簡単にできるわけではないです。
「〇〇を描きなさい」と「実際にあるもの」を対象に指示を受けたら、誰でも絵を描ける。できる限り写実的に、現物に近いような絵を描くだろう。

何も指示されなくとも、
独自に絵を描けるのがアーティストだ
と思う。
アーティストのインスピレーションは、現実にはない世界、空想の世界にコネクトした時に生まれる

青空、土、自然と一体になる。宇宙と一体になるようなイメージで。目を閉じて、現実を遮断する。
瞑想をし、自分の世界に入る。
自分を取り戻す。

そして受け取ったメッセージを表現する。夢で見たものを具象化する作業ができ、地球上にそのイメージを出現させる力、それがアーティストであると思っています。

<最後に>
多額の資金調達に成功しているスタートアップ企業は「AI」「VR」「ブロックチェーン」などの技術を駆使しているところが多い。「5G」のすぐ先は「6G」でしょう?でも、今から5年後どれもどうなっているか、全くわからない技術の激しい競争ですよね。横文字にカモフラージュされて、先の実態経済の見えないビジネスです。過去に「オンライン」、「CG」、「デジタル」、「ソーシャルネットワーク」の文字が同様に酷使されました。また現在の大きな資金は、CDSやCLOなどの金融商品という名の実態の見えないものに流れています。
私は恥ずかしながら、今まではミュージカルが金融界の方々の投資の対象になる事は難しいのではないか、と思っていました。ですが、ミュージカルは産業として今後の大幅な成長が可能となる分野であり、投資に対して十分リターンが見込まれると思いました。

チケットの売り上げを世界規模で考え、上演の寿命年数を数えるロングテイル金融商品だと

これだけAIが人間に取って代わる時代が来たからには、本物の人間は魂の回帰を叫ぶのでしょう。だから潜在的ビジネス価値は大です。ロボットは感動を求めません。

ミュージカル「シカゴ」は1976年から上演が始まり、現在もなお続いております。数十年続くサービスは世の中にどれだけあるでしょうか

おそらく、ほとんどのサービスが1976年と比べて変化したりなくなっていると思います。ですが、ミュージカルは同じ公演にも関わらず、ずっと上演をし続けているのです。それも世界各地で

時代が変わっても普遍的価値を持つものがあると私は思いますが、その中の代表例がミュージカルだと思っております。

激動の時代に生きているのでつい目新しいサービスやものに気を取られてしまいがちですが、普遍的に価値あるものを価値として認め、そして実態の伴う、日本の新産業としても育てていくように、オリジナル・ミュージカルを製作できるエコシステムを構築していくことが次の世代へ時代を繋いでいくうえで必要だと思います。

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【取材 プロフィール】
出口最一さん(でぐちまこと)/演劇プロデューサー
劇団四季で俳優活動後、ニューヨークに渡りサークル・レパートリー劇団に入団。演出と舞台製作を学びプロデューサーに転身。1991年にニューヨークのアスター・プレイス劇場で「Blue Man Group: Tubes」をプロデュースして大成功し、ドラマデスク賞を受賞。作品は現在も続くロングランとなる。2008年には、ブロードウェイ・ミュージカルのトライアウト公演「TRIP OF LOVE」を大阪で上演し、同作品を2015年にニューヨークのSTAGE42で11ヶ月のロングラン公演を実現。ブロードウェイ舞台演出振付協会からジュー・A・キャラウェイ賞を受賞。2019年春、全米放送のCBSテレビ・ゴールデンタイム番組「The World’s Best」という世界規模のタレント・オーディション番組に国際審査員としてレギュラー出演。現在は、エンタメ・ファンドを企画中。makotodeguchi.com

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