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超おススメ図書「教えないスキル」

今回は人材育成に関わる全ての方にお勧めしたい書籍の紹介です。

佐伯さんはスゴイ人

著者は、現在Jリーグの理事の佐伯夕利子さん。少し前に、久保建英選手が所属先のレアルマドリードからレンタル移籍したチームの「ビジャレアル」にいる女性としても話題になりました。
ただ、佐伯さんが凄いのは、それ以前からのキャリアで、サッカー大国スペインにおいて、女性として初めて男子リーグ3部リーグの監督に就任され、その後、女子、男子のトップチームの監督や強化部等、私からすると想像すらできないスーパーなキャリアをお持ちの方でした。

私自身、これだけサッカーに長く携わってきたのに、恥ずかしながら佐伯さんのことは全く知りませんでした。テレビ東京のサッカー番組『FOOT×BRAIN』(フットブレイン)で初めて佐伯さんのことを知り、衝撃を受けたのですが、その佐伯さんが書かれた本、読まないわけにはいきません。そして、読み終わった感想。

「素晴らしすぎる」の一言。

うーん、それで済ませてしまってはいなけないぐらい、学びの多い内容でした。テーマは、タイトルにあるように、これまで及び今も指導方法の中心にある「教える」ということに対する提言なのですが、いかにそれを科学的にとらえて、そして実践的にアプローチして選手の成長に繋げていくか、
読めば読むほど、これまで自分が後輩やチームメンバー、子供にやってきたことが恥ずかしくなる内容でもあります。
内容の詳細は、ぜひ読んでいただければと思いますが、特に印象的だった点をご紹介します。

「アンラーン」(unlearn)からスタート

そもそもは小さな町クラブが生き残るために、クラブとしてどうあるべきかを考え、その中で、「育成型クラブ」を目指すための「指導改革」が始まったことに佐伯さんが携わったことがこの内容の原点です。
「アンラーン」(unlearn)から始めたという部分も、驚きでした。意味としては、「学び直し」を超えた、「学び壊し」という表現が近いと、佐伯さんも書かれていますが、仕事柄、こうした考え方や言葉に馴染みはあるものの、それを既に実践されていて自分たちのものにしていることに、「マジ、やってるじゃん」と率直に驚きました。
世界最高のプロアスリートが世界中から集まるプロサッカーリーグなので、ある意味、最新メソッドを活用して育成をしていること自体、当たり前と言えば当たり前なのですが、この言葉を多少なりともHR業界での流行り言葉に捉えてしまっていたことを反省させられました。

何に対して叱るのか

また、最も印象に残ったのは、何に対してどういうアプローチをするか、という整理の仕方でした。ここ数年、スポーツ界では指導者のパワハラが大きな問題として取り上げられ、今や「感情を表に出して指導すること」自体が、パワハラとして認識されるような状況ですが、佐伯さんはこうした現状も踏まえた上で、コーチ全員で以下の整理をした上で、それに対してどのように対応すべきかを決めていったとのことでした。

①アティチュード(attitude : 態度、姿勢、取り組み方)
➁アプティチュード(aptitude : 適性、才能、スキル)
➂ビーイング(being : 存在、ありよう)

①については、できることをやらない、手を抜く、ということは人として、チームの一員として良くないこと、許されないことで、その点については、コーチが感情を表して、ネガティブなフィードバックをしていいし、叱ってもいい。

➁については、「伸びしろ」がある部分であり、コーチもその可能性を把握できているわけではないので、応援したり、サポートしたり、ポジティブなフィードバックをすることが効果的なのではないか。指導する側の主観で、「これは無理」とか「これは向いていない」と決めつけてはいけない。

そして➂については、誰であっても人としての尊厳/人権を尊重しなければならないと。

ややもすると、日本では、指導することをすべて一緒くたにして、ゼロイチで考えてしまう(解決しようとしてしまう)という傾向があると思いますが(最近では「ほめよう」の一点張り)、そうした「思考停止」に陥らずに、こうしてコーチたち自身がしっかり議論して、整理し、実践すること自体がとても素晴らしいアプローチだなと感じました。整理された内容やアプローチもとても共感でき、素晴らしいもので、ビジネスの現場でも活用できるものばかりです。

ここでご紹介したのはほんの一部で、これ意外にも学びが本当に本当に多い本なので、企業/組織でマネジメントに携わっている方、様々な分野で指導されている方にぜひ読んで頂きたいと思いました。
佐伯さんが、後半で書かれていた「”頑張る文化”から”創造する文化”にしたい」を私自身も意識しながら、色々な局面で実践していきたい、と勇気をもらった本でもありました。

最後に余談ですが、佐伯さんがスペインで指導者になろうとした時のエピソードがまた素敵でした。
佐伯さんが19歳の時に指導者ライセンスのスクールに問い合わせた際、「日本人」「19才」「女性」という3つの懸念点を伝えたところ、「今、電話で話せているので言葉の面でも問題ない、あと、年齢も問題ない。で、最後の「女性」というのは質問の意味がわからない」と言われたとのこと。佐伯さんはこの答えを聞いて、「この国なら生きていけるのでは」と思ったのとのこと。佐伯さんもすごいけど、スペインも最高。
とてもいい本に出会えました。佐伯さん、ありがとうございました。


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