夢うつつ
蝉の声で、目が覚めた朝。
夢の世界から、現実の世界へ。
まどろみながら、夢うつつ。
今日はなんだかその過程がとてもゆっくり感じられたので、なんでもない今日の朝の一幕を、ちょっとだけ小説のように書き残してみた。
…遠くで蝉の声が聞こえる。
…あれ。私は今、どこにいるのだろう。
さっきまで甥っ子たちと親戚と、あとはなんだかよく知らない人たちと一緒に、ショッピングモールでワイワイ過ごしていたのに。
2人の甥っ子に、それぞれ何味のキャンディーをあげようと、たくさんある味の中から吟味していた最中だった。
1人は絶対に“コーラ味”。
もう1人はオレンジやぶどうなど、“フルーツ”系で迷っていた。
数日前に刺繍をしていたからだろうか、
なぜかそのキャンディーの中に、刺繍糸も何色か入っていて
「何か別々に入れる袋か容器がないかなー」などと思いながら。
…しかし、ショッピングモールの中なのに、どうして蝉の声が聞こえるのだろう。
そうか、もう夏だから、
どこかで「夏フェア」などのイベントでもやっているのかもしれない。
蝉の声を室内で流すなんて、粋だ。
どんなイベントをやっているのだろう。
ちょっと探しに行ってみようか。
…なんて思っていたら、徐々に白い天井が見えてくる。
あれ?
これはいつもの自分の部屋の天井だ。
フルーツのキャンディーたちと、白い天井が交錯する。
同時に二つの光景を見ているかのような、不思議な感覚。
…しかし気づけば、甥っ子たちや、他の人の声が聞こえない。
姿も見えない。
あれ、私は今どこにいる?
みんなはどこ?
キャンディーをまだ選んでいないのに。
あれ、キャンディーはどこに…?
…そこでようやく、現実の世界でゆっくりと瞼が開いていく。
もうそこには、キャンディーもない。人もいない。
自分の部屋に、自分が1人、いるだけだった。
キャンディーのことをずっと考えていたせいか、心なしかいつもより唾液が多いような気がする。もう少しでヨダレを垂らすところだった。
カーテンの向こうで聞こえる、蝉の声。
…そして、暑い。
少ししっとりした背中とベタつく首元を、Tシャツと手でパタパタと仰ぎ、体に風を送りながら
換気のため、窓を開けてみる。
すると、カーテンがふわっと揺れる。
さらに“風鈴の音”と、“木や草の葉の擦れる音”が聞こえた。
…今日は“風”があるようだ。
風が“夏草の匂い”を運んでくる。
ついでに蝉の声のボリュームも上げてしまう。
気持ちいい…と思ったのも束の間。
「うっ…。」
むわっとした熱気に、換気を抵抗する体の声が聞こえる。
ちょっと換気したら、エアコンをつけよう。
メガネをかけようと手に取るも、片方のフレームを“耳”ではなく“目の近く”にプスっと刺してしまう。
…まだ寝ぼけているようだ。
ようやく鮮明に見えた自分の部屋。
少しずつ、現実に意識が近づいてきた。
…それにしても、喉が渇いた。
エアコンは昨日タイマーにして寝たけれど
乾燥かな。…いや、こんなに湿度の高い部屋で乾燥だなんて。
もしかして、キャンディーの夢を見て、口が開いていたのだろうか。
…いやきっと、たくさん汗をかいて、体から水分がなくなっているんだろう。
とにかく早く水が欲しい。
ついでにヨダレがついていないか確認して、顔を洗ってこよう。
スリッパを履いて
一歩、二歩…と、重たい体をどうにか動かし、布団を整える。
ベッドを綺麗に整えると
夜寝る時まで、このベッドで眠ることはまるで「いけないこと」のように感じる。
実際、日中にベッドで本格的に寝ることはあまりない。
しかし、あまりにも綺麗に、そして風を通そうとシーツをめくったベッドを見ると、どうにもちょっと寂しい気持ちが拭えないのである。
夜、再びここに戻ってくるまで頑張らなければ…と。
…そんなことを考えながら扉を開け、廊下に出ようとしたら
壁に左肩をどかっとぶつけた。
「痛い…。」
左肩を抑え、フラフラと洗面所に向かっていく。
聴覚、視覚、嗅覚、味覚、触覚の順に
五感がゆっくりと目を覚ましていった。
今朝のことなのに、なんだかもうすでに懐かしい。
こんなふうに、気持ちってすぐに忘れてしまうのかもしれない。
とても愛おしい瞬間だったわけではないけれど
なんとなく、書き残しておいてよかった。
あと、“情景”や“感情”などは、文章に書こうと思えばいくらでも詳しく書けるものなのかもしれない。と思った。
でもダラダラと続いてしまうから、削る作業も難しいものだなあ、と改めて思う。
「余白」や「間」も含めて、エッセイも小説も映画も、無駄なところなんて一つもないように感じるのだ。
やっぱり何にしても
作品をつくるって、すごいことだ。
久しぶりに“コーラ味”のキャンディーを食べたくなった、夏の朝の一幕。
2024.7.19