松井鍵人

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最近の記事

散らかった感情の整理 2022年9月7日

 またしても感情が爆散しそうだから因数分解しよう。  ひとつめ。複数人が参加する社内のオンライン会議にぼくと社員Aだけが先に入っていて他の人の参加が遅れていたとき、手持ち無沙汰だったぼくは「最近の労働のやらかし」をエピソードトークよろしく披露していた。ベラベラと喋っていたため社員Bと社員Cがそのオンライン会議に入っていたことに気づかなかった。社内でも噂好きで有名な社員Bにごちそうを提供してしまった格好だ。案の定、固有名詞に至るまで根掘り葉掘りしてきた。おそらく社内に吹聴する

    • 花粉さえなければ春の旅は楽しいのに①

      自室から  12時前に床に就く。深夜2時50分に入眠を諦める。どうせ眠れぬならこのまま起きておこう。なぜなら旅行初日の夜の宿は熊本市のサウナ施設「湯らっくす」のドミトリーだからだ。個室でもないし、ベッドでもない。うまく眠れないおそれがあるから、少し寝不足気味のまま行けばまず間違いなく眠れるだろうと踏んだのである。 踏んだのである、とさも計画的かのように書いたが、実際には深夜4時が近づくにつれまぶたはトロトロしはじめて、少しだけ眠る。5時過ぎに起きる。雲が空を覆い、

      • 太平記のある服屋で

         日曜日、銀座の服屋で顧客管理帳を書いていたら、目の前に『太平記』があることに気付いた。  ローテーブルの上にディスプレイとして並ぶ『ユートピア』や『ソクラテスの弁明』や『デカメロン』など20冊弱のヨーロッパ系の本に挟まれるようにしてそれはあった。あまりの存在感ゆえ、“屹立していた”といってもよい。隣は『星の王子さま』であった。 小学館の「日本の古典を読む」シリーズの1冊で、2008年の発行。長谷川端氏が校訂と訳を担当している。全文収載ではないが、『太平記』に親

        • 残暑の気配が居座る時期に

           最近のことを書く。なんかあったかなーとおもいつついざ書いてみると意外とある。あるやんけ。 ①現代大衆小説を八兆年ぶりに読み、「現代の小説も読んどくもんだな」と自省。普段は古典かエッセイが多いので小説は久しぶり。 ②約100年前の銀座では男の約3割が和装を着ていたと知る。しかも縞や絣の色柄が入っている着物が大半で、無地は少数派、足袋はほぼ全員が黒足袋だったようだ。  この数字は『考現学 今和次郎集』第一巻(ドメス出版、1971年)に収載されている1925年の5月の銀座の男

        散らかった感情の整理 2022年9月7日

          20代後半の男性同士が友達になるには(後編、ではなく③)

           次で終わらせたい、などと書き結んでから3ヶ月が経った。一向にくだんの男とは友達になれていない。というのも、感染対策万全の店のステーキを食べに行こうと誘っては「肉は涼しい時期に食べたい」と断られ、高田賢三追悼展を一緒に観に行った帰りに夕飯に誘っては「眠いので帰りたい」と断られ(強引にうどん屋に連行した)、まったく距離を詰められていないからである。認めよう。避けられているのだ。  そのうどん屋でも、うどん一杯だけだとすぐにこいつ帰りやがるなとおもったため、梅昆布うどんと一緒に

          20代後半の男性同士が友達になるには(後編、ではなく③)

          かきつばたと着物

           知らぬ間に桜も散り終えて若葉さしあい、他に見るべき花も知らず、下町の花屋で安くなっていた霞草を大量に買い求めて装飾のないガラスの太い花瓶に大雑把に活け、それはそれで空気を含んだ雲のようで見応えはあるものの、色気とはよくいったもので、赤や青などの色彩がないと男のひとり暮らしの部屋に活けるにはもの寂しすぎるやもしれぬと感じていたころに、域内の庭園の燕子花(かきつばた)が4月下旬に盛りを迎える時期にあわせて光琳の燕子花図屏風を毎年展示する根津美術館がこのほど『色彩の誘惑』と銘打っ

          かきつばたと着物

          20代後半の男性同士が友達になるには(中編)

           前回書き始めてから数週間が経った。書くのを忘れていたわけではない、といいたいところだが、忘れていたのである。ただ、もちろんその後相手と関係を深められてはいないため、特になにも変わっていない。  友人になるには友人の定義付けをまずせねばならないが、これがなかなか難しい。そもそも友情云々はこころの問題だ。人間は行動に責任が生じるのだから、客観性のない心性に枠組みを与えるのは困難を極める。信じるとか憎むとか、そういった言葉は辞書によって意味が変わるし、時代や共同体によっても変わ

          20代後半の男性同士が友達になるには(中編)

          20代後半の男性同士が友達になるには(前編)

           同僚の男と友達になりたいが、友達になる方法がわからない。  彼は労働の際もサラサラのマッシュルームヘアを保ち、ワックスやジェルを付けたことは一度もない。黒の革靴しか履かず、紺かグレーの古風なスーツを着ている痩せ型の男性である。確かぼくより少し年上だったはずだから、20代後半ということになる。  今こう書いていて、「初期のビートルズみたいな背格好だな」と気づいた。書き出すまで考えもしなかった。ジョン・レノンに憧れてるのか?  彼と友達になりたいとおもうに至ったのは、おもに以

          20代後半の男性同士が友達になるには(前編)

          ベゾアール展の感想(或いはセブルス・スネイプの魔法動物関連知識についての一考察)

           銀座エルメスで『ベゾアール展』が開催されるという報に接した。昨年のことだ。オランダの写真家シャルロット・デュマの作品を中心にした展覧会らしい。デュマといえばアレクサンドル父子というふうにしつけられたため、恥ずかしながらシャルロットさんのことはまったく存じ上げず、それだけでは心を素通りするような情報だったが、テーマがベゾアールとなると事は重大である。  ベゾアール石とは山羊の胃から取り出す石のことで、たいていの薬に対する解毒剤になる、というのは常識である(『賢者の石』を読ん

          ベゾアール展の感想(或いはセブルス・スネイプの魔法動物関連知識についての一考察)

          自分を落ち着かせるために書いた文章

           爆裂に忙しい。それというのも労働時間中にサボってばかりいたせいだが、それにしたってやることが多すぎる。  ぼくは書くほうの労働をしているが、ここ最近は毎日毎日膨大な量の文章を書きすぎている。加えて年末ということで文章以外の細々とした案件が山積しており、脳味噌が爆散しそうである。ぼくの脳はかなり単純につくられているため、3つの案件までは1日のうちになんとか処理できるが4つ以上になると途端にフリーズするように出来ている。具体的には朝起きてから夜寝る前の間に3つのタスクを達成し

          自分を落ち着かせるために書いた文章

          渋谷で錯乱しなかった話

           ハライチの漫才&トークライブがあるので、およそ1年ぶりに渋谷に行った。通りはヒューマンたちで溢れていて、この街には疫病の報せは届いていないのかとおもってしまった。  連れがハレの日に履く靴を見たいというので、西武に行ってジミーチュウのヒールを履かせたり、渋谷PARCOのグッチのパンプスを試させたりして遊んでいた。ついでにPARCOで秋冬の男物はどんなものが出ているかなと見て回っていた。すると、ある服屋の販売員さんがぼくのことを覚えていて驚いた。  なにせ渋谷に来るのが1

          渋谷で錯乱しなかった話

          お前の父ちゃんもう還暦なった?

           同年代の友人が「お前の父ちゃんもう還暦なった?」と訊いてきた。ぼくは察して、「還暦祝か?」と訊き返すと、「そう」と彼は応えた。自分の父の還暦祝に何を選んだらいいか、参考にしようと思ったのであろう。20代も終盤に差し掛かり、ぼくらもそういう年になったのである。    ちょうど父が今年還暦を迎えたので、その時の経験を話した。父が何歳であることなど思い至りもしなかったが、誕生日当日に家族のグループラインで皆がとりあえずおめでとうとメッセージを送る中、「あなたももう還暦ですか、おじ

          お前の父ちゃんもう還暦なった?

          ラコステの国旗ポロシャツ

           ラコステは近年、国旗をモチーフにしたポロシャツを販売している。  このデザインは時折マイナーチェンジしており、今でこそあの胸元のワニの色が緑でなく青・赤・白になったり星条旗の色合いになったりというその程度であって、「ああ、よく見れば国旗のデザインなのでございますね」というだけの慎ましやかなデザインになっている。  しかし以前はポロシャツ全体でユニオンジャックを表していたり、緑地の生地のうえに胸元に地球がデカデカとあしらわれたりと、なかなかに主張の激しいデザインだったのである

          ラコステの国旗ポロシャツ

          梅の実が開く

           梅の実が開(ひら)くという言い方がある。花ではない。実だ。  梅干しをひとつ唐津焼などの湯呑茶碗に入れて、鉄瓶で沸騰させた湯を注ぐ。あとは壁を見ながらメトロノームの音を聴くなどして待つ。10分ほど待つ。こうするとギュッとしていた梅干しが徐々にほとびて来て丸く膨らみ、赤みは鮮やかになり、淡い香りが立つようになって、これを「梅が開(ひら)いた」「梅が咲いた」などと表現する。  この湯を温かいうちに飲むのが梅湯である。梅干しの出汁とでもいうべきか。もちろん実も最後に食べる。昨

          梅の実が開く

          友人とフレンド

           日中、オフィスで業務もせずに漫才のネタを書いていた。一心不乱にキーボードを叩いているぼくを見て、まさか漫才のネタを書いているとは誰も思うまい。昼過ぎから書き始めて定時にようやく1本書けたのだから遅筆といわねばならないが、10分ほどのネタを一応は書き上げられたのだ。はじめてにしては上出来である。この際面白いかどうかは度外視でよかろう。そうでないとぼくが死ぬ。ネタのタイトルは「確定申告」だ。この漫才は誰に披露する予定もないが、先日友人とLINEでしょうもないやりとりをしているう

          友人とフレンド

          BlackBerryと死

          BlackBerryが再び死ぬ。 BlackBerryとはネットワーク関連サービス事業を展開するカナダ企業、およびその企業が開発・販売していたスマートフォンの名称である。なんといってもQWERTY配列の物理キーボードが搭載されているという唯一無二の外見と、セキュリティの高さが売りだった。 2002年に音声通話やインターネット接続が可能な端末を発売し、一時は北米大陸のビジネスマンを中心に人気を博したが、07年、そこにiPhoneという驚異的なルーキーが殴り込みをかけ、次いで

          BlackBerryと死