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AIとブロックチェーンによるシナジーを生み出すシナリオについて

本記事は、AIとブロックチェーンが組み合わさることでどのようなシナジーが生まれるのかについて解説した記事です。


2つのイノベーションの担い手

AI とブロックチェーン。多様なイノベーションの担い手として多くの注目を集めている二つのテクノロジートレンドです。しかしながら、それら二つの技術領域の間でどのようなシナジーがありうるかについては、あまり知られていません。

AI は1956年のダートマス会議において、コンピューターサイエンスの重要な領域の一つとして提唱されました。それ以来、多くのアプリケーションや関連技術が登場してきました。過去60年の間、AIを活用しようとする試みは数多く行われてきましたが、失敗も多くありました。しかし、最近ではディープラーニングによる精度の飛躍的向上により、様々な業界でAIの応用が着実に普及してきています。広告配信、パーソナライゼーション、不正検知、需要予測、金融資産運用、ドローンデリバリーロボティクス、交通の最適化、癌の診断や治療等にAIが活用されています。AIは社会の新たなインフラとして捉えられており、今後も進化を続け、我々の生活を支え、より便利なものへと変えていくことが期待されています。

ブロックチェーンは2008年に理論が発表され、2009年に稼働した暗号通貨ビットコインの公開取引台帳として誕生した技術です。現在は暗号通貨やフィンテックの範囲を超え利用が拡大しています。取引、証券、製造、農業、エネルギー等、様々な分野で利用可能な、検証可能な形で効率的に取引を記録できるオープンな分散型台帳として捉えられています。


AIとブロックチェーンを組み合わせる動き

それぞれが強力に進化を遂げている一方で、AIとブロックチェーンを組み合わせて新たな価値を実現しようとする試みも見られるようになりました。例えば、2018年に中国のEC大手JD.comは、AIやビッグデータ、ブロックチェーンを活用して、業界のコスト削減や効率化を図るために、スマートシティの構築を促進することを目的としたスマートシティ研究所を設立しています。また、AIとブロックチェーン技術を活用した新しいビジネスやアプリケーションを構築するためのアクセラレーター「AI Catapult Accelerator (AICA)」を立ち上げています。子会社のJD Digits は、AIやBlockchainに加えて、IoT等も活用した様々な新規事業を展開しています。

他にも、例えばポルシェは、ブロックチェーンを活用したプライバシー配慮型のAI技術を開発しているスタートアップ XAINに出資し、スマートカーにAIとブロックチェーンをシナジーさせたソリューションを導入しようとしています。


パロアルトの医療AIスタートアップである Doc.ai は、AIをエッジへと分散化していくエッジコンピューティングアーキテクチャを目指し、ブロックチェーンの活用を行っています。


また、中国のスタートアップである Matrix AI Networkは、ブロックチェーンによるプラットフォームにAIを活用してセキュリティを強化していく試みを行っています。


AIとブロックチェーンの組み合わせシナリオ

以降では、AIとブロックチェーンを組み合わせてシナジーを生み出すシナリオについていくつか見てみたいと思います。


ブロックチェーンを用いた自律システムのトラッキングと監査

AIは医療から交通、電力供給まで生活のあらゆる面に関わる形で広範に使われています。AIによって支えられた企業の基幹システムも数多く存在しています。先日、ERPシステムとAIのシナジーに関しての記事を書きました。この中でAIがシステムの自動化や最適化を実現していくポテンシャルについて述べています。


記事にあるように、AIモデルに基づいて実現される認識や予測によって、多くのタスクは自動化され、自律的な業務アプリケーションへと進化していくことが可能です。そのような自動化された業務アプリケーションはAPIを介して別の自動化される業務アプリケーションと接続し、より大きな自律システムを形成することになります。全体の自動化は非常に複雑かつ高速で、一連の処理を人間が追跡することは困難になっていくかもしれません。しかし、税や財務や管理会計等の企業の生命線となるシステム、さらには医療・ヘルスケア等の社会インフラに関わる領域におけるアプリケーションでは、システムが適切に処理ができているか、そのプロセスを監査する必要があります。そのため、透明性の確保が重要です。ここで、ブロックチェーンを使ってAIによって構成された自律システムにおけるプロセスを段階的にチェック・記録することで、システム全体の監査や検証を効果的に行うことができるようになります。


AIを用いたブロックチェーンのセキュリティ強化

ブロックチェーンは、行われたすべてのトランザクションを記録するブロックで構成されています。各ブロックはチェーン内の前のブロックのハッシュ値を記録します。ブロックチェーンは通常、古いブロックを上書きするのではなく、新しいブロックのスコアを数珠つなぎのように追加するように構築されます。生成されたブロックが、時系列に沿ってつながっていくデータ構造が、まさにブロックチェーンと呼ばれる理由です。

もし、以前に生成されたブロックの情報を改ざんしようとすると、改ざんされたブロックから計算されたハッシュ値は以前のブロックとは異なるものとなり、それ以降のすべてのブロックのハッシュ値も変更しなければなりません。そのような変更は事実上不可能であり、このことが、ブロックチェーンを改ざんに強い存在たらしめています。

ブロックチェーンの代表的なアプリケーションである暗号資産(仮想通貨)の取引や送金におけるデータは、正しいことを承認してもらい、間違いなくブロックチェーンにつなぎこまれる必要があります。このつなぎこみにおける承認においては、例えば、ビットコインでは、適したパラメーターを計算するプルーフ・オブ・ワーク方式を採用しています。ですが、ブロックのつながりが大きくなっていくにつれ、承認作業にはこれまで以上に大量のデータを計算するために、より大量のコンピュータリソースが要求されます。それらを用意できる存在でないと承認できなくなることから、中央集権化のリスクが存在しているともいえます。

この問題を解決するために、プルーフ・オブ・ステークと呼ばれるコンセプトが用いられることがあります。プルーフ・オブ・ワークが累積的な計算をこなす必要があるのに対し、プルーフ・オブ・ステークは暗号資産等のトークンの保有割合に基づきます。保有量が多いほど、ブロック承認者として選択される可能性が高まるような仕組みです。保有量だけでなく、保有期間や、あるいは過去の承認経験(一度承認した人は選ばれる可能性が低くなる等)も組み合わせて決定していく改良型のプルーフ・オブ・ステークもあります。しかし、どれも完全に安全な仕組みであるとは言い切れません。

そこで、AIを活用して、セキュリティを強化することができます。不正検知はAIが得意とするアプリケーション領域の一つです。そして、不正なユーザーを検知して排除するだけでなく、ユーザーの信用度や信頼度をスコアリングし、それを踏まえたブロック承認者の決定を行います。これにより、最適な承認者の分散化をはかっていき、独占や中央集権化のリスクを取り除くことができます。


ブロックチェーンでAIが用いるリソースを管理する

ブロックチェーンでAIに関連するリソースのバージョンを管理したり、トレーサビリティを確保するという活用があります。リソースとは、AIが学習するデータや、AI開発にまつわるソースコード、あるいは学習結果であるモデル等です。

現代の機械学習ベースのAI、特にディープラーニングにおいては、一般的に膨大な量の学習データを必要とします。この学習データに例えば、ジェンダーや人種的に偏ったデータが使われ、そしてそれにより様々なビジネス上、社会上、重要な処理や判断をAIが行った場合は、大きな問題になりえます。つまり、学習データにおけるバイアスの存在であり、公平性が損なわれるという問題です。このことは、説明可能なAI(XAI)の記事においても言及しました。


AIの高度なアプリケーションにおいては、学習や検証のために、企業や国をまたいだ無数のソースからのビッグデータが必要になるケースもあります。しかし、その分散されたデータは、ノイズや偏ったデータ、間違ったデータ、特に意図的に操作されたデータに汚染されるリスクがあります。ブロックチェーンは、このAIが学習で使うためのデータを管理し、トレーサビリティを担保することで、意図しないバイアスのあるデータ等が学習に混入するリスクを低減することが可能です。

ブロックチェーンを利用することで、分散したデータセットのトレーサビリティを実現するためのデータベースを作成することができます。これにより、AIの予測や推論がより正しいとされ、生成されるモデルがより説明可能性の高い、信頼できるものになります。また、ブロックチェーンは、そもそもP2P接続によるオープンに分散されたレジストリでもあるため、ネットワーク上の誰もがこの学習データにアクセスできるようにもなります。これは、つまり大規模なデータソースに基づいたグローバルなオープンデータネットワークを構築し、真のビッグデータを誰もがAIの正しい訓練に活用することができる可能性を示唆します。

以下は、実際の例として、ブロックチェーンにより、AI開発に関するコードやAIモデルが学習したデータの履歴を管理していく試みの記事です。


Federated Learning (連合学習)

また、「グローバルでオープンなビッグデータネットワークによるAIの学習」は実現していませんが、「オープンでないもの」つまり、「グローバルなビッグデータネットワークによるAIの学習」の手法は既に存在しています。Federated Learning(連合学習)です。


Federated Learningは、個々のデバイスやサーバのデータを共有することなく、それらデバイスやサーバにまたがってモデルを学習していく機械学習の手法です。通常の機械学習はデータを一箇所に集め、整理し、そこからトレーニングデータを作って学習していくことを行います。つまりは、データの観点から見ると中央集権的なアプローチと言えます。それに対して、連合学習は、データを共有しないという性質から、データプライバシー、データセキュリティ、データアクセス権、異種データの活用等、企業や社会が考慮すべき重要な問題に対処しつつ、機械学習・深層学習の恩恵をもたらすことができます。

事例としては例えば、Googleキーボードでの、文字入力の学習における活用があります。個々のユーザーはキーボードでどのような文字を入力したかというデータそのものは、共有したくありません。でも、文字入力は改善してほしいと思っています。そこで、Federated Learningを用いることで、ユーザーが文字入力のデータを共有せずとも、AIによる文字入力の精度向上の恩恵を受けることができます。

Federated Learningですが、通常は個々のノードやサーバにおける学習と、中央のクラウドによる共通モデルの構築という形をとりますが、完全な分散型(P2P型)を志向したものもありえます。このP2P型のFederated Learningの場合、その構成上、ブロックチェーンとの相性が極めてよい可能性があります。共通モデルのバージョン管理をブロックチェーンによって改竄不能な形で行う等です。

Federated Learning は、デジタルサービスにおけるプライバシー保護の重要性が叫ばれている昨今、とりわけその活用が注目されている技術であり、その方向でのブロックチェーンとのコラボレーションも模索されていくでしょう。


終わりに

今回は、AIとブロックチェーンが組み合わさることでどのようなシナジーが生まれるのか、そのコラボレーションの可能性について概観しました。

AI、ブロックチェーンはそれぞれ幅広い領域で応用されており、ビジネスや社会を支えるコアなテクノロジーになりつつあります。その2つが組み合わさることによってセキュリティを強化し、データの信頼性を高め、プライバシーを保護する、新しいシステムを構築することも可能です。このシナジーが世の中で広く使われていくには、様々な挑戦がまだ必要かもしれませんが、しかし、それ以上に非常に魅力的なポテンシャルがあることも否めません。今後の展開に期待です。


おまけ

ブロックチェーン関連では他にもスマートコントラクトの解説記事を執筆しています。こちらもご興味がありましたら、ご覧ください。


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