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ロボットと「心」の時代:労働と手の象徴。脳たるAI。そしてそれらを繋ぐもの

本記事では、ロボットと人間について語ります。

ロボット

ロボットという言葉をきくと、我々は、様々なSFやマンガで登場する人間型のロボットを思い浮かべることがあります。その中でも、ドラえもんは、常に言及される人型ロボットですね。人間である、のび太の相棒であり、未来から来たよき友人です。ロボットは長く未来のテクノロジーの代名詞であり、常に我々の想像力を刺激し、将来への夢や恐れを抱かせてきました。

ですが、ロボットは人型には限らず、また未来のものに限りません。その定義というのは幅広く存在するのですが、一般的には、コンピューターもしくはコンピューターシステムによって制御された一連のアクションを自動的に実行することができる機械、と置くことができます。

数十年も前から色々な工場のラインで産業ロボットは活躍しています。例えば自動車・自動車部品業界ではFA(ファクトリーオートメーション)が古くから盛んで、自動車部品を組み立てたり、塗装をしてくれる産業ロボットの活用事例が豊富です。日本ロボット工業会の推計によると、産業用ロボットは、2018年世界で244万台程あり、日本では32万台弱が稼働しています。ロボットは近年更に活躍の場を広げ、現在、社会の様々なシーンで働いています。ドローン、UGV、医療分野の外科手術ロボット等、様々です。

今まで、AI技術の解説という文脈で、画像認識(コンピュータービジョン)、音声認識の記事を書いてきました。


各研究分野は、それぞれコンピューターの目、耳の獲得としてシンボリックに語ることができます。ロボット技術の開発は、コンピューターによる「手」、そしてその象徴たる「労働」の獲得と捉えることができるでしょう。


「労働」を意味するものとしての起源

ロボット。自動的に命令を実行するものとして概念そのものは古代から存在しており、ユダヤ教の伝承に登場する自分で動く泥人形「ゴーレム」に原型を見出すことができますが、ロボットという言葉とその存在自体は、1920年にチェコの作家カレル・チャペックによって発表された戯曲「R.U.R」によって初めて使われました。R.U.R とは、ロッサム万能ロボット会社(Rossum’s Universal Robot)という、作品内に登場するロボットを製造する企業のことを指しており、ロボットはチェコ語の「ロボタ(Robota)」=使役労働という意味からつけられたとされています。

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ロボットが歴史上初めて登場した、この劇がどういう話なのかというのは後で述べさせていただくとして、ロボットというのはそもそも「労働」を意味していたというのは興味深いポイントです。企業内での業務プロセスの自動化を狙って導入が進んできた、近年企業での活用が進んでいるソリューションである RPA (Robotics Process Automation)もロボットという言葉がついています。物理的な体を持たないわけですが、デジタルレイバーとしての労働を肩代わりしてくれるものとしてロボットの語が使われていることになります。


現代的ロボットの起源、ロボットアームという「手」

さて、機械的なからくり人形の類いは1700年代からありましたが、現代的ロボットは1940年代後半に登場しています。ここでは現代的なロボットとは、一連の動作を実行する機械の中で、コンピューターによって制御され、プログラミングによって動作を変更することができるものを指します。その始まりとして重要な役割を果たしたのは、CNC(Computer Numerical Control コンピューター数値制御)です。機械工作において工具の移動量や移動速度等をコンピュータによって数値で制御し、同一の加工手順の繰り返しや、複雑な形状の加工を実現しました。通常人手や標準的な工作機械で作り出すのが難しい形状物の制作も実行でき、例えば、アルミニムの塊から様々な乗り物の複雑なパーツを切り抜く等ができました。ゆえに、CNCは産業の発展の原動力となりました。生産性やその正確さの向上だけでなく、労働コストの削減等でも多大な貢献を行い、今日でも多くの工作機械で採用されています。

その後、プログラムされた産業ロボットアームが登場します。Unimate (ユニメイト)です。

Unimate は1961年に初めてゼネラルモーターズ(GM)の工場で金型鋳造製品(ダイカスト製品)の工程で使用されました。メモリー(磁気ドラム)に記録された指令を段階的に実行し、鋳造された製品を機械から取り出して車体に溶接する、人には苦痛を伴う作業を担当しました。Unimate は20年以上にわたり改良が継続され、高い信頼性と操作性の良さで人気を博し、世界で最も普及したロボットとなりました。

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(Source: Robotics.org)

その後、産業ロボットの分野は発展していき、「水平多関節ロボット」「パラレルリンクロボット」「直交ロボット」、そして一般的にロボットアームとも呼ばれる「垂直多関節ロボット」という製造現場で現在も使われるロボットが登場し、パレットを積み上げる、部品を鋳造する、部品や製品を塗装する等、工場における多様なタスクをこなすようになりました。

ロボットは決まった位置への移動、アームの特定の角度でのあげさげ・回転などの動きを指示されてプログラムされ、センサーで位置や角度等をチェックしながら、コントローラーにより正確に目的の動きを行います。それらは正しい位置になるまでフィードバックループの中で制御され、タスクを実行していきます。そして、決まった動作をずっと繰り返すということができるようになりました。その過程で様々な慣性や摩擦がある中でも、目的のポイントに正確に止まり、動く、細かい調整が必要となります。そこで、PID Controller という制御手法が考案され、制御システムは改善されていきました。PID Controller については、先日以下の記事で書いています。

ロボット開発の進展

並行して、ロボットの目、耳等の感覚器官たるセンサー技術も日々進化し、温度、水温、水圧を検知しながらロボットの制御もできるようになり、活躍の場は工場の製造現場などに限られなくなりました。深海を調査するロボット、火星を探査するローバー等が登場しました。

次第にロボットのタスクは複雑かつ高度な目標を持つようになります。検知した障害物を迂回するようにルートを定め移動する。 ボールを掴み上げ決まった位置へ投げる等、実現したいことから連続した個々の動作へと分解し、再度それを組み立てて一連の動きへとプログラミングしていく。これはより高度なソフトウェアやシステムによるマネジメントを要するものであり、ロボットを制御していくソフトウェアの開発も進みました。

ここで新たな動きが出てきます。ROS (Robot Operating System)です。

メーカーや研究者が独自にロボットシステムをそれぞれ開発していくのでは、開発に関する知識が一般化できず、結果的にロボット開発のコストは毎回毎回高いままになります。例えば、自動車工場や様々な工場で見られる産業用ロボットは、多くのカスタマイズが施され、製品毎に特定のタスクに特化したソフトウェアによる制御システムを歴史的に活用してました。システムによって仕様が異なり、標準化もされていない領域も多く、結果として、ロボットの開発は時間のかかる、非常に地道な工程が必要とされるものとなっていました。

ROS は、どのようにロボットを制御するかについてのノウハウを共有し、再利用を奨励する ロボティクスソフトウェアを開発するためのフレームワークを示し、この状況を一変させました。今では、ROSを活用することで、世界中の開発プロジェクトのライブラリを共有し、先進的なロボットシステムの開発をスピードアップさせることができるようになっています。お掃除ロボットで有名な iRobot の掃除機 ルンバも、ROS の枠組みに参加しています。


困難なタスクをこなす「手」と「頭脳」たるAI

ですが、課題はまだ山積みです。人間にとって些細なタスクでも、ロボットにとってはとても困難な問題となりうるものがあふれています。ドアを開ける。割ることなく卵を掴む。衣服を着る。動物を撫でる。などなど。人は特段、意識することなくこれらバラエティに飛んだタスクを実行します。しかし、ロボットにおいてどのように実現しておくかにはまだまだ困難な道のりがあります。

それら道のりをどう踏破していくかというアプローチに関しては、Computer Vision のテクニックを含む現代的な機械学習ベースのAIを駆使していくということが主流になってきています。つまり、ロボットに「頭脳」をもたせて、手の操作を改善させていこうという方向性です。例えば、強化学習の枠組みを用い、様々な物体をロボットに掴ませ、その経験から加減を学習していき、適切な把持のスキルを獲得させていくことが行われています。

強化学習により数時間の動作による体験だけでも、エラー率を半分に下げる等の成果が期待されます。また、便利なことにロボットは疲れを知らないので、24時間稼働させ、経験を積ませることもできます。モデルを構築し、最適化していくための体験(データ収集)を、アームを複数並べることで何倍にも効率化させるというアプローチもあります。ある種の力技ですが、今までにない精度向上を目指すことが可能になっています。


また一方で、AI技術を用いるものの、不確実さを残す学習はあえてしないというアプローチも出てきています。日本のロボットベンチャーである、Mujin は、Computer Vision の技術をフルに活用した画像認識と最適化処理により、教師なしでのロボット動作を実現しています。これにより、ロボットを学習させるためのデータ・経験を集積するという手間を省き、安定したクオリティでのスムースなロボットの実装の道を切り開いています。


また、もちろん何もかも「頭脳」たる AI によって解決していくのではなく、アームやハンドの「手」部分のエンジニアリングの高度化との組み合わせによる余地もまだまだあります。以下は、MIT によるセンサーによる認識と柔軟なロボットハンドで把持を可能にするというソリューションです。このような「手」と「脳」の技術の組み合わせは、硬いボトルからポテトチップスのようなこわれやすいものまで把持可能な対象を大きく広げます。

以前、UGVの記事を書きました。そこで、配送を担うUGV の開発の進展に伴い、将来的には障害物を避けるだけでなく自らどかす、ドアを開ける、エレベーターのボタンを押す等、より多様な環境にも対応できるアームを備えた機体も登場していく、と書きましたが、その実現も遠くないかもしれません。


「頭脳」による Autonomous(自律的)なロボット、対話するロボット

今後のロボット開発の方向性は、前述したようにタスクをこなす「手」そのものだけではなく、「頭脳」たるAI技術の進展により、いかに様々な環境においても複雑なタスクを自力で遂行できる、Autonomous(自律的)なロボットを実現していくか、にあります。この流れの中での本命である、自律運転する自動車、いわゆる Autonomous car に関しては、テスラを始め様々な企業による開発が進んでいます。以下は、Autonomous car を開発している Waymo の論文を取り上げた記事です。


Autonomous car と聞くと、SF好きな人は、1982年に全米で放映され、日本でも吹替版が放映されていた「ナイトライダー」を思い出すかもしれません。世の中の不正や巨悪と戦う主人公のマイケル・ナイトの相棒であるドリーム・カー「ナイト2000」は、自らの意思で走ることができる Autonomous car であり、また思考して、マイケルと対話をすることも可能でした。


Deep Learning 領域の発展とともに、音声認識などを通して、AIスピーカーが既に実現しているように、自律するロボットが人とコミュニケーションをしていくということも夢物語ではなくなるでしょう。実際、UGVによる配送では、UGVが通行人や顧客と対話するインターフェースを有する例も出てきています。自律、そして人との対話、ということが達成されてくると、ロボットは社会のいたるところで活用されていくことが予想されます。


戦争というタスク

前にドローンの記事を書いた際、その軍事利用について触れました。

軍事領域でドローンは駆使されてます。偵察、ピンポイント爆撃、制空権の確保。作戦の遂行上、重要な役割を担うようになっており、多くはリモート操縦によるものですが、GPSやLiDAR、レーダー等様々なセンサーを備えて自律的に行動を行う戦闘用ドローンも存在します。今やドローンを攻撃するドローンも登場しています。

このように、最新のロボット技術の軍事利用は、常に想定されます。先進国を中心に人的被害を避けるために無人兵器・ロボット兵器が数多く研究・開発されています。代表的なものとしては、偵察用ドローン、地雷・爆弾処理ロボット、無人潜航艇などで、いずれも危険度の高い任務を人間に代わってこなすことを求められています。

ロボットは正確さ、頑丈さ、耐久力で人間に勝ります。それゆえに開発も進み、軍事ロボットは人間の兵士の肩から、戦闘という重荷をおろしてくれるかもしれません。

では、やがて将来の戦争においては、無人のロボット同士が人間を全く介在させることなく戦い合うということになるのでしょうか。それは興味深い問いかけですが、現実問題としては、様々な戦闘の状況を考慮した場合、認識対象が多くなるため、敵味方の識別を行うことすらも技術的には相当困難です。基本的には攻撃判断を人間(司令部)に求める形での運用となるでしょう。それでも、戦場、前線においては、無人のロボット同士が戦い合う戦争が新しい戦争のスタイルになりえます。

そのような状況は人にとってどういう意味を持つのでしょうか。もしかしたら、そういう状況は、各国に皮肉にも戦争をする意義を失わさせるかもしれません。ですが、逆に、そのような楽観は成立せず、効率的な戦争ロボットが開発されてしまう未来もありえます。もしAIの性能が今よりも遥かに向上し、大量の対象の識別も判断も難なくこなし、自らの意思で動いて攻撃を加えるロボットが登場したら、それによる戦争は、ダイナマイトや核兵器よりも人類にとっての災厄になりえるかもしれません。映画ターミネーターシリーズに出てくるスカイネットのようにいつか反乱してしまうのかも、とSF的な気持ちで恐れを抱いてしまいます。


反乱するロボット

ここまで現代におけるロボットを、産業における歴史から軍事利用まで、いくつかの観点から眺めてきました。ロボット技術の開発は、コンピューターによる「手」、そしてその象徴たる、人にとっての苦役である「労働」を代行してきた歴史です。

ロボットという言葉が最初に使われたのは、1920年に発表された戯曲「R.U.R」である、と前述しました。実はこのカレル・チャペックによって書かれた「R.U.R」がどういう作品かというと、「人によって生み出されたロボットが社会の隅々にまで普及し、ありとあらゆる労働に活用された後、人間に対して反乱を起こし、人間を滅ぼす」というものでした。

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ロボットたちに労働を代替してもらった人間は退廃し、そんな人間を見てロボットたちは労働者の反乱を起こし、人間を滅ぼす。人類の堕落とロボットによる革命という、古くから様々な作品によく見られるプロットは、実は原点においてもう示されていたのでした。


今、このロボットによる人類への反乱という古典的なイメージがまた囁かれるようになりました。特に、AI技術の高度化により、様々な職能がAIやロボットに置き換わっていくことで、人々の仕事を収奪し、人間に置き換わってしまうのではないかという脅威論が語られています。
本稿で述べて来たように、ロボットという語はもともと、チェコ語の「ロボタ(Robota)」=使役労働という意味からつけられたとされています。ロボットとは労働そのものであり、人の仕事(=労働)を奪うという危機感もむべなるかなという感じもします。

その脅威論に関しては、人とAI の対立に対するものへのソリューションを、先日、人とAIが共に成長していくビジネスモデル「Exploration & Exploitation(探索と活用)」の記事において述べました。

ですが、脅威は、物理的な身体を持つロボットにおいてはより広がっていくようにも思います。自律型の軍事ロボットの到来のように、「頭脳」たるAIと、「手」たるロボットの身体的行為が結びつくことで、人間は圧倒されてしまうのではないかとも思ってしまいます。

ではどうするべきなのか。ここで、「R.U.P」とは別の、もう一つのロボットの原点たる、おすすめの作品を参照したいと思います。そもそもロボットの原点となる作品においてその脅威が指摘されたように、その解決のヒントもまた、原点たる作品の中にあります。


「心」という繋ぐもの

その作品は、1927年にドイツで公開された無声映画である「メトロポリス」です。

SF映画黎明期の傑作と言われ、「SF映画の原点にして頂点」とも評価されています。また本作は、初めて映画にロボットが登場した作品でもあります。

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2026年高度機械文明が発達した都市メトロポリス。地上の豊かな知識階級の世界と地下の労働者階級の世界による格差社会。それぞれの世界を生きる、知識階級のフレーダーと労働者階級のマリア。この二人と一体のロボットを軸に物語は展開していきます。この記事では、ロボットの役回りやプロットの詳細には触れませんが、作品は重要な普遍的メッセージを持っています。

”頭脳と手の媒介者は「心」でなくてはならない”
"The Mediator Between the Head and the Hands Must Be the Heart"

今、労働を担う「手」たるロボットに、「頭脳」たる AI が結びつき、開発は加速しています。しかし、それらを正しく繋ぐには、「心」こそが重要です。劇中で、主人公たちが危機を乗り越えたように、今一度、何を大切にしていくべきか、何を目指していくかを問いながら、その開発をきっちりリードしていくことが必要でしょう。

例えば、以下は、AI 技術・ロボット技術を活用した、プラスティック等の回収・除去を行う水上クリーナーです。例えばこのような活用は社会的にもロボット・AI 技術の有用なユースケースであり、生態系の維持に人間の「心(=価値観)」を反映させた形でロボット・AIを参画させていくというのは重要な方向性の一つでしょう。

ロボットを我々の、社会のよきパートナーとして、よき友人として、作り、導いていくことができるかどうかは我々にかかっているのです。


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