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アオマスの小説

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どんな一面にも些細な物語が存在する。それを上手に掬って、鮮明に描いていく。文士を目指す蒼日向真澄によって紡がれる短編集です。
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#毎日note

『花たむけて、巡り逢う』 ④

「あの、八木さん」  僕はもう一方の真実を知っている。八木さんが知らない慎司くんの心を。 …

蒼乃真澄
1年前
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『花たむけて、巡り逢う』 ③

「レンさんは、本当にやさしい方ですね」  僕が手を合わせ終わると、先に目を開けていた八木…

蒼乃真澄
1年前
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『花たむけて、巡り逢う』 ②

 青春の風が吹くと僕は思っている、五月。それはおそらく、僕の高校が五月に体育祭や文化祭な…

蒼乃真澄
1年前
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『花たむけて、巡り逢う』 ①

 十八で肉体と精神が乖離した友人に花をたむけることを、僕の本心はいまだに躊躇ってしまう気…

蒼乃真澄
2年前
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描かれた夢の先で(6)

 翌週の土曜日。僕は施設に向かい、いつも通り母の表情を見る。今日も眠そうだが、穏やかな笑…

蒼乃真澄
2年前
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描かれた夢の先で(5)

「まさこにとっての『夢』は、秀雄さんが戻ってくることだったのかなって思うの。だから『夢』…

蒼乃真澄
2年前
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描かれた夢の先で(4)

 僕が三歳のとき、当時の父、秀雄は消防士をしていた。もともと運動神経が良かった上に、人を助ける仕事がしたかったことから、高校を卒業後すぐに消防士の道へ進んだらしい。僕の母、まさこはそんな僕の父と二十五歳の頃に出会い、五年後に結婚した。当時は、自慢の旦那として周りに紹介していたらしい。また、母はよしこさんのところに行くと、いつも父の活躍を話していたそうだ。また人を助けたんだ、秀雄さんのおかげで延焼を防ぐことができたんだ、と。よしこさんはそんな僕の母を「幸せ者」と呼んでいた。僕の

描かれた夢の先で(3)

「まさこは元気?」  翌日。僕は朝から母の妹である遠藤よしこさんの家へ向かった。よしこさ…

蒼乃真澄
2年前
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描かれた夢の先で(2)

 ある日。それは日本中を焼き尽くすような太陽が、ようやく落ち着きを取り戻した頃だった。そ…

蒼乃真澄
2年前
7

描かれた夢の先で(1)

 壁に飾られたその絵に描かれた真実を、僕は受け入れることができるだろうか。  母が介護施…

蒼乃真澄
2年前
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無意識に決められた『在り方』 (短編小説)

 男なら、強くあれ。女なら、おしとやかに。  男なら、泣くな。女なら、弱くあれ。  男なら…

蒼乃真澄
2年前
8

君がいた夏 2 (短編小説)

 それから毎年、僕が海を訪れると、君は光の反対側にいる影のようにそっと姿を現して、その度…

蒼乃真澄
2年前
3

君がいた夏 1 (短編小説)

 菊月が訪れると、潮風を浴びながら単調に繰り返す波の音も遠のき、僕は東京へと戻っていく。…

蒼乃真澄
2年前
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チョコレートランデブー(短編小説)

 勇気君、机に入れておいた手紙、気づいてくれたかな。今日の放課後、図書室の前の廊下で待っている私を、迎えにきてくれるかな。昨日は試行錯誤を重ねて、美味しいチョコレートを作ってきたの。不器用な私の気持ちを、勇気君は受け取ってくれるかな。    勇気君、ロッカーに忍ばせておいた手紙、読んでくれたかな。今日の放課後、屋上前で緊張している私を、受け入れてくれるかな。昨日は夜遅くまで頑張って、美味しいチョコレートを作ってきたの。そんな私の恋の味を、勇気君は受け取ってくれるかな。 「