本当に欲しいものは手に入らない私が選ぶのは路地裏のジェラート
ほとんど仕事をしていない8月。ほとんどずっとベッドで横になって過ごしてる夏休み。ほとんどごはんを食べない今週。それでもコーヒーと冷たくて甘いもの、そして映画とNetflixだけは。私にとっては毎年つまらないお盆も、今年はきっとみんなつまらない。
銀座。歩行者天国の銀座。今日一番の目的にしていた老舗のかき氷屋さんは茹だるような炎天下の中あまりにも行列で、代わりに少し角を曲がった路地裏でジェラートを。ああ、こんなのってまるで私。本当に欲しいものはいつも順番待ちで、並ぶ前から諦めてしまって。結局楽な方を選んでしまうけど、ううん、「楽」だなんて隣にいる君に失礼だね。ジェラートもちゃんとおいしい。ちなみに、クリームチーズ味。
さっき待ち合わせ場所にすとんと立ったときにふと蘇った思い出。銀座三越のライオンはきっと私だけじゃなくてみんな思い出がある。大きなマスクをしたライオンはなんだか可愛い。いつも30分以上遅刻してきたあの人も、遅れてごめんねってくしゃっとした顔で言われると可愛くて許してしまったっけ。許すのが、楽だったんだ。許すのは簡単で疲れなくて楽だというのはあの人が教えてくれた。雨の日でも、新しいパンプスで靴ずれした日も、結局待ち合わせに来なかった日も、私は許したのだった。諦めたんじゃなく、許したのだと思いたかった。そんなあの人のことを思い出しながら歩くのが速い君の背中を見ると、あの人と君は全然どこも似ていないのに同じ香りがするようだった。
銀座シックスのジョーマローンは銀座らしくないしジョーマローンらしくもなくてあまり好きじゃない。フレグランスを買いたいと言う君に付き合って店内に入るも落ち着かない。君があまり迷わずに選んで購入した香りにも落ち着かない。それ、私がいつも使ってるのに。なんでそれ選んだの?なんて聞きたくはない。
駅のホームへ下るエスカレーターでそっと腰を抱き寄せられるのが好き。抵抗せずに私も大きな身体にもたれかかった。そのままキスしちゃいたい気もしたし、反対側へ帰る二人、そのまま君と同じ電車に乗ってしまいたい気もした。ちょうど君の電車がホームへ滑り込んでくる。ねぇ、ついていってもいい?簡単に言えるはずなのになぜか喉に引っかかって声にならない。二人の香りだけ一瞬重なってさようなら。同じ香りなのに混じらないその香りは、君を乗せて再び動き出した電車が残したあの地下鉄特有の生ぬるい風になって消えた。
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