マガジン一覧

マ・ツノワ・ダ・マーレ

なんか変なタイトルがついていますが、ただの雑記や報告などです。

ストックしていた過去作が多めでしたが、気づけば30作も投下していたので、1000字シリーズはいったんこれで終わりにします。 明日から、もう少し長いお話を水面下で書く生活に戻ります。 また1000字作品がたまってきたら投下します。 お読みくださった方々、どうもあざっした……。

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本日、『カプセルストーリー(3分間のまどろみ)』(Gakken)というアンソロジーが電子書籍で刊行されました。 https://amzn.asia/d/2clBy5S 緑ジャケ版には『サマーカード』という作品で参加しております。 お求めは各電子書籍販売サイトからお願いします。

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本日、『カプセルストーリー(3分間のまどろみ)』(Gakken)というアンソロジーが電子書籍で刊行されました。 https://amzn.asia/d/eLZcCuy 青ジャケ版に『カモメのリレー』という作品で参加しております。 お求めは各電子書籍販売サイトからお願いします。

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愛媛県松山市にて、坊っちゃん文学賞受賞作のよみ芝居公演が行われます。 https://www.city.matsuyama.ehime.jp/hodo/202207/yomishibai7.html 松野の『プリンター』というお話もお芝居になります。 わーいわい。光栄!

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小説:短編

4000字~20000字以内の作品を格納します。 ちょっとお時間があるときにどうぞ。

【短編】ワタネズミ

 ほかのすべての生物と同じように、ワタネズミもまた、熾烈な生存競争をくぐり抜けてこの世に存在する。それはつまり、生命と呼ばれるものがみな暴力に呪われている証だ。いかにも争いと無縁そうなこの生物でさえそうなのだから、有史以来の人間が殺戮をやめられないのもしかたない話かもしれない。  とは言いつつ、僕はまだワタネズミたちの争いを目にしたことがない。周囲の状況を観察し、恐らくここで殺し合いが繰り広げられたのだろうと予感させられるばかりである。仕事で不在にしていたとき、またはぐっすり

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【短編】許しのライセンス

 タカくんが死んだ。享年十五歳。死因は後頭部を強く打ったことによる脳挫傷。階段を踏み外して起こった事故。あっけなく、誰にも責任を求められない死だった。  実弟が死んだことについて、わたしがいま、どういう態度を示せばいいのかわからない。実感がまるで湧かないのだ。哀しめばいいのか、途方に暮れればいいのか、それとも最後まで間の抜けた彼の、残酷なほど短い生涯を笑ってやるべきなのか。十八歳のわたしはこれまで人の死に、それも肉親という身近な存在の死に、真正面から向き合わされる状況に陥った

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【短編】ワイプアウト

 好きな人の好きなものを、心から好きになれない自分が腹立たしい。  日の明けきらない薄暗い砂浜を、叔父がサーフボードを抱えて歩いてくる。黒のラッシュガードが、年齢のわりに引き締まった上半身を彫像のように強調していた。彼の背後に広がる海は、煌めきを失い、空との境目を曖昧にしている。夏が過ぎたあとの海は、いつもこんな感じだ。たとえ波があっても、どことなくのっぺりとして、弾みを失くしている。  濡れた髪を振ってから、叔父がわたしに笑いかけた。青みがかった空気に白い前歯がよく映える

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【短編】シェイクハンズ

 保科リアンが宇宙人であることを知っていたのは、全校生徒約五百名を抱えるこの学校で、僕だけだった。  気づいたのはまったくの偶然だ。  その日の美術の授業中、下書きを終えたばかりの版画版へ、恐ろしく不器用な手つきで彫刻刀を突き立てていたリアンが、誤って左手に刃先を滑らせた。ちょうど教師が席を外し、美術室が猿山のように騒がしくなっていたときのことだ。昼休みのあとの五限目であり、そんな時間帯に美術の授業に集中できる高校生なんているはずがない。真剣に版画に取り掛かっているのは、リア

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千字幻想 ~Land of 1000 Words~

1000字以内のショート・ショート集です。 ある企画へ参加したのを機に、数年前から本作業の息抜きで書き始めました。 Wordソフト換算での1000字以内であり、note換算では1000字を超えているかもしれませんが、そこは御愛敬で……。 ※表紙はAI作成です。良い時代ですね。

【1000字】身も蓋もない話

 小川のほとりで少年たちが決闘している。枯枝を剣に見立て、いかにも幼いごっこ遊びだが、本人たちはいたってまじめだ。お姫様役の少女は樫の木に登って腰かけ、退屈そうにあくびをする。早く帰ってネイルを塗り直したい、と考えている。  その少女の頭上に、じつは蜂の巣がぶら下がっていることを誰も知らない。知っているのはあなただけで、だから、あなたはページをめくる手を止められない。この物語が悲劇の結末を辿るのか、喜劇として終わるのか、それともノスタルジィを呼び起こす風景のスケッチでしかない

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【1000字】忘却の波打ち際で

 夜明けの海辺は、銀色の朝陽が昇るにつれて饒舌になり、まるで世界中のすべての音がここから生まれてくるかのような賑やかさだった。僕たちは靴を脱いで波打ち際に立ち、まだ冬の余韻を残す白波で足首を洗う。 「ねぇ、ここに名前を書いてみない?」  彼女が提案し、僕も頷いて屈みこむ。波が引いた砂浜にふたりで指を走らせる。彼女の名前と僕の名前。親から授かった、というよりは、世界から与えられた識別子。良くも悪くも簡潔な、十にも満たないその文字列。 「次の波が来たら、消えちゃうかな」  彼女が

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【1000字】2101年、流氷の旅

「旅の途中なんです」とペンギンの店長は言う。「故郷の北極を出て、南極に行こうと思い立ちまして。ほら、温暖化で氷も少なくなってますから」 「ペンギンは南極の動物じゃなかったでしたっけ」  ヒヒが指摘すると、ペンギンは笑顔のまま黙り込む。サイとゾウは声を潜めてお喋りしている。みんなが僕を見ている。それもやや非難を込めた眼差しで。  海面からクジラの子が顔を出し、「ママを返して」と叫んでまた潜る。  人間の僕は気まずい思いでクリームソーダに口をつけた。カフェは流氷の上に開かれている

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【1000字】鷹の羽根

 幼い兄妹が森を駆け、一心不乱に町を目指している。たったいま、大嫌いな継母のスープに毒薬を盛ったばかりだ。継母がそれに口をつけたところは見届けていない。兄と妹、どちらが先に怖気づいたのかわからないが、どちらかが先に恐怖し、もう一方も伝染して恐怖したという顛末だった。  町に着くと、二人はすっかり途方に暮れてしまった。継母の死をあれほど願っていたはずなのに、いまでは継母が無事であることを祈っている。どこに逃げても、結局はあの我が家へ帰る運命にあるのは、幼い二人にとっても自明のこ

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小説:中編

20000字~80000字以内の作品を格納します。 かなりお時間があるときにどうぞ。

【中編】ここは安全、心臓ふたつ

 どぶ川に沿って伸びるアスファルトと、夕闇に聞こえ始めた打ち上げ花火の響きが、その夜の記憶の始まりだ。僕の手を引いて歩くユーコさんの、音を追って振り向いたときの髪の揺れかたまでが、いまも鮮やかに思い描ける。 「戦場みたいだね」  彼女はしばらく耳を澄ませたあとでそう呟いた。そういう突拍子のないことを、いきなり口にする人だったのだ。 「戦場って?」 「戦争が起こっている場所のこと」ユーコさんは答える。「ほら、映画とかで観たことない? 爆弾が降ったりして、たくさんの人が死んじゃう

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小説:掌編(ショートショート)

4000字くらいまでの短い作品を格納します。 お気軽にどうぞ。

【掌編】トモビキ

 吹き抜け式の待合ロビーには秋の陽射しが満ちていた。縁起でもないことに、俺にはそれが天国の入口みたいに思えた。それくらい幸福そうなムードだったのだ。  頻繁に病院を訪れていると、そのうち誰が患者で誰が見舞い客か見分けられるようになる。まぁ、服装で判別はつくのだけど、それ以前に表情や仕草ではっきりしている。おおまかに言えば、リラックスしている奴が患者で緊張している奴が見舞い客だ。この差はたぶん、どの国のどの文化にも共通する法則だと思う。  俺などは言うまでもなく、あの月子さんで

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【掌編】夢を見る星

 春の夜は時間をかけて地上を覆い、まるで出し惜しみするかのように、星の瞬きをひとつひとつ暗幕に灯し始めた。村の明かりは微々たるもので、高原と夜空との境界を曖昧にしていたが、西にそびえる連峰の冠雪の白さだけは、暗闇のなかに仄かな輝きを放っていた。  若い村娘がひとり、ランプも持たずに暗い高原を渡っていく。青地のスカートの裾を持ち上げ、後にしてきた村を振り返りもせずに歩いている。ひたむきなその目は、闇夜に浮かぶ峻険な山影を見つめていた。立ち止まる意思はないようだった。  棚引く

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【掌編】チル

 タンポポ丘と名付けられたその場所は、施設の裏手にある沢を渡り、整備された坂道を上った先にあった。傾斜が終わり、頭上を覆っていた林のトンネルが途切れると、途端に見晴らしのいい景色へと出た。草原といってもいい広場だった。  夢を見ているような気分で、少年はしばらくその場に立ち尽くした。 「ほら、あそこ」隣の少女が指をさす。「あの辺りだけ、白いでしょう? タンポポがたくさん咲いているの。だから、タンポポ丘」  少女の言う通り、広場の平らな一角には綿毛をつけた花が群生していて、その

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【掌編】ゴッド・セイヴ

 わたしにとって、十七歳という年齢はもっと神聖で眩しいもののはずだったのに、いまこうして十七歳の終わりに振り返ってみると、なんとみすぼらしい一年だったのか、と愕然としてしまう。  十八歳の誕生日まで、あと五分を切っていた。  真夜中の時計は普段よりも精確に時を刻んでいる気がする。一秒、二秒、と時間が降り積もっていく様子が、肉眼で見えるかのようだ。それはいつも、火葬場の棺に残された遺灰の山を、わたしに連想させる 。  その遺灰は、かつて樹里の体だったものだ。  姉の樹里が死ん

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