澄んだブルーの瞳の先

NちゃんからLINEが届く。


「Mさん家の猫ちゃんが急死しちゃったんだって…。」


誰かさんは(=私)実際にその猫ちゃんとは会ったことはないが、
画像1枚でヒトを魅了する美しい猫ちゃんだった。
全身にビロードのような毛を纏い、澄んだブルーの瞳が印象的だった。

動物たちは知っているのだ。
最初からこの世に境界線なんて存在していないことを。

いや、実は知っていないのだ。

ただただ淡々と鼓動を刻み、天寿を全うしたという事実がそこに残っているだけなのだ。

『そこに事実が残っているだけ』と認識できるのは人間だけである。

動物は本能的に死期を感じ取ることはあるが、
理性的に生き死について、あーだこーだと考えない。

あーだ、こーだ。
あーで、そーで。
どーの、こーの。
なんで、そんで。
そんで、こうで。
どれが、あれが。
これが、それが。
まるで、それで。
うざい、きらい。
きつい、つらい。


ふかい、せかい。

世界、不快。

たった30秒でこんなにも理性が羅列される世界はなんて残酷なのだろう。

1㎜も思考しないシンプルな本能のみの世界に憧れる。
とてもシンプルで、理想的な終え方。
羨ましくも思うし、脆さも感じる。
そして儚さを超えた美しい瞬間にやはり憧れる。

0歳以前に戻りたい∞
なのに否応なくこの世に爆誕してしまった。

爆誕したという事実が生まれてしまった。
そして今キーを叩く誰かさんがここにいる。

ヒトは『得体の知れない境界線』から目を背け、今日も忙しく宙に浮いたスニーカーやヒールやサンダルを履いて歩く。
歩きスマホしながら。

何見てるの?
そこに何があるの?
楽しいの?
心の底から「いいね!」押してるの?

斜めな心で世間を眺めるカメラマンのように、
誰かさんは生身の目でシャッターを切る。
切る。切る。切る。切る。切る。KILL。


めんどくさい。
しんどい。
あつい。
さむい。
だるい。
きつい。
つらい。


「なんで産んだ?」

「それが、当たり前の時代だったから。」


当たり前の時代ってなんだ?

当たり前という概念はなんだ?

なんでそこに疑問を抱かなかったのかを、
否応無しに理性を与えられた、誰かさんは不思議に思う。


お腹空いた。
喉、渇いた。
ゲリラ豪雨。
傘をさす自分にせせら笑う。

今日も誰かさんは、宙に浮いた空虚なスニーカーを嫌々履いて、
今にも煮えたぎりそうなグレイのアスファルトに目を落とし、
あらゆるものに接触しないよう細心の注意を払いながら歩く。

矛盾の世界で。
理性と対峙しながら。


そんなお話。

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