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【ショートショート】 #37 起用貧乏
いつも行く、いつも食べている定食屋さん。私はそのメニューの中で気に入っているものがある。それが何の変哲もない「キャベツの千切りサラダ」である。見た目も普通だし、ただ単にキャベツが切られてお皿に盛られている。でもこれがいい。
何を頼んでも私はおまけにこれを頼む。何も邪魔しない。それでいてしっかりと美味しいと思えるからだ。だから私はここに通い詰めること2年間。ずっと注文し続けた。
でも、そんなあるときこの「キャベツの千切りサラダ」に変化が訪れることになる。実は世間で「セロリ、トマト、キュウリ」が流行りだしたのである。
やがてこの定食屋以外のサラダは「セロリ、トマト、キュウリ」が入っているものが売られるようになり、やがて行列を作り始めた。そのうちに私の行っている定食屋さんも当然のことながらこの流れを受けてキャベツの千切りに「セロリ、トマト、キュウリ」が入れられることになった。
そのことをまだ知らなかった私はいつものように「キャベツの千切りサラダ」を頼んだ。すると当然のことながらそこには「セロリ、トマト、キュウリ」が入っている。
私は注文を間違えたのか?と思って店主と話をした。
「すいません、これ間違ってませんか?」
私はお皿を持って指を指す。すると店主は笑顔で
「先週からメニューの内容を変えたんですよ。今、流行りでしょ?その3つの野菜」
「・・・そうですか」
実は私は「セロリ、トマト、キュウリ」の野菜が嫌いだった。だから野菜を食べるならキャベツという選択をしていたのだけれど・・・。
そのことを店主にいうと、店主はまたにこやかな笑顔で私にあることを告げた。
「お客さん。その3つの野菜のことも好きになってあげてくださいよ。この野菜たちには全く罪はありませんし、ただそこにあるだけです。だから認めてあげましょう。それが時代なのですから」
私は私が好きじゃない野菜を目の前にして箸が止まってしまう。
そうそれはまるで、自分が今まで好きだったゲームにタレントが声優として起用されたかのようなそんな気分になってしまったのだ。
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