シェア
松野志部彦
2021年6月20日 20:12
吹き抜け式の待合ロビーには秋の陽射しが満ちていた。縁起でもないことに、俺にはそれが天国の入口みたいに思えた。それくらい幸福そうなムードだったのだ。 頻繁に病院を訪れていると、そのうち誰が患者で誰が見舞い客か見分けられるようになる。まぁ、服装で判別はつくのだけど、それ以前に表情や仕草ではっきりしている。おおまかに言えば、リラックスしている奴が患者で緊張している奴が見舞い客だ。この差はたぶん、どの
2021年5月6日 08:40
わたしにとって、十七歳という年齢はもっと神聖で眩しいもののはずだったのに、いまこうして十七歳の終わりに振り返ってみると、なんとみすぼらしい一年だったのか、と愕然としてしまう。 十八歳の誕生日まで、あと五分を切っていた。 真夜中の時計は普段よりも精確に時を刻んでいる気がする。一秒、二秒、と時間が降り積もっていく様子が、肉眼で見えるかのようだ。それはいつも、火葬場の棺に残された遺灰の山を、わた
2021年5月5日 09:26
ロビーで一服つけていると、待合ベンチに見覚えのある男が座っているのに気がついた。飲み終えたコーヒーの紙コップを捨てにいく間に、その男のことをなんとか思い出せた。高校時代の友人だ。「久しぶり」と声をかけると、彼はぶたれたように目を瞠って俺を見つめ返した。十五年ぶりの再会だったが、どうやら思い出してくれたようだ。「あぁ」と溜息のように漏らしてから、「久しぶり」とひっそり笑った。昔と比べてかなり太っ