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松野志部彦
2021年6月20日 20:12
吹き抜け式の待合ロビーには秋の陽射しが満ちていた。縁起でもないことに、俺にはそれが天国の入口みたいに思えた。それくらい幸福そうなムードだったのだ。 頻繁に病院を訪れていると、そのうち誰が患者で誰が見舞い客か見分けられるようになる。まぁ、服装で判別はつくのだけど、それ以前に表情や仕草ではっきりしている。おおまかに言えば、リラックスしている奴が患者で緊張している奴が見舞い客だ。この差はたぶん、どの
2021年6月18日 06:53
春の夜は時間をかけて地上を覆い、まるで出し惜しみするかのように、星の瞬きをひとつひとつ暗幕に灯し始めた。村の明かりは微々たるもので、高原と夜空との境界を曖昧にしていたが、西にそびえる連峰の冠雪の白さだけは、暗闇のなかに仄かな輝きを放っていた。 若い村娘がひとり、ランプも持たずに暗い高原を渡っていく。青地のスカートの裾を持ち上げ、後にしてきた村を振り返りもせずに歩いている。ひたむきなその目は、