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ヴァン・フルールの飴売り

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20世紀初頭のフランスが舞台の小説です。
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【小説】ヴァン・フルールの飴売り 第0話

【小説】ヴァン・フルールの飴売り 第0話

※この小説は『ヴァン・フルールの飴売り』本編に繋がる前日譚であり、本編のとても重要な部分に触れています。したがって、この「第0話」は本編読了後にお読みいただくことを強くおすすめします。

第1章 ポテー

 ポテーは人見知りだった。周りで同年代の子が楽しげに遊んでいても声を掛けることができず、ただ一人静かに花を摘んで冠を作っているような、引っ込み思案な天使だった。
「ねぇ、何してるの?」
 声を掛

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【小説】ヴァン・フルールの飴売り 第8話

【小説】ヴァン・フルールの飴売り 第8話

 チェイスは俯いたまま部屋の隅でうずくまっていた。
「……こんなに簡単に、独りに……元通りに、なっちゃうんだね。僕の居場所、ここしか無かったのになぁ……」
 あはは、と虚しく笑う声が部屋に響く。彼の顔は髪に隠れてよく見えないが、その肩は小刻みに震えていた。
 アンベールは憐れむようにチェイスを見つめ、そっと近づいた。チェイスのしたことを許す気は無い。しかし、心から憎む気にもなれない。彼は彼なりに、

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【小説】ヴァン・フルールの飴売り 第7話

【小説】ヴァン・フルールの飴売り 第7話

「誰? 私に幼馴染なんていないよ」
 イネスはきょとんとした顔で、そう言った。
「……どう、して?」
 リュカは愕然として呟いた。
「私のことは忘れていても仕方ないって、覚悟してたけど……幼馴染を……幼馴染がいること自体を、忘れるなんてこと……ある?」
「それがチェイスのやり口なのよ」イヴリーンが静かに言った。
「彼は、『友達』が怖がってなかなか心を開かずにいると、記憶を書き換えてしまうの……彼に

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【小説】ヴァン・フルールの飴売り 第6話

【小説】ヴァン・フルールの飴売り 第6話

 アンベール達が去った後、部屋の扉が開いて、チェイスが入ってきた。
「ただいま、ニノン。良い子にしていてくれたんだね」
 ロッキングチェアに座った少女は、チェイスを見て息を呑んだ。
 チェイスは長い前髪を耳に掛け、両方の目を見せていた。右目の虹彩は黒色だが、左目の虹彩は赤く光っており、白目の部分が黒く濁っていた。
(ニノンが言っていたのと同じだ……)
 思わず目を逸らした少女の顔を、チェイスが覗き

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【小説】ヴァン・フルールの飴売り 第5話

【小説】ヴァン・フルールの飴売り 第5話

 黒い蝶は、アンベール達が駆けていくのをじっと見送った。それから羽を広げて、足を伸ばして、舞うように飛んでいく。
 蝶は森の入り口を抜け、枝の間をすり抜け、森の奥に佇む荘厳な屋敷の、三階の開かれた窓に入り込んだ。
「おかえり」
 男性の柔らかい声と、しなやかな左手の指が蝶を迎える。蝶は差し出された指にとまった。
「どうだった? あの子達、もう気づいてる?」
「……こっちに来るわ」
 男性が尋ねると

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【小説】ヴァン・フルールの飴売り 第4話

【小説】ヴァン・フルールの飴売り 第4話

 二人がリュカの家から出ると、すぐに近所の子どもたちが集まってきた。
「リュカさーん!」
「はいはい、今行くよ」
 リュカが玄関の扉から出てきて、「待たせちゃってごめんねぇ」と微笑んだ。
「リュカさん、これ、お母さんが作ったクッキーです」
「日頃の感謝を込めて、ぜひリュカさんにって」
 子どもたちの中に、一際美しい双子の姉妹がいた。セミロングの茶髪も青いワンピースもお揃いで、まるで同じ人物が二人並

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【小説】ヴァン・フルールの飴売り 第3話

【小説】ヴァン・フルールの飴売り 第3話

 警察署での取材を終えたアンベールとウィリアムは、町の小さなホテルの一室で一息ついた。
 窓から見える日は、もう西へ傾いている。
「今回の取材、なかなか厳しくなりそうだな……」
「そうですね……半日経っても、事件に関する情報がここまで集まらないとは……」
「でも、どれだけ厳しい取材になろうと、俺はこの事件の真実を知りたいと思う。そのために新聞社に入ったんだ」
 アンベールの表情からは疲れが見えてい

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【小説】ヴァン・フルールの飴売り 第2話

【小説】ヴァン・フルールの飴売り 第2話

 人攫い? アンベールは首を傾げ、老人に尋ねた。
「どうして、人攫いのことを『飴売り』と呼ぶんですか?」
 老人はなお、掲示板を見つめながら答えた。
「この子たちがいなくなった場所には、いつも甘い香りが残っているんだ。飴のように甘い香りが……だからみんなそう呼ぶようになった」
「香り……ですか」
 考え込むアンベールの横で、ウィリアムは必死にメモを取った。
「とにかく、あんたらはもうこのことに首を

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【小説】ヴァン・フルールの飴売り 第1話

【小説】ヴァン・フルールの飴売り 第1話

「また失踪事件が発生したそうだ!」
 一九〇五年、フランス、パリ。一人の記者が新聞社に駆け込んできてそう言うと、途端に社内はざわついた。
「またヴァン・フルールか……どうなってるんだ、あの町は」
「これまでの失踪事件、まだ犯人捕まってないんだろ?」
 他の記者たちがひそひそと囁き合う中、アンベール・フルニエは自分の机で一人考え込んでいた。机の上には過去に起こった連続少女失踪事件の資料が広げられてい

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