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描かれた夢の先で(1)

 壁に飾られたその絵に描かれた真実を、僕は受け入れることができるだろうか。

 母が介護施設に入ってから三ヶ月が経った。僕は毎週土曜日にこの場所を訪れては、母の体調を確認する。母はいつでも少しだけ眠たげな表情で僕を見つめて、戯けたことばかりを言っている。
「わたし、今は花束を持ったお嫁さんなの」
 母の手には、造花を束ねたものが握られている。僕はしっかりとした笑みを作ってあげて、母を褒めた。
「そうなんだ。綺麗なお花もらえて、よかったね」
 嘘か誠か。虚実か真実か。そんな難しいことを考える暇もなく、母は毎度僕を驚かし続けるのだ。
 日々変わり続ける母を見ていると、未来へ向けた貨物列車の荷物が何も無くなってしまうのではと不安になる。僕と母で積み上げてきたはずの確かな記憶が、擦れて、擦れて、やがて跡形も無くなってしまうことを、僕はずっと恐れている。
「浩は、将来消防士になりたいんだよね」
 僕と母の過去は、母自身によって偽りの未来へと上書きされていく。僕は消防士など到底なれないから、母が放った燃える炎をただ茫然と眺めるだけだ。
「そうだね。僕は消防士になりたいんだ。今は必死に勉強中だよ」
 しかし僕もまた、偽りを続けるしかなかった。何度も嘘をついていると、時々悲しくなるくらい惨めになる。だが、話をしながら微笑む母を裏切るのは間違っていることくらい、僕は理解している。
 怖い。僕の胸の内の感情は、ほとんど全てがその状態に覆われている。六月の曇天みたいに、無秩序な僕の心を分厚い雲が支配している。鮮やかさを出す光など、とうの昔に失ってしまっている。
「頑張ってね、浩」
「ありがとう、お母さん」
 僕は空振りになる温かいエールを胸に、母と残りの時間を抵抗することなく過ごすのだ。

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