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#4 ドレス縫製職人になったときのおはなし


前回のおはなしで、パタンナー職で応募したのに、縫製職で採用?

と思われた方もいらっしゃいますよね。

ちゃんと理由があります。


最初に募集がかかっていたのは、デザイナーか、パタンナーでした。


実は私、絵は描けるのですが、デザインすることはかなり苦手で。

高校生で衣装を作っていた時は描いていたのに、昔ほどポンポンとアイディアが浮かばず。
さらに文化では、かなり個性的なデザインをする人たちがうじゃうじゃいたので、何を描いても私のデザインは平凡にしか見えず、何かを参考にすると影響されすぎるし、何も見なければ何も浮かばないしと、デザインすることが苦しくて仕方ありませんでした。
また、デザイン画も一枚一枚すごく時間をかけて丁寧に描く癖があって、ササッと描くこともできなかったので、総合的に見て、「あ、私はデザイナーには向いていないんだな」と早々に割り切りました。

それに、デザインよりもずっと、パターンをひいたり、実際に縫う方が好きだったので、もともと希望職種はパタンナーか縫製職でした。


なので、デザイナーかパタンナーかの二択で言ったら、パタンナーか。と思って、応募してみたのですが…


面接の時、デザイナーさんが私のポートフォリオと、その時持ち込んだ今までのデザイン画と作品を見て、


「縫製職も興味ない?あなたはもしかしたら縫製の方が向いているかもしれない。パターンと縫製の実技試験、両方やりませんか」


と突然言われたのです。
もともとパターンより縫製の方が好きだったし、この際パタンナーでも縫製でも採用してもらえればいい!という野心から、

「やります!!」

と即答しました。

両方の実技試験を終え、後に聞いた話だと両方とも問題はなかったようですが、
やはり私の作品ににじみ出ていた、私の繊細な仕事ぶりや性格から、縫製職が良いと判断されたそうです。

厳密に言えば、パリのオートクチュールアトリエで働いている人が皆そうであるように、パターンも縫製も両方できる人がほしくて、私はそうなるよう育てていこうと思ってくださっていたようなのですが。



そして晴れて、私はドレス縫製職人の一歩を踏み出しました。


はじめてのお仕事は、ドレスのスカートにお花を手縫いでつけるお仕事。

これがなんと、1〜2週間ずっと同じ作業。
やる場所によっては、一日中立ちっぱなし(一点から動かずで)を何日か連続、ということもありました。

足も肩も痛くて、最初の洗礼みたいな気がしましたね。

でも、同じことをずっとやるということに対しての苦は全くありませんでした。

むしろ、どんどん手が早く、キレイにつけられるようになったり、効率よくするにはどうしたらいいかと考えたりするのが楽しくて、1日があっという間に過ぎました。

何よりも、触っている材料やドレスのデザインがかわいかったし、一つ一つ手でつけるという作業が、本当にオートクチュールのやり方だなと感じて、夢が叶ったんだなぁと、とても幸せでした。


それから、一着分の生地を裁断するだけで2〜3日とか、スカートのレースをつけるのに3週間とか、一人で丸縫いすると裁断から仕上げまで一着1ヶ月半とか、普通の洋服とは色々規模が違うため、時間がかかるのは当たり前のことなんだと、いうことを知りました。
同じ位置に立ちっぱなし作業も、慣れてしまえば全然疲れなくなりましたよ!
それより、立体でレースつける方が腕を上げての作業で肩が悲鳴をあげていましたね。

華やかに見えるけど実際は地味で、忍耐がないとできない仕事だと思います。

「細かい作業をするのが好き」とか、「単純作業が好き」という人はたくさんいますが、思っているのと実際やるのでは全く違います。

更にウェディングや、オートクチュールのドレスには、美しさが求められます。

一商品の価格単位が何百万となるからです。

優先順位としては、

丁寧>効率>速さ

というかんじです。私は、

愛情>丁寧>効率>速さ

だと思っていますけどね。
いかに愛情こめて作業ができるかって、結構大切なことなんです。
この異常なドレス愛についてもまたいつか。

効率と速さは違うの?と思われると思いますが、私は別物と考えています。
効率よく作業しても、手が遅かったらそれは速いとは言えないので。
逆に手が速くても効率が悪ければ結果遅くなることもあるので、効率の良い方法を見つけることはとても重要になってきます。
私はこの効率と速さが結構弱点なんですが…




とにかく、ドレスの縫製は私の天職でした。

学生の時から、ジャケットやパンツを作るよりもずっと、ドレスを作る方が楽しくて上手にできていたし、

実務を経験することによって、それが確かなものなのだと、改めて感じました。



好きなこと=向いてること



って、奇跡的なことだと思っています。


先ほどお話ししたように、一着にかかる時間が膨大なものですから、1年間で製作するドレスの量も、そんなに多くはありません。
1年間に何十着、何百着縫う普通のアパレルや舞台衣装の縫製の人に比べたら、様々な素材に触れる機会も少ない方だったと思いますし、速さだって遅かったと思います。(10年以上経歴のある先輩方は速かったですけど!)
ほとんどが一点ものなので、量産と違って毎回毎回、試行錯誤しながら仕上げるという感じでしたしね。

ですが、逆にいうと、一着に対して時間をかけることで、本当に丁寧なモノづくりをしていたんです。

この日本で、それだけ贅沢に時間を使ってドレスを製作する会社って、ほとんどないと思います。(小さいアトリエや、個人でやっている方はいるかもしれませんが)

有名ブランドでしたので、お値段も他のブランドのウェディングドレスより頭一つでていましたが、それだけの手間がかかっていると、今は自信を持って説明できます。


新卒採用の、私にとって社会人として一社目の会社でしたが、
こんなにも早く理想の仕事に巡り会えて、本当に運が良かったと思いました。




ですが…




こんなにも恵まれているのに…




私は少し物足りなさを感じてしまうようになるのです。



よく例えられる例でいうと、東大に入ることが目標だった学生が、実際東大に入ったら何をしたらいいかわからない、となるような。

達成したことだけに満足してしまうという気持ちだったり、
次の目標が明確にならなくて不安があったり。


正直、自分でもそんな気持ちになるとは思っていませんでした。
技術を身につけるためには、最低でも10年は一つのところで働かなくてはいけないと、考えていましたから。


環境もあったかもしれません。

働いていた場所は、ワンルームの小さな部屋で、仕事をするのも食事をするのもその部屋、縫製室で働いていた人数は2〜3人で、たまにパタンナーさんやデザイナーさんが来るだけで、外部の人はもちろん、社内の他の部署の人とすらほとんど接触することはない、閉鎖的な空間でした。

その環境は、もっとも繊細な仕事をする縫製の私たちが作業に集中できるようにするため、という配慮だったようなので、閉鎖的と思っていたのは私だけかもしれませんが、
そんな環境の中で、10年、一つの会社しか知らず、変わり映えなく、人との出会いもなくやっていけるのか…?と不安になってしまったんです。


本当に真剣に技術を身につけようとしている人なら、そんな環境だって関係ないのかもしれません。
私の覚悟が足りなかったというのも自覚しています。


他の会社を経験してからの、今の会社だったらまた違ったかもしれません。
この世界だと、転職して、ようやく理想の仕事と出会う人の方が多いでしょうから、そうであったらもっと違う覚悟ができていたかもしれません。



仕事で大きな変化がないのなら、プライベートを充実させようと、婚活をした時期もありました。

結婚して子供を産むことも、私の夢の一つだったからです。

最終的には家族がいて、家で仕事をするのが理想でしたからね。

25、6歳で婚活するのはだいぶ早い方だったようで、若かった私はモテました。
初めてのモテ期到来。
ですが、結婚だって、妥協してできるものではないので、そんな簡単に、生涯連れ添う人を決めることはできませんでした。



そんなこんなで色々上手くいかなくなって、
仕事は順調でしたが、心の空虚感は埋まらず。


少し病みかけたことがありました。

死にたいとは思わないけど、明日死んでもきっと後悔しないな。
好きなことやってきた人生で、夢も叶ったし、両想いの恋も経験したし、今死んでも両親には申し訳ないけど、困る人は誰もいないもんな…

なんて。暗いですね。


ですが、完全に病まなかった理由は次にあります。


あとやり残したことって何かな。
結婚と出産はもちろんしたかったけど、一人でどうこうできるものじゃないし、
一人でできることでやり残したこと…
それはやらなきゃ後悔するだろうな…





あ、私、フランス行きたいと思ってた。


学生の時から行きたいと思ってたし、仕事してる中で、レースとか刺繍とかに触るのが一番好きで、フランス刺繍やってみたいって思ってた!!




スイッチが入ると即行動、というのがこの私。

やりたいことがなかったらそのままだったかもしれません。

27歳秋、彼氏なし

両親共健康で、新しいことに挑戦するなら若いうち。

私を縛るものが何もない、今が海外に飛び立つ絶好のチャンス!!



ということで、退職を決意しました。


あっさり言いましたが、それまでに色々葛藤はあったんですよ。笑
本当に、仕事内容は大好きでしたからね!

デザイナーさんにも、鈴木さんにはここでの仕事が本当に向いてると思っているよと、引き留めていただけたのも、とても嬉しかったです。

私の力を認めてくださっていたということですから。



それでも私は前に進みたかったのです。

3年の実務経験は少ない方だと思うので、今後転職するときの足かせにならないかという不安もありましたが、
人生は一度きり、明日何かが起こって死んでもおかしくないこの世の中、やりたいと思ったことをやるのが一番だと、
アラサー女子ながら現実を度外視した一歩を踏み出すことを決めました。




次のおはなしで最後になると思います。
もうしばらくお付き合いくださいませ。

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