ほの暗い灯り。 急ぐ2人。 電車が着く。 あっち側まで できるだけ早く。 人混みの中、 空いた隙間を 駆け抜ける。 こっち、こっち、 すぐそばから 聞こえる声。 私を導くことば。 視線の先には よく知る顔。 私を一番安心させる あの笑顔。 進んだ先には、階段。 行こう、と、 降りていく。 どれくらい降りたか、 ぐるぐると回りながら、 螺旋でもない、 景色がない、 そんな世界を、 ただ、降り続けていく。 まだ…? 息を切らして、 不安がよぎるころ、 前を
2021年 迷った末に、帰省して、 いつも通り、 実家で新年を迎えました。 海に近い故郷では、 ごちそうというと 決まって魚で、 家族が少なくなった今でも、 大きな鰤や、新鮮なカニが 台所に並びます。 我が家の定番は、 カニではなく、ぶりしゃぶ。 鰤は、お刺身から、 ぶりしゃぶへ進み、 照り焼きにされて、 あら炊きに行き着きます。 年末から年始にかけて、 文字通りの鰤ざんまいに 興じていました。 白銀の世界へ 青空の中に浮かんでいた 広く霞むような雪雲が、
ヨガの世界では、 右の鼻孔から吸って、 左の鼻孔から吐くという 呼吸法があるらしい。 右側は太陽(陽)。 男性性を表していて、 活発な動きをする。 左側は月(陰)。 女性性を表して、 静寂と捉えられている。 チベットヒーリングでは 右眼は男性性を、 左眼は女性性を表すらしい。 性別に関わらず、人は誰しも 男性的な部分も、 女性的な部分も 持ち合わせていると思う。 それが左右に現れるというのは とてもおもしろい。 右眼だけで見てごらん、 そう言われて、 左
“僕は、仕事が続けられなかった” とある福祉事業所で、 夏の終わりからはじめた こころのレッスン。 自分を大切にすること をテーマに進めた、 つい先日のこと。 今月、入ったばかりだという 彼が、 私のもとに来て、呟いた。 ”僕は、仕事が続けられなかった” 期待を受けて、 入った会社を、 3ヶ月で辞めた。 毎日、毎日怒られた。 自分の何が悪いのか、 何ができていないのか、 考えることもできず、 ただただ、頭が真っ白で、 そこに行くと固まった。 人に言われる
秋。 苦手な季節。 ずっと小さな 子どもだったころから、 この季節の ひやりとする空気や、 樹々の匂い ふわりと香る、 きいろい花が、 落ち着かなさを もたらした。 大人になって、 ずいぶん平気になったけど、 いまだに心許ない自分がいる。 それでも、数年前から、 密かな楽しみができた。 栗の渋皮煮。 地元の名産でもある 大きめの栗を 料理することが、 秋のささやかな楽しみになっている。 栗と向き合うとき、 毎年のように思う。 この子たちは、 本当に本
その人は隠していた。 なにごともなかったかのように 大好きな人のことを話した。 いつも助けてくれた。 何があっても かばってくれた。 そばにいると安心した。 ヒーローだと思っていた。 大好きだった。 そう、話す彼女の目は、 ずっと私を窺っていた。 大好きだったから 怖いんだね。 そう伝えると、涙を流した。 俯いて、言葉を吐いた。 大好きなその人に、 絞められた首が、 今でも自分を苦しめる。 思いあたることが 浮かばないまま、 お前のせいだと呟かれた。 湧
悲しく衝撃的なニュース。 何気なく見つめるスマホに、 否応無く映し出される文字の数々が 無意識の不安を煽って、 空気が重くなる。 ここ数ヶ月、 出会うクライアントさんから、 度々、死についての話が出てくるようになった。 突然死、自死、病状の悪化。 何の偶然だろうと思っていた夏の初め。 1日にお会いした3人なり4人 すべての方から、 身近な人が亡くなった、 という言葉が出てきた。 そこから、堰を切ったかのごとく 毎回のように 死にまつわるお話を聞くことになった。
春先にばっさりと切った髪が いつの間にか、 肩まで届くようになっていた。 風になびいて サラサラと顔を撫でた 自分の髪に驚いて、 時の経過を知った。 夏が過ぎて、秋が来た。 あぁ、この半年間、 私は何をしてきたのか、 思い描いていた結果が、 いまだ見えず、 無駄なことをしているような、 意味のないことを 続けているような、 どう動いたらいいのか、 道が見えて来ず、 焦りを感じていた。 私は何をしてきたんだろう。 責めそうになる気持ちを 紛らわすために、 スケ
確定診断と発達分析を求めて、 クライアントさんと一緒に あちこち探しまわって3ヶ月。 狭間の狭間の、そのまた狭間にいる人。 でも、おそらくビジネスシーンでは よく見かける、おそらくたくさんいる、そんな人。 発達障害の支援にも、 産業精神保健にも、 通じていたつもりだったのに 望んでいたことに手が届くことなく、 誰にも届かない歯がゆい思いと 不本意に伝わる疲労感が、 焦りを生み出していた。 気分障害を発症する前に備えることも、 発達上の分析も、職業上のフィードバック
大人になると、できるようになると、 思っていたことがあった。 左手の薬指にリングがあること 庭のある家に住んでいること 小さな子どもの手を引いていること…etc そんな、私の勝手な いくつかの思い込みの中に、 梅干しを漬けること、というものが含まれていた。 無意識でもセットできるご飯のように、 祖母や、母がずっとそうしていたように、 求めなくても、いつか、 できるようになるものだと思っていた。 けれど、その日はなかなか来なくて、 少しずつ老いる母の背中に、 若干の
「ずっと、この仕事を続けてほしい」 そう言われて、15年が経っていた。 委譲された病院の 医療相談室の立ち上げを任された 2年目のひよこだった私。 右も左もわからず、 わからないと誰にも言えず、 泣きそうな日々の中で、 はじめて相談室に来てくれた 柔らかい笑顔の 一人の患者さん。 彼女が亡くなったとき、 ご主人から聞かされたこの言葉。 病院で、あなたに会うのを楽しみにしていた。 あなたに、ずっとこの仕事を続けてほしい、 そう、言ってましたよ と。 そ
かき氷というものは、 いつからこんな ゴージャスな食べ物になったんだろうか。 という思考が頭に浮かんで、 慌ててかき消した。 あ、おばさんみたい…と、怖くなったのだ。 4連休前の平日。 喧騒をさけるべく、一足先に帰省した。 バブル崩壊後、観光客が激減し、 寂れまくっていた駅周りは、 この数年のインバウンドの恩恵を受けて かなりの盛り上がりを見せていた。 おしゃれで心地よいカフェが増えて、 個人的にはかなりうれしい。 天皇陛下御用達の老舗旅館が 数年前にプロ
最近よくみられる相談事 「最近、なんかボ〜ッとしてるんですよね。 集中力がなくて、そわそわしてる。 いつもすぐできることにすごく時間がかる。 僕、うつなのかな?」 ある管理職さんとのコーチングセッション。 コロナ第二波に備えて やるべきことを整理していました。 ひと段落したところで、 こんなふうに呟かれました。 また別のセッションでは、 「やらないといけない仕事があって、 そろそろ取りかかろうと思うんだけど、 なんか手につかないんだ。 前はこんなことなかったのに
2015年に起業して、2020年の今年、5年が経ちました。 意図していませんでしたが、なんだか切りが良い数字ですね。 振り返れば5年間、よくやってきたなと思います。 周りに起業した人もいなくて、 ビジネスのノウハウも知らず、 右も左も、前も後ろもわかりませんでした。 今、あのときに戻れと言われると、足がすくんでしまいます。 ありがたいことに、起業したその年から仕事の依頼をいただけました。 メンタルヘルスに関すること 発達障害に関すること 障害福祉の支援に関すること
気づくと7月になっていた。 あまりの大雨と、初めてのワークショップ開催のせいで 水無月を食べるのを忘れていた。 実はあまり好みではないのだが、 子どものころからの習慣で 柏餅やおはぎと同じように その季節には「食べなくてはいけないもの」の部類に入っている。 そういうものを買うために、季節ごとに行っていた 小さな和菓子屋さんがなくなっていた。 靴箱の上から下まで 私の足元を彩るすべてをお世話になっていた 老舗の靴屋さんが閉店することになった。 仲間や友だちと、こと
梅雨の晴れ間のある日、 友人の誘いを受けて、 大阪城に行ってきた。 日本のお城にさしたる興味関心がない私は、 どこか旅行に行った際に、 そこが観光スポットだから、 という理由で足を運ぶ、 という程度にしか城を訪れない。 というわけで、 私にとって旅行ではない場所にある城、 「大阪城」、を訪れたことが実はない。 理由は他にもある。 人が多すぎるのだ。 お花見やイベントで 大阪城公園と呼ばれるエリアを訪れたときの、 密集してガチャガチャした感覚。 楽しんでいるはず