映画『夏時間』


夏時間


 『夏時間』は、2020年に韓国で公開された映画。監督を務めたユン・ダンビにとって初の長編作品ながら、見どころが多い内容だ。

 物語はオクジュ(チェ・ジョンウン)の視点を中心に進んでいく。父・ビョンギ(ヤン・フンジュ)が事業に失敗し、金銭的に厳しくなったため、オクジュは父や弟・ドンジュ(パク・スンジュン)と共に、祖父・ヨンムク(キム・サンドン)の家に引っ越す。ドンジュは新たな環境に馴染むまで時間はかからなかったが、オクジュは居心地の悪さを拭えずにいた。
 そこへ離婚の危機にある叔母・ミジョン(パク・ヒョニョン)も転がりこんできて、オクジュはひとつ屋根の下に三世代が集まった生活を強いられる。最初はこの状況に戸惑いを感じるオクジュだが、徐々に家とヨンムクに親しみを抱くようになる。しかし、そうして関係が深まりはじめた矢先、ヨンムクは病気になってしまうのだった。

 本作は、家族間の関わりが薄くなった韓国において、家族の在り方を問いかける。
 オクジュとヨンムクの関係性の変化などは、その側面の象徴と言っていい。2人の距離が縮まっていく過程は、たとえ血の繋がりがあっても、心が繋がっていなければ家族として一緒に歩めないことを示唆する。でなければ、最初からオクジュとヨンムクの親密さをアピールし、円満家族な姿を描けばよかっただろう。
 一見、血の繋がりや家族という在り方を無条件に尊ぶ作品とも思えるが、それらを絶対視していないフェアな批評眼が物語の随所で見られる。

 フェアな批評眼を乗せた映像は、シンプルながらも非常に質が高い。特に目を引いたのは光の使い方だ。たとえば、オクジュが住んでいた家から祖父の元へ向かうオープ二ングのシークエンスでは、部屋の電気を消して真っ暗になったあと、明るい外のシーンが挟まれる。こうした極端な明暗の使いわけは、物語と映像に軽快なリズムやグルーヴをもたらしている。脚本の展開は静謐な一方で、ひとつひとつの場面の色使いはとても多彩だ。この多彩さによって、ユン・ダンビは映画としての起伏を上手く作りあげる。

 日本映画の文脈を見いだせるのも本作のおもしろさだ。ぶれないカメラのなかで、登場人物たちが動きまわる様は、小津安二郎の作品群を容易に想起させる。これはおそらく、ユン・ダンビが夏目漱石など日本の表現にも触れてきた影響もあるだろう。
 そういう意味では、韓国映画の文脈が多くを占めていない韓国映画と言えるし、さまざまなところで文化的グローバリゼーションが進む現在の感性が滲むモダンな作品としても楽しめる。


 

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