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嫌われてもいいんだ!──私が本を味方にした話

読みびとのまさきです。

今回は、noteのサブタイトル『本を味方にした人生を。』について、例えば私自身が「本を味方にしたこんなエピソードがありますよ」というテーマで書いてみようと思います。


嫌われてもいいんだ!

もう10年ほど前になるのですが、私は当時新卒で入ったマーケティング系の会社に勤めていました。当時30代前半で在籍9年目、一番活躍が期待されている、油の乗った時でした。心では「頑張っていかなきゃ」と思ってはいるのですが、あんまり仕事が楽しいと感じられていなくて、苦しいと感じることの方が多かったです。ただ、上の人からは期待され、後輩には頼られ、上からも下からも迫ってくる期待に応えていかなければならず、タイミング的に管理職に昇進することになって、その期待が責任になってのし掛かってくる、そんな時期でした。

難しい仕事にもバランス感覚や手際の良さを発揮してそつなくこなしていると、困った時は「あいつにやらせよう」みたいな感じになってしまい、人の評価を下げないように頑張っていたのが、当時の私でした。そこには「自分がない」というか、周りからの期待を断りきれず、やりたくもないのに、やらざるを得ないことばかりの会社員時代を過ごしていたのです。

ある時上司からの何気ない一言で私の心がポキッと折れてしまい、そこから体に力が入らないというか、ベッドから起きられなくなってしまいました。いよいよこれはちょっとまずいなと思って、休職をすることになりました。

いざ休み始めると、やることがないので、すぐに何をしようかと悩んでしまいました。社会人になってからは、あまり本を読んでいなかったのですが、本を読むぐらいしか選択肢が浮かばなくて、いよいよ何十年ぶりかに図書館に行きました。図書館は何も言わずに私を中に入れてくれました。そして、気付いたらほぼ毎日通っていました。本というものはいつでも自分を受け入れてくれて、いつでも話し相手になってくれるという、すごい身近な存在なんだと徐々に気づいていったのです。

ずっと自己啓発系は読むと負けというか自分が弱くなってしまうような印象を持っていたので、特に避けていたのですが、いよいよこういう状況になってしまったからには、向き合ってみようかと思って、いわゆる自己啓発本を読み始めてみました。

ある時手にした本が、私を救ってくれたというか、人生を変えてくれた一冊でした。それが岸見一郎さんと古賀史健さんの『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)です。ベストセラーになって今でも本屋に平積みになっているような本ですので読んだ方も多いと思います。

岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラーの教え」』ダイヤモンド社

当時、アドラー心理学については全く知識なかったのですが、これを読んで衝撃を受けました、私は社会人生活で、いや人生において、ずっと嫌われないように生きていました。すごい良い子を演じてたと思います。その私がこの本を読んで、人に嫌われてもいいんだ、嫌われないように頑張ってたんだと思うと、視点が変わったというか、スイッチが切り替わった感覚でした。

この本を読んでから、自分が考えていることや大事にしたいことを大切にする勇気(それがいわゆる「嫌われる勇気」だと思っていますが)を持つように心がけました。今でも時折人間関係に疲れた時や悩みが深い時に読み返してみると、前回とはまた違う箇所で、その時に必要なメッセージで救ってくれる大切な本だなと感じています。本を味方につけているという感覚を私に教えてくれた一冊だったと言えます。

後日、この本を書かれたお一人の古賀史健さんが書かれた『取材・執筆・推敲 書く人の教科書』(ダイヤモンド社)という、ライター向けの本を読むと、その中で、『嫌われる勇気』は「100年後の読者にも読まれる本にしたい」、そのために「100年前、つまり日本でいえば大正時代の読者が読んでも理解できるような、そしておもしろく感じてもらえるような本をイメージした」と述べられていました。「長く読み継がれるにはどういう本にしたらいいか」を徹底的に考えて作られていることがわかります。『嫌われる勇気』は、これからも時代を重ねていっても、いつでも読める本であり、名著として受け継がれていく本ではないかと思います。

とことん考え抜かれた対話形式

続いて、この本の凄さについて語っていきたいと思います。

この本『嫌われる勇気』は初版が2013年、もう10年ほど前になり、すでに大ベストセラーの国民的名著になってきていると思いますが、なぜ、この本は読者が途切れないのか。

その問いを考えると、現代人特有の悩みにこの本がある程度応えてくれるという一定の信頼が得られているのだと思います。アルフレッド・アドラーの功績も大きいですが、何より、この『嫌われる勇気』という本が素晴らしいのです。

まずこの本のスタイルとして、対話形式というものを採用しています。冷静で穏やかな「哲人」と悩みの深い「青年」が対話して2人で物語を展開していくという形式です。もしかすると、普遍的な悩みに対する処方箋を提案するような本は、この対話形式が一番望ましいのかもしれないと、今改めて感じています。

メンタルの問題などは、解決策があっても簡単に前に進むものではありません。様々な本で、こういう症状は過去にこういう経験があることが多いと原因が書かれてたり、こんな悩みにはこういう行動を起こしなさいという処方箋が書かれていたりしますが、わかってもできないのが人間なので、その点この対話形式というスタイルは人間の面倒臭さに付き合ってくれる気がします。

この本で中心となるのが青年が持ちかける、なぜか対決姿勢の相談であり、悩んでは相談してを繰り返してくれて、わからないことを徹底的にわからないと言ってくれるのです。それに対して哲人がうろたえず穏やかに青年に付き合って、わかりやすい例えを出したり、言葉を言い換えてみたりしながら、丁寧に答えていく、それによって私たち読者が自分の悩みと結びつけながら、アドラーの考え方を染み込ませていくことができるという構成になっています。文章自体も読みやすいですし、世に届けることを考え抜いたからこそ、こういう対話形式のスタイルになったのだと思います。

ここはライターの古賀史健さんの力が大きいと思います。「私は岸見先生のプラトンになります」と宣言されてこの本に取り掛かったと、あとがきにも書かれていました。岸見先生を口説いたわけですね。ソクラテスは哲学の始祖と言われていますが、ソクラテス自身は本を残しておらず、弟子のプラトンがソクラテスと弟子の対話という形式で、ソクラテスの考え方を文字にして伝えたと言われています。岸見先生をソクラテスとすると、古賀さんというプラトンがいて、この本が成立したというのがとても味わい深いところだと感じます。

他人の悩みを悩んでませんか?

さらに本の内容についても触れていきたいと思います。

この本の内容で一番素晴らしいと思うのが、「全ての悩みは対人関係の悩みである」と言い切ってるところです。

お金の悩みとか、勉強や仕事の悩みとか、悩みは他にもあるのではないかと思ってしまうのですが、この言い切りが気持ちいいです。確かに自身の悩みを突き詰めて考えていくと、必ず他者が絡んでくる気がします。誰かの期待に応えようとして勉強していたり、誰かを支えないといけないから仕事をしなければいけなかったり、全てを対人関係の悩みであると言い切っても間違いではないと感じます。対人関係は、家族や同僚、先生、世間にも当てはめることができ、悩みをシンプルに対人関係の悩みに収束させることができると、悩みが思考しやすくなります

あと、私が有効だと思っているのが、「課題の分離」という考え方です。私はコーチングという仕事をやっていて、よく人の悩みというものに触れています。私のクライアントさんでも、多くの人が、この「課題の分離」ができていないで悩んでいるという印象を持っています。かつての私自身もそうでしたが、他人の悩みを引き受けて自分が悩んでしまっているのです。

この本では、勉強しない子どもに対してお母さんが悩んでいるエピソードがありますが、「一体その勉強しないことで悩むのは誰なのか、それは子どもでしょ」と、「あなたがそれに悩んでどうするんだ」というすごい斬新な考え方というか、私にとっては「そう考えていいんだ」という大きな発見でした。

悩みを抱えてしまっている当の本人の本当の悩みは何なのかを考えていくと、まず他人の悩みを背負ってしまっていないかに目を向ける必要があると思います。「自己受容」や「共同体感覚」など『嫌われる勇気』で後半語られている、自分の未来を切り開いていく考え方は、「課題の分離」ができてこそです。

何度も言いますが、「課題の分離」は本当に便利な考え方です。コーチングを受けるような人は、それなりに自分を振り返る意識があるので、『嫌われる勇気』を読んだことある方は多いです。でも課題の分離ができていないのです。そういったテーマに直面したときは、「ぜひ今こそ『嫌われる勇気』を読み直してみてください」と言わせてもらっています。

この記事を書いて、『嫌われる勇気』は改めて良い本だなと感じました。読んだことがない方はぜひ読んでいただきたいですし、読んだことがある方も深く悩んだ時にこそ、この本を開いていただきたいと思います。

ではまた次回。

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