2021年ベスト映画20


 音楽やドラマと同様、映画もアジア作品に惹かれることが多かった。まだ全国公開を迎えていない作品も含め、旧態依然とした価値観や規範に挑む物語が目立ったのは嬉しいかぎりです。特に韓国映画は、映画史の観点における深みを出しつつ、肌感覚で感じやすい抑圧や偏見への抵抗を見いだせる作品にたくさん出逢えました。高尚になりすぎず、かといって世情に媚びを売らない気品もあるという秀逸なバランス感覚は、さまざまな韓国映画に共通するものかもしれません。

 ブログやWebマガジンで評した作品は、タイトルにリンクを貼っております。こちらもぜひ読んでください。



『ドライブ・マイ・カー』

20 『ドライブ・マイ・カー』

 いまにも切れそうな細い糸を一本一本手繰り寄せるように、哀しみと光を描いていく。映像内の雰囲気は静かな印象を抱かせる一方で、その映像を観た筆者の心はさまざまな感情の機微で沸きたっていた。



『日々は、うたかたに』

19 『日々は、うたかたに』

 ヴィットリオ・デ・シーカ『自転車泥棒』といったネオレアリズモを連想させるシーンが目立つトルコ映画。生活とその背景にある社会への眼差しも感じられる良作。



『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』

18 『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』

 グロさたっぷりのブラックユーモアで攻めの姿勢を出しつつ、ラットキャッチャー2の描き方には社会の端っこで生きる人への寄り添いが感じられるなど、とても多面的な映画。いまのジェームズ・ガンだから生みだせる滋味は一見の価値あり。



『夢追い人』

17 『夢追い人

 インド映画でありながら、ネオレアリズモなどヨーロッパの文脈も色濃い。アンナ・ザメツカといったポーランドのドキュメンタリー監督を連想させる瞬間もある。



『シャン・チー/テン・リングスの伝説』

16 『シャン・チー/テン・リングスの伝説』

 『ブラック・パンサー』が多くの黒人を連帯させる作品だったように、本作も多くのアジア人を連帯させる力がある。偏見や固定概念を巧みに回避した作りはさすがの一言。



『ウォーターマン』

15 『ウォーターマン

 古典的童話の引用などおもしろいアイディアが光る。避けることが難しい喪失や、希望さえあれば何ふり構わず進んでいく勇敢さといった、人生において頻繁に訪れる情動が衒いなく描かれている。



『第8日の夜』

14 『第8日の夜』

 『サバハ』ほどの先進性はないが、じめじめした仄暗い映像に引きこまれた。7つの飛び石の橋は七つの大罪を連想させる。そうしたキリスト教的側面がありつつ、シャーマニズムや仏教などの要素も目立つところは、宗教の折衷性が複雑な韓国らしさと言える。



『ラヴ&モンスターズ』

13 『ラヴ&モンスターズ』

 ひとりの男(と素晴らしい犬)が旧来的な男らしさを乗りこえるための冒険として楽しめる物語に惹かれた。2021年は男性性など旧態依然とした性役割(ジェンダー)を解体する良質な映画が多かった。



『ホワイト・ビルディング』

12 『ホワイト・ビルディング』

 第94回アカデミー賞国際長編映画賞に出品されたカンボジア映画。プノンペンにある集合住宅の取り壊しをきっかけに、人生が大きく変化する3人の若者を描いた良質な人間ドラマは必見。



『時代革命』

11 『時代革命』

 2019年の「逃亡犯条例」改正案に対する抵抗運動を記録したドキュメンタリー。リーダーシップの分散化など、これまでの“集団”とは異なる人々の繋がりはとても興味深い。



『殺人鬼から逃げる夜』

10 『殺人鬼から逃げる夜』

 ノワール要素を上手く活かした上質な作品。ろう者であるギョンミの姿は、これまでの映像作品ではあまり見られなかったタイプの“戦う女性”を表現している。ギョンミの中指とラストのシャッター音が頭から離れない。



『ユニ』

9『ユニ』

 第22回東京フィルメックスで観た映画。10代の少女ユニが突然の結婚話に葛藤する姿を通じて、インドネシアの若い女性たちを取り巻く状況を描いた物語は、女性として生きることの厳しさそのものだと思う。



『整形水』

8 『整形水』

 外見至上主義を題材にしたアニメ。“美とは何か?”と問いつづける物語は痛烈な批評性でいっぱいだ。



『皮膚を売った男』

7 『皮膚を売った男』

 大金と自由を得るため、自ら“アート”になった難民の物語。設定や脚本は遊び心を感じるが、その心の奥底に渦巻く強烈な風刺こそ本作の本質だろう。



『スペース・スウィーパーズ』

6 『スペース・スウィーパーズ

 ハリウッド以上の多様性と下剋上を描いた韓国SF。偏見に塗れていない東アジア系の描かれ方が光る。



 『パワー・オブ・ザ・ドッグ』

5 『パワー・オブ・ザ・ドッグ』

 ベネディクト・カンバーバッチを筆頭とした役者陣の優れた演技力と滋味な脚本が生むケミストリーは絶品。有害な男らしさに対する批評眼も見逃せない。



『ワタシが“私”を見つけるまで』

4 『ワタシが“私”を見つけるまで』

 アメリカの家庭でそれぞれ養子として育った3人の少女を巡る数奇な運命が刻まれた素晴らしいドキュメンタリー。一人っ子政策の影響によって人生を半ば決められた者たちの複雑な物語が印象的だ。丁寧に練られた構成もグッド。



『野球少女』

3 『野球少女

 アンゲラ・シャーネレクといったベルリン派の映画に通じるミニマリズムを想起させる。イ・ジュヨン演じるスインの在り方は、性役割(ジェンダー)やフェミニズムの視点から観ても発見があるだろう。



『夏時間』

2 『夏時間

 韓国の世情を滲ませながら、映像には文化的グローバリゼーションが進む現在を容易に見いだせる。色使いの多彩さが素晴らしい。



『楽園の夜』

1 『楽園の夜

 『グリーンフィッシュ』や『甘い人生』など韓国ノワールの文脈を見いだせる映画。ホモソーシャルに対する拒絶感や性役割(ジェンダー)といった面でも興味深いところが多かった。

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