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多様性が本当にいいのか?と社長に言われたら参考にできるエビデンス

集団が創造的であるためには
―集団創造 性に対する成員のアイデアの多様性と類 似性の影響より
三浦麻子 大阪大学
飛田操 福島大学
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjesp1971/41/2/41_2_124/_pdf/-char/ja

結論

集団が創造的であるためには、メンバー間の多様性と類似性の両方が必要である

先行研究

ー多様性の定義ー
集団による問題解決場面やそれに類する相互作用場面で、各成員が互いに異なる方針を示すことができる程度として定義される (Thornburg, 1991)。


複数の個人が集団を形成し、互いのアイディアを共有することによる恩恵のひとつは、相互作用の中にそれぞれのユニークなアイディアを持ち寄ることができることであるが、このメリットは集団成員が多様である場合に特に生かされる (Jackson, May, & Whitney, 1995; Moreland, Levine, & Wingert, 1996)。


多様性の高い集団では、コミュニケーションによる成員相互の共通理解が困難になる (cf. Newcomb, 1953)


多様性の高い集団の成員は、話し合いのプロセスにおいて、より強い対人的葛藤を感じていたことが示されている。(山口 1998)

従来の研究では、集団成員の多様性の指標として、デモグラフィック属性あるいはそれに類する変数 (例えば政治信条 (Triandis, Hall, & Ewen, 1965)、職業的興味 (Thornburg, 1991)、あるいは大学の専攻 (山口, 1998) など) が取り上げられてきた。

実験1

実験1の目的は、集団成員の多様性の程度によって、集団創造性が異なるかどうかを検討すること。

仮説1:集団成員のアイディアの多様性が高い方が、集団の創発性が高くなる。
仮説2:集団成員のアイディアの多様性が高い方が、コミュニケーションの困難さが増す。

結果・考察

集団の創発性に関しては、いずれの指標に関しても集団成員のアイディアの多様性の有意な効果が検出されず、仮説1は支持されなかった。つまり、単に集団成員のアイディアの多様性が高いからといって、必ずしもその集団が高い創発性を発揮するとは限らないことが示されたわけである。

多様性が予測したほどの効果を持たなかった原因のひとつとして、評価懸念の問題が考えられる。集団として潜在的に保有しているアイディアが多様なカテゴリーからなる場合、それぞれの創出アイディアが非常にかけ離れたものとなることが考えられる。このような場合、あまりに着想の異なるアイディアに対してネガティブな評価がなされることを懸念して、アイディア創出が抑制される可能性があろう。

ここで測定されている「多様性」は、集団成員の持つアイディア・プールの大きさを示す概念である。各個人のアイディア・プール間の距離が大きく離れすぎていたならば、それはアイディアの多様性というよりもむしろ発散に過ぎない可能性がある。

集団成員のアイディアが多様であることは、それ単独では集団の創造的成果に結びつくことはないことが示された。しかし一方で、成員の課題に関する満足度については、有意ではないものの、多様性が高い集団の成員の方が、より課題を楽しく、面白いものだと感じている傾向が示された。このことから、アイディアの多様性は、認知的な側面に対しては、自分とは異なる、多様な他者の発想に触れられることによる知的刺激として機能することが考えられる。

実験2

実験2では、集団成員の持つアイディアの多様性に加えて、集団成員の持つアイディアが互いに類似している程度(「集団成員のアイディアの類似性」)を独立変数として導入し、これら2つの変数が集団創発性におよぼす影響を検討する。

集団によるアイディア創出過程で、異なるアイディア同士が「ぶつかり合う」ことによるプロッキング(Diehl & Stroebe, 1987, 1991)が生じるのであれば、相互に類似した発想を持つ成員から構成されている集団の方が(ブロッキングの程度が減少するために)コミュニケーションが活発になり、その結果、集団の創発性は高くなることが予想される。

しかしながら、自分が発想しなかったアイディアに触れることによって新しいアイディアが創発されるという一種の「触媒効果」が生じるのであれば、集団内の類似性が高く、成員相互で重複するアイディアが多いほど触媒効果が生じにくくなり、結果として集団の創発性は低くなることが予想される。

仮説3: 集団成員のアイディアの多様性が高く、かつ類似性も高い集団において、集団による高い創発性が得られるだろう。

仮説4: 集団成員のアイディアの類似性が高い集団は、類似性の低い集団よりも、コミュニケーションが円滑になるであろう。

結果・考察

多様性と類似性の両方が高い場合に集団の創発性が高くなり、また、類似性が高い場合にはコミュニケーションが円滑に進行し、コミュニケーション・プロセスに関する認知がポジティブになるとの仮説が検証された。

実験2の結果、集団成員のアイディアの多様性が低い集団よりも高い集団において、そして、集団成員のアイディアの類似性が低い集団よりも高い集団において、より高い集団創発性が認められ(Figure1)、多様性が高く、かつ類似性も高い集団において、集団による高い創発性が得られるだろうとしたわれわれの仮説3は支持された。

また、満足度についても、多様性が高く、かつ類似性が高い集団成員においてもっとも高くなっており、創発性パフォーマンスと連動した結果となっている。

集団生産性の幻想とは、アイディアの多様性が低く、また同時に類似性も低い集団では、豊富なアイディアが創出されることも、あるいはお互いが共通点を見いだすことでそこから新しいアイディアが展開することも望みにくい。すなわち、集団創発性に関する分析結果にも示されているように、集団としてのパフォーマンスレベルは(相対的に)低いことが考えられる。

実験1、2ともに集合場面での一斉実験をおこなったが、このことが集団のパフォーマンスや成員の認知に影響をおよぼした可能性を否定することはできない。いずれの実験状況においても,自分の属する集団以外の成員と会話をすることは禁じられ、相互作用は集団内のみでおこなわれた。しかし、隣接する集団との距離はごく近く、お互いの会話の内容が耳に入った可能性はある。将来的にこのような集団相互作用以外の要因が従属変数に与える影響を統制するためには、集団ごとに個別実験をおこなうなどの工夫が必要であろう。

さらに、実験2では類似性を「個人課題のアイディア・カテゴリーが集団内で重複している数」として操作的に定義した。すなわち本研究における「成員の類似性」とは,相互のアイディア・カテゴリーにおける共通性の程度を示すものでありその意味では限定的である。成員間で互いのアイディアが類似しているということは,コミュニケーションによる合意形成を円滑にし、または相互に魅力的な関係を形成させやすいことが推測されまた実験の結果からもそれを支持する知見が得られた。

しかしその一方で成員の類似性という概念そのものを考えてみると、今回取り上げたカテゴリーの重複度という側面から見た類似性以外にもさまざまな側面やレベルの類似性を取り上げて検討することが可能であると考えられる。今後は,そのような点についても考慮しながら、より統合的な概念によるモデル構築に向けた努力をするべきであろう。

集団レベルの従属変数(集団創発性)と個人レベルの従属変数(コミュニケーションに関する認知、成員の満足度)を独立に扱ったことの問題点についても述べておきたい。両者はいずれも集団過程の成果変数であり、密接な関わりを持っていると考えられよう。しかし本研究においては、両者を独立に扱うにとどまり相互の関係については検証することができなかった。集団研究における個人データは、同一の集団内では互いに依存しあっているが、異なる集団間では独立であるゆえに分析が難しい。

先行研究でもこの問題を考慮していないものが多い(cf.Hoyle,Georgesen, & Webster,2001)のが実状である。しかし近年は構造方程式モデリングに関する方法論の発展により、多段抽出モデル(cf.Snijders & Bosker,1999)などを用いることで集団間要因と集団内要因を同時に分析することが可能となっている。

総論

今後の研究ではこのような新しい分析手法を用いて集団レベルの従属変数(集団創発性)と個人レベルの従属変数(コミュニケーションに関する認知、成員の満足度)の関係についてより明確に検証することが必要である。 従来の集団創造性に関する研究においては,必ずしも集団は創造的にはならないことが示されてきた(例えば亀田1997)。しかし本実験の結果集団が創造的となったり、創発性を高めたりするためには、集団成員がそれぞれユニークで多様な視点を有すると同時に、成員相互のあいだで,評価の基準や合意形成のための円滑なコミュニケーションを可能とするための類似性や共通性も必要とされる可能性が示唆された。

本研究の知見にもとづけば相互の類似性を基盤とした上での多様さを持つ集団では集団が創造的となり、集団の創発性が発揮される可能性が示唆されたと言えよう。従来はアイディア創出を個人でなく集団でおこなうことのメリットとして集団アイディアの多様性が増すことばかりが取り上げられることが多かったが実証的研究ではその仮説が検証されてこなかった。

この原因のひとつは集団が合議によってアイディアを創出していくプロセスにおいて多様性とは質的に異なる側面で機能する変数である類似性を考慮しなかったためであるかもしれない。実際に創造的な活動をしている集団の学際的なコラボレーションについて検討した岡田(1999)はこのような創造的なコラボレーションが成功するためには、成員のあいだで円滑なコミュニケーションが形成できることが重要であること、ただしこのような成員相互のコミュニケーションが円滑になされるようになるためには集団が長期にわたり相互作用しつづけることが必要であることを例示している。

このことから、相互の類似性が長期的な相互作用を継続させやすくすること、そしてこのような長期的な相互作用の継続が成員の課題に対する意味づけや重要度、関心を互いに類似したものにさせていき、円滑なコミュニケーションをもたらすという循環的な過程が存在する可能性が考えられよう。

本研究で示された類似性を基盤とした多様性のもたらす創発性への効果は、一時的に形成された集団によるものではあるが長期的な相互作用においても,それを円滑に継続させる要因として機能しうるのではないだろうか。実際場面における集団の創発性を考える上で、重要な示唆が得られたと言えるだろう。

過去の多くの研究結果(Jackson,et al.,1995;Moreland,et al.,1996)では、多様性が集団の創造性を高めるための必要条件であると考えられていた。しかし,本研究における2つの実験の結果、集団が創造的となったり、創発性を高めたりするためには集団成員がそれぞれユニークで多様な視点を有すると同時に成員相互の間で評価の基準や合意形成のための円滑なコミュニケーションを実現するためには類似性や共通性も必要とされる可能性(実験2)が示唆された。

また、集団内相互作用の場に多様な視点が導入されることは、対人的葛藤を生じさせるよりもむしろ「快い」知的刺激として受け入れられ、課題に関する成員の認知に正の効果をもたらしている可能性が示された。

本研究の結果

集団が創造的となるためには、成員相互の類似性と多様性がともに必要となることが示唆された。今後は、この知見をさらに理論的に洗練すると同時に、長期にわたり相互作用をおこなう集団への適用可能性を追求する必要があろう。


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