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15年目の約束

「ずっと、この仕事を続けてほしい」 

そう言われて、15年が経っていた。

委譲された病院の
医療相談室の立ち上げを任された
2年目のひよこだった私。 

 右も左もわからず、
わからないと誰にも言えず、
泣きそうな日々の中で、

はじめて相談室に来てくれた
柔らかい笑顔の
一人の患者さん。  

彼女が亡くなったとき、
ご主人から聞かされたこの言葉。

病院で、あなたに会うのを楽しみにしていた。
あなたに、ずっとこの仕事を続けてほしい、
そう、言ってましたよ  と。  

その言葉は、とてもうれしくて、
でも同時に、とても重くて、強くて、
受けとめられなかった。

その言葉を遠ざけるように、
記憶にフタをして、かくしていた。
見えないように。思い出さないように。

15年が過ぎて、
ふと、思い出した言葉は、
私に気づきをもたらした。

あぁ、結局、続けてきたじゃないか。

笑いがこみ上げてきた。
怖がって、苦しんで、
頑なに拒んできた。

天職と思える仕事を。

けれど、 続けてこれたじゃないか。

「ずっとこの仕事を続けてほしい。」

長い間、フタをしていたこの言葉が
ようやく私の中になじんだ。

15年を経て、墓前にお参りができた。
「ずっとこの仕事を続けていきます」
手を合わせて、そう、約束した。   

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