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ケンカの解決は、公園の井戸端会議で

水曜日は公園遊びの日。コロナで交流の機会が減っている幼稚園ママたちにとって、格好のおしゃべりタイムになっている。

コロナ禍になって思うのが、井戸端会議の大切さだ。以前は煩わしく思うこともしばしばだったが、参観や行事が縮小・中止になり、園での子どもたちの様子がわからない今年。ママさんたちとの情報共有は、弟のグチを優しく受けとめるか、はたまた叱咤激励するか、対応を決める一助になっている。

友だちとのケンカもちょいちょいあるのだが、状況を詳らかに説明するのはまだ難しい。できたとしても、私は「この目で見ていないものは100%信じない」と決めているので、ママさんたちとの意見交換は、トラブル時の状況判断にも役立っている。

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先日、幼稚園の門から出るや否や、弟が泣き出したことがあった。帰り道に「どうしたの?」と尋ねても、何も言わない。これはよっぽどだなと思い、帰宅後、落ち着いたところで改めて聞いてみる。すると、「だれにもいうなっていわれたから、いえない…」と、涙を流しながら苦悩を漏らした。泣くほど悲しい気持ちにさせられているのに、口止めの約束は守るなんて、律儀なヤツ。

「悲しい気持ちにさせられている人との約束は、一番の大事ではないかもしれないね。子どもだけで解決できないことは、大人に助けてもらうんだよ。お母さんに話してくれない?」

そう言うと、嗚咽混じりに話し始めた。最近、『かいけつゾロリ』にハマっているおかげで、『解決』の意味は大まかに掴めている。語彙力が豊富だと、こういうとき話が早くなるからありがたい。ありがとう、ゾロリ。

ケンカ相手は、いつも仲良く遊んでいる男の子。降園時の下駄箱で、制服の上着を後ろから引っ張られた弟は、身動きが取れなくなって嫌な気持ちになったとのこと。その日はちょうど、毎月1個購入することを決めている『ほねほねザウルス』を買いに行く日で、早く帰りたい弟は先を急いでいた。

「どうしてそんなことをするの?」と聞いたが、男の子は無言で真顔。いつもとは明らかに違う表情だったと言う。先に弟が何かしでかしたのでは、と聞いたが、本人曰く「それはない」。それから耳元で、「お前はホニャララ1番じゃない」と言われて、すっごく嫌な気持ちになったらしい。『ホニャララ』は覚えていなくて、とにかく「お前」と言われたことと、表情の怖さに圧倒され、涙を堪えながら幼稚園の門から出てきた。という話であった。

その場に先生はおらず、呼びもしなかったというので、「お流れだな」というのが取り急ぎの母の判断である。「自分たちで解決できないことは、大人の力を借りよう」「次に同じことがあれば、先生を呼ぶように」と伝えると、心の整理がついたようで、その後は機嫌よく過ごしていた。

教訓は、割とすぐに活かされた。3日後の夜、寝る前になって突然、「きょうはたいへんだったんだよ…」と言いながら、また弟が泣き始めた。

園庭で、くだんの男の子ともう1人が戦いごっこをしている先に、弟が遊びたいと思っている子がいた。その子を目指して駆けて行ったのに、手前にいた男の子たちにつかまってしまった。彼らは戦いごっこ中なので、引っ張られたり、チョップされたりもして痛かったし、本当に遊びたかった子とも遊べなくなり、悲しかった。だから、先生に言いに行った、と。

先生に事情を話した結果、戦いごっこをしていた2人は謝ってくれて、弟も許したとのこと。先生が仲裁に入ってそういう結論に至ったのなら、事実は弟の話の通りだと思われ、弟にとっては良い結末がもたらされたということになる。いつも自己完結しがちなタイプなので、先生を適切に頼ることを学ぶ良い機会になったと思う。ありがたい経験ができた。

「ちゃんと先生を呼べて、みんなも謝ってくれて、カンペキじゃない!」

そう言うと、弟は笑顔になって、眠りについた。

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今日、公園にその男の子とお母さんが来ていた。これはちょうどいい。こちらは完全被害者を決め込んでいる弟の話しか聞いていないので、相手の男の子がどう思っているのか気になっていた。もしかしたら、弟が白状していない話があって、迷惑をかけているかもしれない。このところ会えずにいたが、会えば言葉を交わす間柄。「こんなことがあったらしいんだけど、何かうちの子のこと言ってない?」と、サクッと聞いてみた。

すると、「最近、友だちに手が出る」と先生に言われた話や、実際に先日、友だちに怪我をさせてしまって落ち込んでいる、という話がポロポロこぼれ落ちてきた。元々、周囲も認める穏やかな子。お母さんも原因が見当たらずに悩んでいて、また何かしでかさないかと、常に気を揉んでいたのである。

母の想定を越えた事象が起きたときの狼狽は、痛いほどにわかる。また、他人を傷つけたともなれば、冷静ではいられないのが母ってもんだ。落ち込む彼女を励ましたい気持ちもありつつ、そこからは男子育児談義に花が咲き、今後も何かあれば、お互い報告し合おうということで話を終えた。

今日、言葉を交わせて良かった。しかも時間をかけた井戸端話だったからこそ、最近の子どもの様子や、親の想いの深いところを共有することができたように思う。送迎時ではディープな話はできないし、お茶に誘うなんてのも好戦的な感じがするし、公園の井戸端会議はちょうど良い塩梅だった。

母たちが熱く語っている間、目の前で、公園内をイキイキと走り回っていた子どもたち。戦いごっこも入り混じり、すったもんだもありながらも、楽しい時間を過ごしていた。こんな世の中だからこそ、遊んでいるときくらいは、自分を解放して、のびのびした気持ちでいてほしいと願う。時にはぶつかってもいい。そのときはまた、井戸端するから大丈夫だよ。


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