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第9話 リーダー・プロトタイプ像とリーダー行動

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 第8話で、リーダーについて行くかどうかは、フォロワーが持つ「リーダー・プロトタイプ像」に左右されるということを説明しましたが、今回は、「リーダー・プロトタイプ像」の具体例とリーダー行動との関係について考えてみましょう。リーダーとはこういう人であるという一連のイメージが「リーダー・プロトタイプ像」です。

 どのようなものなのでしょうか。学生時代、部活、ボランティア活動、仕事等で出会ったリーダーを思い浮かべてみてください。誰しも一人や二人自分自身が描くリーダー像というのがあると思います。過去に出会った人が具体的に思い浮かばない人は、映画や歴史小説などの登場人物の場合もあると思います。そして、人によれば、優れたリーダー像あるいは最低のリーダー像を思い浮かべるかもしれません。そのリーダーはどのような特性でしたでしょうか。人によって様々かとは思いますが、例えば、優れたリーダーの場合、「今でもすごいと思う、高校の時の部活の監督だった○○さんは、(「勇気がある」、「強引な」、「きぜんとした」、「沈着冷静な」、「きさくな」、「先見性のある」…(人によって様々))という特性を持った人だったな。」などで表すことができる人だったのではないでしょうか。

 このような自身が思い描くリーダーの特性が、「リーダー・プロトタイプ像」です。そして、優れたリーダーばかりでなく、反面教師とすべき、最低、最悪のリーダーの場合もあります。このようなリーダーの特性はどのようにして判断できたのでしょうか。人がリーダーとの相互影響関係の中で、リーダーを判断するのは、日々観察をすることができるリーダー行動が中心となります。よって、リーダー行動によって判断したのだと思います。上述の優れたリーダーの特性の例でいうと、「勇気がある」、「強引な」、「きぜんとした」、「沈着冷静な」、「きさくな」、「先見性のある」などの後ろに、それぞれ「行動をする人」とつければ、例えば、「優れたリーダーとは「勇気がある」・「行動をする人」だ」となり、もっと具体的にわかりやすくなるかと思います。そして、この自身が描くリーダー行動について、ここでは「プロトタイプ的行動」と呼ぶことにします。「プロトタイプ的行動」にも、優れたリーダー行動ばかりでなく、最低、最悪のリーダー行動の場合もあります。人は、「リーダー・プロトタイプ像」とともに、リーダーがとっていた「プロトタイプ的行動」についても自身のリーダー像の中に持っていると考えられます。

 さて、本説明のメインテーマは、第1話から一貫して、「1人でも部下をもったら…」です。初めてリーダーに任命され、1人でも部下を持つこととなったリーダーは、どのようなリーダー行動をとろうと思うでしょうか。当然、組織業績を向上させるため、優れたリーダー行動をとろうと思うでしょう。でも、ちょっと待ってください。仕事で初めて任命されたリーダーの場合、職務上の行動について、責任をもって部下社員をリードするような状況に遭遇するのは初めてです。そして、過去の成功や失敗の経験を持ち合わせていない未知の領域であることが普通です。なのに、優れたリーダー行動はどのようにしてとることができるのでしょうか?

 このことを解明するために、人が、自身にとって未知のものに対処しようとするとき、どうするのかを、一般的な例で考えてみましょう。例えば、大事な会食がフルコースディナーであり、今までフルコースディナーを食べるときのテーブルマナー等についてあまり考えたことがなかったとしましょう。大事な会食なので、事前にテーブルマナー等知識を得た上で臨むことと思いますが、自身の事前の知識では対処できないような食べ物が出てきたときにどうやって食べますか。わからないので、ウェイターやウェイトレスに食べ方を尋ねるというのも一つの方法ですが、ウェイターやウェイトレスがいないときはどうしますか?
 「思い切って自己流で」という人もいるかもしれませんが、大事な会食の場合、その場の雰囲気を壊してはいけないので、会食の先方や周りの方が食べるのを見て、同じような行動をするという人が多いのではないでしょうか。このような、他の人の動作や行動を見て同じような行動をすることを、心理学では、モデリングといいます。

 リーダーの話に戻りましょう。ここで出てくるのが、先ほど説明しました「リーダー・プロトタイプ像」と「プロトタイプ的行動」です。自身の記憶の中に、優れたリーダーとの思い出があれば、その時のことを思い出して自身のリーダー行動の源泉とするでしょう。つまり、初めて任命されたリーダーは、未知の領域に対処するために、過去自身が関わってきた、優れた人のリーダー行動。例えば、優れたリーダーが、部活の監督であれば、「チームとして初めて対外試合に臨んだとき、監督の○○さんは、終始、沈着冷静な行動をとっていたので、自身を含め周りのみんなが動揺することなく伸び伸びとプレイすることができた。その結果、相手チームに勝つことができたよな。」など、というようなことを思い出し、監督のリーダー行動をモデリングして、同じような行動をとるのではないでしょうか。部活のみでなく、仕事のリーダー、映画の中のリーダー、小説の中のリーダーなど、個人によって様々なリーダー行動の場合があると思います。
 しかし、ここで断っておかなければならないのは、優れたリーダー行動とは自身が考えて良かれと思う行動で、リーダーの主観にもとづく行動です。その行動がフォロワーに受け入れられるかどうかは別です。フォロワーにその行動が受け入れられるかどうかは、今度は、フォロワーが持つ「リーダー・プロトタイプ像」と「プロトタイプ的行動」がリーダー行動を評価する拠り所になります。

 以上まとめますと、リーダーシップについて、任命されたリーダーは、自身が持つ「リーダー・プロトタイプ像」と「プロトタイプ的行動」を拠り所にして、特定のリーダー行動をとります。そのリーダー行動に対してフォロワーは、自身が持つ「リーダー・プロトタイプ像」と「プロトタイプ的行動」によりその行動を比較・評価し、両者が整合しておればリーダーへの評価は高く、リーダーへの支持は強くなり、リーダーに自発的に追従する。整合していなければリーダーへの評価は低くなり、リーダーへの支持はそれほど強くならない。
 というように、「リーダー・プロトタイプ像」をキーワードとして考えることができます。つまり、「リーダー・プロトタイプ像」と「プロトタイプ的行動」は、リーダーにとっては、リーダー行動の拠り所となり、フォロワーにとっては、リーダーを評価する拠り所となるということです。

 これらのことを良く知っている。知識として知らなくても、直感的に理解しているリーダーは、自己のリーダー行動について客観視や内省することができ、一方的な独善的な行動とならず、フォロワーとの相互影響関係を続けながら、より良いリーダー行動へと結びつけることができるのだと考えられます。1人でも部下を持つリーダーは、自己のリーダー行動をもう一度「リーダー・プロトタイプ像」をキーワードに再考してみてはいかがでしょうか。

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