松野志部彦

ネットでは主に掌編~中編の小説を執筆・投稿しています。 Pixivでも同名義のアカウン…

松野志部彦

ネットでは主に掌編~中編の小説を執筆・投稿しています。 Pixivでも同名義のアカウントで活動しています。 座右の銘は『誤解されているうちが華』。 ほんと、元気が一番。 ※作品の無断転載等は厳禁です。

マガジン

  • マ・ツノワ・ダ・マーレ

    なんか変なタイトルがついていますが、ただの雑記や報告などです。

  • 小説:短編

    4000字~20000字以内の作品を格納します。 ちょっとお時間があるときにどうぞ。

  • 千字幻想 ~Land of 1000 Words~

    1000字以内のショート・ショート集です。 ある企画へ参加したのを機に、数年前から本作業の息抜きで書き始めました。 Wordソフト換算での1000字以内であり、note換算では1000字を超えているかもしれませんが、そこは御愛敬で……。 ※表紙はAI作成です。良い時代ですね。

  • 小説:中編

    20000字~80000字以内の作品を格納します。 かなりお時間があるときにどうぞ。

  • 小説:掌編(ショートショート)

    4000字くらいまでの短い作品を格納します。 お気軽にどうぞ。

最近の記事

【短編】ワタネズミ

 ほかのすべての生物と同じように、ワタネズミもまた、熾烈な生存競争をくぐり抜けてこの世に存在する。それはつまり、生命と呼ばれるものがみな暴力に呪われている証だ。いかにも争いと無縁そうなこの生物でさえそうなのだから、有史以来の人間が殺戮をやめられないのもしかたない話かもしれない。  とは言いつつ、僕はまだワタネズミたちの争いを目にしたことがない。周囲の状況を観察し、恐らくここで殺し合いが繰り広げられたのだろうと予感させられるばかりである。仕事で不在にしていたとき、またはぐっすり

    • 本日、『カプセルストーリー(3分間のまどろみ)』(Gakken)というアンソロジーが電子書籍で刊行されました。 https://amzn.asia/d/2clBy5S 緑ジャケ版には『サマーカード』という作品で参加しております。 お求めは各電子書籍販売サイトからお願いします。

      • 本日、『カプセルストーリー(3分間のまどろみ)』(Gakken)というアンソロジーが電子書籍で刊行されました。 https://amzn.asia/d/eLZcCuy 青ジャケ版に『カモメのリレー』という作品で参加しております。 お求めは各電子書籍販売サイトからお願いします。

        • ストックしていた過去作が多めでしたが、気づけば30作も投下していたので、1000字シリーズはいったんこれで終わりにします。 明日から、もう少し長いお話を水面下で書く生活に戻ります。 また1000字作品がたまってきたら投下します。 お読みくださった方々、どうもあざっした……。

        【短編】ワタネズミ

        • 本日、『カプセルストーリー(3分間のまどろみ)』(Gakken)というアンソロジーが電子書籍で刊行されました。 https://amzn.asia/d/2clBy5S 緑ジャケ版には『サマーカード』という作品で参加しております。 お求めは各電子書籍販売サイトからお願いします。

        • 本日、『カプセルストーリー(3分間のまどろみ)』(Gakken)というアンソロジーが電子書籍で刊行されました。 https://amzn.asia/d/eLZcCuy 青ジャケ版に『カモメのリレー』という作品で参加しております。 お求めは各電子書籍販売サイトからお願いします。

        • ストックしていた過去作が多めでしたが、気づけば30作も投下していたので、1000字シリーズはいったんこれで終わりにします。 明日から、もう少し長いお話を水面下で書く生活に戻ります。 また1000字作品がたまってきたら投下します。 お読みくださった方々、どうもあざっした……。

        マガジン

        • マ・ツノワ・ダ・マーレ
          9本
        • 小説:短編
          8本
        • 千字幻想 ~Land of 1000 Words~
          30本
        • 小説:中編
          1本
        • 小説:掌編(ショートショート)
          8本

        記事

          【1000字】身も蓋もない話

           小川のほとりで少年たちが決闘している。枯枝を剣に見立て、いかにも幼いごっこ遊びだが、本人たちはいたってまじめだ。お姫様役の少女は樫の木に登って腰かけ、退屈そうにあくびをする。早く帰ってネイルを塗り直したい、と考えている。  その少女の頭上に、じつは蜂の巣がぶら下がっていることを誰も知らない。知っているのはあなただけで、だから、あなたはページをめくる手を止められない。この物語が悲劇の結末を辿るのか、喜劇として終わるのか、それともノスタルジィを呼び起こす風景のスケッチでしかない

          【1000字】身も蓋もない話

          【1000字】忘却の波打ち際で

           夜明けの海辺は、銀色の朝陽が昇るにつれて饒舌になり、まるで世界中のすべての音がここから生まれてくるかのような賑やかさだった。僕たちは靴を脱いで波打ち際に立ち、まだ冬の余韻を残す白波で足首を洗う。 「ねぇ、ここに名前を書いてみない?」  彼女が提案し、僕も頷いて屈みこむ。波が引いた砂浜にふたりで指を走らせる。彼女の名前と僕の名前。親から授かった、というよりは、世界から与えられた識別子。良くも悪くも簡潔な、十にも満たないその文字列。 「次の波が来たら、消えちゃうかな」  彼女が

          【1000字】忘却の波打ち際で

          【1000字】2101年、流氷の旅

          「旅の途中なんです」とペンギンの店長は言う。「故郷の北極を出て、南極に行こうと思い立ちまして。ほら、温暖化で氷も少なくなってますから」 「ペンギンは南極の動物じゃなかったでしたっけ」  ヒヒが指摘すると、ペンギンは笑顔のまま黙り込む。サイとゾウは声を潜めてお喋りしている。みんなが僕を見ている。それもやや非難を込めた眼差しで。  海面からクジラの子が顔を出し、「ママを返して」と叫んでまた潜る。  人間の僕は気まずい思いでクリームソーダに口をつけた。カフェは流氷の上に開かれている

          【1000字】2101年、流氷の旅

          【1000字】鷹の羽根

           幼い兄妹が森を駆け、一心不乱に町を目指している。たったいま、大嫌いな継母のスープに毒薬を盛ったばかりだ。継母がそれに口をつけたところは見届けていない。兄と妹、どちらが先に怖気づいたのかわからないが、どちらかが先に恐怖し、もう一方も伝染して恐怖したという顛末だった。  町に着くと、二人はすっかり途方に暮れてしまった。継母の死をあれほど願っていたはずなのに、いまでは継母が無事であることを祈っている。どこに逃げても、結局はあの我が家へ帰る運命にあるのは、幼い二人にとっても自明のこ

          【1000字】鷹の羽根

          【1000字】ソウルメイト

           終電が過ぎた新宿の街を、僕たちはあてもなくさまよう。友人は子供がやるようにして、車道の縁石の上を歩いている。酔っ払っているのかと思ったが、その横顔に酩酊の気配は見当たらない。彼の切り揃えた短い金髪と、コンバースのスニーカーが、奇妙な輪郭を伴って僕の視界に迫る。 「すごい秘密を教えようか」彼は微笑んで僕を見る。 「ぜひ知りたいね」僕も微笑む。「始発まで時間もあるし」  ふわりと歩道に着地すると、彼は僕の頬にキスをする。驚いたが、なぜか嫌悪を感じなかった。あぁ、彼はそうなのか、

          【1000字】ソウルメイト

          【1000字】ヴォイス

           気難しそうな、あるいはやや気の違っていそうな髭面の男が、薄暗い部屋で腕組みしている。私を台に立たせて、もう小一時間もそうしている。私は私で、気持ち良く寝ていたところを無理やり連れてこられたものだから、多分に腹が立っているのだけども、男はなぜか私より不機嫌な顔つきで、文句を言えそうな雰囲気ではまったくなかった。  ずいぶん経って、日が暮れたあと、ようやく男が私に触れようとしたが、すぐにその手を引っ込め、今度はうろうろと部屋を歩き回った。その間も目は炯々として、私をじっと捉え

          【1000字】ヴォイス

          【1000字】閉じていく扉の一瞬の隙間に

           ある夏の日にきみは自殺した。第一発見者は僕。放課後、教室の窓辺に器用に縄を引っかけて、まるで見せびらかすようにして首を吊っていた。  それからというもの、きみは僕に付き纏っている。  僕がトイレに行けば必ずきみが廊下の暗がりに佇んでいるし、風呂に入っているときも脱衣所からきみの気配が伝わる。僕、一応、男子なんだけどね。死者とはいえ、女子に生活の一部始終を覗かれるのはどうも落ち着かないな。  僕らは親しい間柄ではなかった。同級生というだけで、話したこともない。そんな相手に最初

          【1000字】閉じていく扉の一瞬の隙間に

          【1000字】ゴッド・ブレス・ユー

           初デートの途中、彼女がくしゃみのツボに入った。間の悪いことに映画館での出来事である。くしゅん、くしゅん、と連発し、周囲の迷惑そうな視線を集めるのにたいして時間はかからなかった。  僕は彼女を促し、追われるようにして席を立つ。その間も彼女のくしゃみは止まらない。彼女は謝ろうとしたが、なにせくしゃみのツボに入っているから会話もままならない。  街中に出ても、くしゃみは収まるどころかひどくなる一方だ。その一発一発が、彼女の体を内側から裏返してしまいそうな勢いである。すれ違う人々が

          【1000字】ゴッド・ブレス・ユー

          【1000字】から騒ぎ

           仕事を終えてアパートに帰ると、恋人たちが雁首揃えて待ち構えていた。状況を察した俺は逃走を試みるが、襟を掴まれてあえなく取り押さえられてしまう。 「最低。あなた、浮気していたのね」  恋人たちに囲まれ、俺は必死に弁明する。  違う、誤解だ。俺は浮気なんてしていない。一人一人と真剣に付き合っていて、軽薄な気持ちによるものではけしてないんだ。世の中には誰からも愛されない人が大勢いる。俺が持つ愛の量は人のウン倍であって、その分、恵まれない女たちに均等に与えねばならないのだ。褒められ

          【1000字】から騒ぎ

          【1000字】星鳴り

           姉様と屋根の上で星を眺めていると、そのうちの一つが青い尾を引いて、沼地のほうへと落ちてきた。鈴のような音色が夜の大気に響き渡った。  川を渡って見に行くと、潰れた葦原の中心に裸の男が眠っていた。滑らかな肌が青く燐光を放っている。星が人になったんだ、とわたしは直感した。  男は目を覚ますと、まるで乙女のように恥じらい、千切った葦の束で体を隠した。姉様はくすっと微笑み、腰巻をほどいて青年に手渡す。わたしは姉様の脚を男に見せちゃいかんと思い、急いで自分の服を姉様の腰に巻きつけた。

          【1000字】星鳴り

          【1000字】セカンド・ロスト

           出張途中の新幹線で僕は母の訃報を受け取る。会社のことも取引先のことも頭から吹っ飛び、居ても立ってもいられなくなるが、なにせ新幹線の中だからどうにもならない。時速二百キロをのろく感じたのは生まれて初めてだ。  幼い頃の愛情、反抗期時代の疎ましさ、大人になってからの後悔が、車窓の景色に流れていく。この世のどこに行ったってもう母には会えない。哀しみが胸を潰し、僕は声を立てずに泣く。まるで迷子の子供のように。 「大丈夫ですか?」  隣席の女がハンカチを差し出す。僕は礼を言って受け取

          【1000字】セカンド・ロスト

          【1000字】未来が生まれるとき

           可愛いフウちゃんへ  お手紙ありがとう。フウちゃんのお手紙は無事に未来へ届きました。とても嬉しいです。いまこうしてペンを握りながら、なにを書こうか迷っています。あなたには話したいことがたくさんあるからね。  過去の時代の人にお手紙を書くのは初めてだから、すごく緊張しています。過去へお手紙を送るのはとても難しく、失敗したらやり直しが利きません。ちゃんと届くといいなぁ。  未来のことは、残念だけど詳しくお話できません。本当はこうしてお手紙を送るのも禁止されています。でも、これ

          【1000字】未来が生まれるとき