2021年のポップ・カルチャーを振りかえる


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 おそらく、他の方々と比べてかなり遅いタイミングでのベスト記事発表でしょう。いつもは年末に発表していたんですが、例年よりも仕事とプライベートの忙しさが凄まじく、書く時間をなかなか取れなかったのが遅くなった主な理由です。とはいえ、年度で見ればぎりぎりOKかな?と思うので、どうかご容赦を。

 アルバム、トラック、映画、ドラマ、本のベストを選んだのは従来通りです。ただ、前回は選ぶ作品数を増やしたのに対し、今回はすべて20作品に絞りました。聴いたり観たりの数を増やしやすい環境が整っている現在だからこそ、量よりも質を大事にし、厳選したほうがいいんじゃないか?と考えたのが絞った理由です。そのため、ベスト候補を選び、その中からさらにベストだと断言できる作品をチョイスという工程を今回は経ています。
 この工程も発表が遅れた理由のひとつです。仕事の合間に再聴 / 再見 / 再読をと思って始めたんですが、これが結構大変でした。ライター / 編集としてお金を貰い生活してる以上、手を抜きたくないなという想いもありまして、予想以上に時間をかけてしまった...。あらためて作品に触れると、新たな発見がたくさんあるんですよね。その発見について調べたり考察したりするうちに、書くタイミングを何度も逃したのはここだけの話でございます。

 2021年のポップ・カルチャーを振りかえって真っ先に思ったのは、“上と下”という視点が日本でもどんどん増えていることです。2021年よりも前から連載されていますが、漫画の『ブラッククローバー』や『マッシュル -MASHLE-』などは典型例だと思います。今年2月から週刊少年マガジンで連載がスタートした『ガチアクタ』も含めていいでしょう。去年2月には、『あのこは貴族』という日本では珍しい階級の視点がある映画も公開されました。持てる者に持たざる者が挑む、あるいは両者が邂逅する物語を求める土壌が日本でも大きくなりつつあるのでしょう。

 ただ、そうした状況との繋がりを見いだせる日本の作品に触れると、詰めが甘いなと感じることも少なくありません。たとえば『あのこは貴族』の視点は、いまの日本においては貴重なものだと言える一方で、持てる者と持たざる者が比較的容易に交わっていく展開には疑問を抱きました。この点はポッドキャストで詳しく評したんですが、要は階級の過酷さを甘く見てるように感じられる。

 ドラマ『トップボーイ』シリーズなども示すように、持たざる者としてこの世に産み落とされた人が“上”に行くのは簡単ではないし、人脈や教養といったソーシャル・キャピタルは上流階級の中で循環しやすい。こういった現実はピエール・ブルデューという社会学者の研究でも明らかにされていますが、そのことを肌感覚で理解することも、日本で生活していると難しいのかもしれない。『あのこは貴族』を観て、そう思わずにはいられませんでした。階級の視点に限って言えば、イギリス、韓国、台湾、タイなどのポップ・カルチャーのほうが断然優れた表現を多数生みだしていると思います。

 そういったことに加え、もともと労働者という自覚が私にはあるので、今回のベストは階級やマイノリティーの視点を丁寧に取りいれている作品が多くなりました。明確な政治的スローガンではなく、生活とその背景にある社会が滲みでたもの、とでも言いますか。そういう意味では、2020年のベスト記事を書いたときと似た感性で、今回も選んだと言えますね。

 選考基準はこれまでと同じです。質はもちろん、同時代性があるかを重視しました。それでいて、時代に媚びるだけじゃない独自の視点が強ければ、強い作品を優先してリストに入れております。
 下記にアルバム、トラック、映画、ドラマ、本のベスト記事に行けるリンクを貼っておきます。本稿を読み、近藤が選んだ作品を知りたいと思ったら、ぜひ読んでください。


2021年ベスト・アルバム20

2021年ベスト・トラック20

2021年ベスト映画20

2021年ベスト・ドラマ20

2021年ベスト・ブック20

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