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今回も超おススメ~佐伯さんの新著「本音で向き合う 自分を疑って進む」~

スペインのフットボールクラブ「ビジャレアル」で指導者として活躍され、今はクラブの強化・育成に関わっていらっしゃる佐伯夕利子さんの名著「教えないスキル」の続編。
 
佐伯さん(のスゴさ)については、既に以下でご紹介していますのでここでは割愛しますが、前著「教えないスキル」はそのタイトル通り「人の育成」にフォーカスした内容でしたが、今回は佐伯さんがサッカー大国スペインで指導者として歩んでこられた中でご自身が感じてこられたことを中心に、その中で出会った育成や指導の考え方、アプローチなどを紹介して頂いている内容です。

佐伯さんご自身の素敵な生き方に感銘を受けるだけでなく、実は人材育成の最新メソッド(というとややテクニカルな手法に聞こえてしまうかもですが、ここではもっと広めの概念)はスペインのフットボールクラブがかなり高いレベルで実践している、という私的には結構衝撃的な内容でした。今回はその中で印象に残った部分をご紹介します。(ある意味断片的に切り取って書いていますので、コンテクストが伝わらない点はご容赦ください)

自分を疑って進む

タイトルにある「自分を疑って進む」ということは、わかっていてもなかなかできないことですが、佐伯さんがジュニアチームを指導した際に、11歳の子にキレられたこときっかけに、指導や権威について改めて考え直したご経験や、自分をヘッドコーチに誘ってくれた監督が解任され、一時的に監督を引き継いだ際の葛藤の中で気づいたプロフェッショナルとして大事にすべきこと等、常にその時その時に起こったこと、感じたことをしっかり俯瞰して捉えて内省しているということが、かなりスゴいことだと思いました。

そうした中で、ご自身としての生き方の骨格を固められてきたプロセスが具体的に書かれている点、勝手に名づけると「半端ない内省力」は、正直なかなか自分ではここまでできないなー、と感じる一方で大いに共感できる(真似したい)点でした。
 
また、カタールワールドカップで対戦した際のスペイン代表の監督だったあのルイス・エンリケとは指導者ライセンス講習の同期、ということは以前から知ってはいましたが(さらっと書きましたが凄すぎる!)、その講習の場でのエピソードはフットボールファンには結構たまらない内容です。

いい指導者とは?

「いい指導者とは?育成の成果とは?」に関して、当時のビジャレアルの指導改革のリーダーだったセルヒオ氏と会話しているシーンがあるのですが、セルヒオさんは「記憶に残っているのは”指導者からどんな感情にさせられたか”」とおっしゃっていたことは非常に共感しました。「感情記憶」という言葉も使われていましたが、まさに、企業におけるマネジメントの役割で今、最も重要なのは、業務マネジメントではなく「感情マネジメント」だと感じていたので、特に印象的なくだりでした
また、「学び壊し(アンラーン)」「学び直し(リラーン)」といった、私が関わっているHR業界でもここ10年以内ぐらいに出てきた言葉(考え方)が、これまた普通に会話の中で出てきたことは更に驚きでした。 

音を立てない選手

ここでは「目立たない、何も言わない選手」のことを指していて、ある意味指導者にとっては都合の良い選手(一見すると問題ないと思いがち)のことですが、指導者はどうしてもこうした選手への指導やかかわりの優先順位が低くなりがちとのこと。

このことは、以前、私が組織開発に関わっていた際にも全く同じことを感じていて、音を立てない(意見を言わない)人は何も考えていないわけではなく、たまたまその時に考えていたり、その組織において「心理的安全性」が保たれていないことが原因だったりすることもあり、組織開発、チームビルディングといった取り組みの中では、しっかりと意識しないといけない存在です。

ビジャレアルでは、「サイコロジスト」という役割の方が10人ほどいるとのことで、選手やコーチの成長を心理学的なアプローチを活用して支援するアシスタントのような位置づけで言ってみれば「気づかせ役」。トレーニング中に前述した「音を立てない選手」を含め、どの選手にどれだけ声をかけていたか、偏っていないか等を客観的に観察して、指導者にフィードバックしているとのことでした。こうした自身を内省する仕組み、仕掛けがしっかりとワークしている点は、企業のマネジメントの質の向上の取り組みにも大いに参考になる点でした。(もちろん多くの育成担当者はわかってはいると思いますが、実践がなかなか難しい!)

「人材育成の成果は自己満足で良い」

この言葉はこの本の中一番、ズキューンときた言葉でした。人の育成は定量的には測ることが難しく、より長期的な視点が必要になってくることから、こうした結論に行きついたとは思うのですが、ここだけ切り取ると、人材育成の成果についてのコミットをあきらめているようにもとらえられがち。人の育成成果をどう図るかは、特にHRに関わる人たちにとってはある意味永遠の課題ですが、これは佐伯さんが指導者として歩んでこられた中で出てきた言葉。そこに重みと価値があるので、言葉だけをそのまま使うのはややおこがましい気もします。とはいえ究極的にはまさにこういうことなんだろうな、ととても腹落ちした言葉でした。
(都合の良いように解釈して使わないようにしないと)

判断を保留する力 

また、Jリーグの理事をされている間の様々なエピソード、特に当時の村井チェアマンのリーダーシップについても、興味深い内容が盛りだくさんでした。村井さんは佐伯さんや職員の方のどんな意見に対してもまずは受け止めた上で、いい/悪いという軸ではなく、「判断を保留する力」が非常に長けていたとのこと。奇しくもビジャレアルのサイコロジストも同じようなことを言っていたとのことで、人はどうしてもいいか悪いかの二項対立で考えがちだが、リーダーはそうした思考ではなく「判断を保留する」インテリジェンスが求められている、とのこと。
スペインのサイコロジストが言うと、なんかカッコイイ。

最後に

「教えないスキル」を読んだ時も感じましたが、佐伯さんは言葉のバリエーションがホントに豊富で、今回も文章一つ一つの意味がとてもクリアで理解しやすく、読み始めたらあっという間で、一気読みしてしまいました。
これはやはり指導の中で、「言葉の大切さ(解像度の高さ)」を意識してこられたことにも起因しているのではと感じました。
私の場合は、フットボール、そして人材育成といった興味/関心が重なる部分がたくさんあったことでより、自分自身に刺さる内容だったのかもですが、私のような関わりがいな方を含め、より多くの方、特に業界、役割を問わず、人材育成に広く関わっている方にはぜひ読んで頂きたい内容です。
次の著書も期待してしまいますし、いつの日かもしスペインに行ったら直接お会いしてお話しできることを夢見ております。
最後まで読んで頂きありがとうございました。

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