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[第21節_富山vs横浜] ‐ 1on1の能力差が5on5に及ぼす影響 -[21/2/12]

第21節。富山対横浜の試合は96-55で富山が圧勝した。
試合は前半早々に富山が大量リードを奪い、危なげなく勝利した。
今回は良い機会なのでバスケットボールの基本原則や構造について触れつつ、この試合の解説をしていこうと思う。

玄人の方は復習に、初心者の方は楽しみを広げるきっかけになってくれれば大変嬉しく思う。


29  1Q  13
26  2Q  8  
23  3Q  15
18  4Q  19
富山   96   F    55   横浜

前回の対戦との違い

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一応前回の富山vs横浜(第6節)を見ていない人のために触れておくと、前回は最終的に20点差まで開いたものの、4Q残り8分までは同点の試合をしていた。

しかし、今回はというと全くそういう展開にはならず、前半で34点差というワンサイドゲームになった。

まずはこの前回と今回の違いについて説明していきたい。

・第6節の横浜のゲームプラン

前回の対戦では横浜は32分間、富山のオフェンスを57点に抑え、ロースコアなスモールバスケットで対等に戦っていた。
そこには横浜の多くの工夫があった。

スローペースで両者の攻撃回数を減らすこと。
P&Rからのパス回しでフリーになったアウトサイドシュートを打つ。
ミスマッチを作り、ビッグマンの所で確実に得点。
2-3ゾーンで中を締め、アウトサイドはある程度捨てる。

個人能力差が顕著に表れる1on1のシチュエーションを徹底的に避けることに成功した横浜は富山に気持ちよくバスケットをさせず、自分たちのペースに引き込むことで富山の得点能力を沈黙させたのだ。

・強すぎる富山

富山は"1on1野郎"と呼ばれる得点能力が高い選手が多いため、こういった横浜のような対策を取ってくるチームは多い。

オフェンスはスミスのマークするCを絡めたP&Rで攻撃し、DFはゾーン系やローテーションでノンシューターの外を捨て、なるべく1対2のシチュエーションを作って守る。
これはもはや常套手段であり、富山対策のテンプレートである。

今シーズンは大きくメンバーが変わり、開幕にロスターが揃わなかった富山は第6節の時、まだ粗削りだった。
DFにもシステムにも綻びがあり、それを個人技で補って失点以上に得点を取る富山には付け入る隙が多いにあったと言える。

しかし今節の富山は強すぎた。
富山はそこから毎試合、自分たちの粗と向き合い修正を繰り返した。

個々の良さを話し合って相互理解を高めた名古屋戦
1on1野郎のペイント渋滞問題を解決した広島戦島根戦
P&Rディフェンスを鍛えた信州戦東京戦
ハードなシステムディフェンスに耐え抜いた秋田戦

自軍のチームカラーに加え、富山の粗を突いた作戦で富山を苦しめた各チームの取り組みは、結果として富山を強くしてしまった。

スミスはR&Rディフェンスを克服し、チームのローテーションDFも向上。
オフェンスでも自分たちの1on1の効果的な使い方を理解した。

3ヶ月ぶりに対戦した富山に以前のような隙はなかったのである。

1on1の差が5on5に及ぼす影響

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今節の解説に入る前に、バスケットボールの基本原則を今一度確認したい。

バスケットボールは相手より多く籠に玉を入れるスポーツである。
故に極端な話、1対5のオフェンスだろうが決められればそれは正解である。

得点労力のコスパやオフェンスの美しさは勝利条件に含まれない。
1人で5人を蹴散らして得点できるならそれに越したことはないのだ。

しかし現実ではそれは不可能に近く、1対1で得点できるだけでも充分優秀であり、1対2で得点できる選手はスケール違いのバケモノレアカードである。

そこで、1対1でスコアできない選手達はスクリーンの使用が必要になる。
1対1の状況にスクリーンという壁を用いれば2対1となり、DFを壁にぶつけて無効化すれば1対0のシュートを作ることができる余地が生まれる。

この発想がP&Rであり、そうはさせまいとするDFにはP&Rの様々な種類の守り方が存在する。
こうして現代バスケのオフェンスとディフェンスの駆け引きは成り立っている。

しかし1on1能力に差がありすぎた場合、ドリブラーはこの壁を使う事すら困難になる。

想像してみてほしい。
自分より少しサイズがあり、経験値もある選手が相手だったら?
1on1での得点は少々難しくなる。
さらに自分より身長が20cm高く、スピードやジャンプ力でも勝てない相手だったら?
1人でシュートに持ってくのすら難しくなる。
さらにスケールがかけ離れた相手だったら?
ドリブルを続ける事すら困難になり、スクリーンを使うどころではないだろう。

つまり、サイズがある・速い・フィジカルが強い・リーチが長い・経験値といった要素で相手に劣るほど、ドリブラーはできることが制限されていく。

バスケットボールはチームスポーツではあるが、1on1の能力差は決して無視はできないという残酷な側面もあるのだ。(もちろんこれが全てではないが)

これを踏まえ、今節の前半34点差の理由について具体的に解説していく。

横浜のOF vs 富山のDF

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横浜は前回同様にP&Rを攻撃の起点としていくが、イージーシュートを作り出せない。
スミス選手のフットワークを突こうにも、既に信州と東京のおかげで富山の2on2DFはアップデート済みである。

しかし横浜のP&Rは決して下手ではない。
2on2の部分だけ切り取れば、とても正しいタイミングでガードからロールマンへとパスが出される。

が、そこには富山の3人目のDFが素早くヘルプに回って難なくシュートを阻止していく。

しかし、P&Rを行う2on2に3人目のDFを引き付けられているならばどこかで1対0が生まれているはず。
松島解説が「横浜はP&Rの時、もう一ヶ所パスを見たい」と言っていたのはこの点であるが、横浜にはこれができない理由があった。

それが1on1能力の差である。

富山はシンプルにデカい。ガード陣は190近くあり、かといって動きが鈍いわけでもなく、むしろ脚があるディフェンダー達である。(松脇選手はこれに加えて横のサイズとフィジカルもある。)
そして富山のDFは日に日にハードになっている。

先ほども述べたように、ドリブラーはDFのレベルが上がるほどできることが制限されていく。
ドライブでのチャンスメイクが難しくなり、次に視野の確保が難しくなり、仮に見えていても長い腕にパスを遮られてパスターゲットを減らされていく。
そして最悪の場合、ボールキープすらも難しくなる。
(下記動画の3つ目のプレーについては後でも解説)

これにより、横浜のオフェンスは "隣" にしかパスが飛ばないため、ことごとく富山のローテーションDFに先回りをされてタフショットやターンオーバーが頻発していた。

こういった状況でDFを往なしながら逆サイドへの視野を保ち、ノールックでドリブルを継続してボールを守り続けること。
さらにカットされない小さな予備動作でパスを捌くことはかなり難しい。



では今回の試合のように、1on1で劣るチームに勝機はないのかというともちろんそんなことはない。

例えば動画の3つ目のプレーの場合。
横浜のドリブラーは "隣" へのみにパスを限定されているが、逆を言えば "隣" には出すことができる。
なら、その "隣" にパスコースを作ればいい。

セオリープレー20-07

こういった方法で1on1の劣勢を組織力で補うことは可能である。
ドリブラーからワイドオープンへ直接出せればそれがベストだが、中継役を用意して細かくパスを繋げば問題ない。

逆に言えばこの試合の状況は、富山のDFに苦しむドリブラーに高難易度な逆サイドへの横断パスが要求される場面を作り出してしまっている横浜の組織力のミスとも言えるのである。

・わずかながらチームを救っていた河村選手

実は途中出場した河村選手はこの点を少し改善していた。
横浜は1Qに彼が出るまでの5分49秒間で4回ターンオーバーをしていたが、彼が出て以降の4分11秒間ではそれは1回になり、2Qも3ターンオーバーに抑えた。

河村選手でも一人で富山のDFを引き付けながら逆サイドへ捌くことはできないが、スネークドリブルで中央へカットインし、逆サイドへ近づいてからパスをしていた。
これによって、ボールが両サイドを往復するようになり、ボールの巡りが少し良くなり、シュートで終わることができるオフェンスが多くなっていった。

しかしシュートチャンスが生まれても、それが対等に戦えている中でのものなのか、散々スチールをされてセルフイメージがダメージを受けた状態なのかによってシュートに掛かるプレッシャーは変わる。

横浜は2Qのターンオーバーを3に抑え、16本のシュートを打つことができたが成功は2本(12.5%)に留まってしまう。


・水戸の経験 vs 河村のセンス

話の流れからは逸れるが、水戸選手 vs 河村選手の1on1は非常に見ごたえがあったので触れておきたい。

第1Q残り4.4秒の場面。
スローインのボールをベクトンが受け、河村に手渡しでボールを渡そうとするが水戸がこれを塞ぐ。
その水戸に対して河村がカウンターでバックカットを狙うも水戸はさらに対応。
3度目の河村のカットとベクトンのピボットでようやくボールが渡り、河村は右へ大きくワンドリブルをついて水戸をかわし、ブザーギリギリで3Pシュートを決めた。

しかし判定の結果、惜しくもこれはノーカウントとなった。

この1シーンは河村選手の抜群のスキルとセンスを証明するプレーではあるが、「水戸選手を出し抜いたのに不運にも無効に終わった」という見方は少し違う。

なぜならば、水戸選手が河村選手の右ドリブルを許したのは水戸に「そんな時間はもう残っていない」という確信があったからだ。

4.4秒から3回のベクトンのピボットの末にボールを保持し、河村と対峙した時点で水戸は "自分の守備範囲から逃れるワイドなドリブルからのシュート" を選択肢から外した。
そして、念には念を入れてブロックに跳べる間合いまで詰めた。

その結果、絵面としては河村が水戸をかわした形になったが、実は水戸の長年の経験によって研ぎ澄まされた正確な体内時計が河村を上回ったシーンだったのである。


とはいえこれは推測になるが、もしかしたら河村選手も時間内に水戸選手をかわすのが難しい事を悟った上で、一か八か判定がカウントで流れることに賭けてこのシュートを選んだのかもしれない。

どちらにせよ、末恐ろしいプレイヤーであることは間違いない。

富山のOF vs 横浜のDF

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話を戻すと、OF面でも富山側に1on1能力の分がある。
故に1on1で点が取れる富山の選手達にスクリーンは必要ない。

富山はシンプルに1on1から1対0の状況を作ってシュートを決める。
それを防ごうと2人目が寄っても、それは1人目がすぐにやられてしまったところに寄る形だ。
つまり、富山のオフェンダーからすれば処理できる1対1が2回あるだけで、1対2の状況は一度も生まれていないのである。

故にパスの選択肢も特に制限されていないため、簡単にキックアウトをして完全フリーの3Pシュートを決めていく。
(さらに言えば秋田のおかげでこのヘルプの処理にも磨きがかかっている。)

この日の富山は前半で3Pシュートを14本中8本(57.8%)を決めたが、これは富山のシュートタッチが特別良かったわけではない。
これだけ条件の良い3Pシュートが生まれれば富山のメンバーはいつでもこの精度でシュートを決める。

故に前半の55得点は平常運転であり、富山にとっては驚くことではないのである。

わずかに流れが変わった第3Q

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55-21という状況で迎えた3Q。
既に勝敗は決まったといっても過言ではないが、当然横浜も富山と同じB1のプロチームである。

横浜は諦めずに前向きに取り組み、ここから流れを変える。

オフェンスが最高の形で決まり続け、これだけ点差が付けばリードした側は集中力や緊張の継続が難しいものだ。
これは富山も例外ではなかった。

富山はオフボールの脚が止まり始め、そしてプレッシャーを強めた横浜のDFにドリブラーが捕まり始める。
秋田戦をこなしてきた富山は完全にはDFに掛からず、しっかり鳴る笛にも助けられ、ターンオーバーまでには至らないが僅かにオフェンスのリズムは悪くなっていく。
単発な1on1と不十分なスペーシングのオフェンスが続き、ミスショットが増えていく。

さらに横浜は富山のオフェンスが僅かに停滞している間にオフェンスも改善させる。

それまではP&Rからの細かいパス経由が多かったが、横浜は後半からアキ、森川、生原らが積極的にシュートを放ち、得点を決めていく。

1人で2人を引き付け1対0を作ろうとし、深い位置までP&Rを引っ張りすぎると捕まって潰されてしまう。
ならばクリーンなシュートを作れずとも、捕まる前に思い切ってシュートを打ちきってしまうという考えだ。
これによって横浜は3Qの開始4分間で10-5とこの時間帯に限れば富山を上回った。

しかし、今の富山は立ち直りも早かった。

それまでフリーランスにパス回しをして上手くいかなかった富山は、きちんと得意な形のシュートで終われるようセットプレーを選択。
前田選手に3Pシュートを打たせるセットでファールをもらい、フリースローを決めて流れを切ると、そこからわずか3分で10-0のランで再び40点差近くまで引き離した。

ここで勝負は完全に決まった。


今節の横浜戦は2戦目という事もあり、富山の成長が良く見える試合となった。
修正を積み重ねながらも3勝5敗とした12月の強豪8連戦は無駄ではなかった。各チームの脅威を自分達の自信へ取り込んできた今の富山は正真正銘強豪の一角である。

次節の相手は大阪エヴェッサ。
大阪は取りこぼしが多いため西の4位と燻っているが、宇都宮、千葉、東京、渋谷、琉球、三河と多くの強豪チームから勝ち星を奪っている。

"強豪喰い"の大阪との対戦。
富山はどう戦うのか注目していきたい。

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岩沢マサフミ@富山解説
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■引用動画
バスケットLIVE 様

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