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2023年8月の記事一覧
『祖父の手紙』# シロクマ文芸部
「ヒマワリへ」と書かれた封筒が出てきた。
祖父の葬儀の前に、遺品整理を手伝っていた時だ。
祖父が何十年も使っていた文机があった。
しかし、祖父がその文机に向かっている姿を見たことはない。
それもそのはずだ。
私たちが訪ねた時には、祖父はほとんど私や他の孫の相手をしていたのだから。
だから、文机の存在そのものを意識したこともなかった。
その文机の一番上の引き出しの奥に封筒はあった。
時の流れに少
『告白水平線』 # 毎週ショートショートnote
どうしてあんなことを言い出したのだろう。
ジャンケンで負けた奴が、好きな子に今日中に告白しようなんて。
しかし、まさか僕が最初に負けてしまうとは。
でも、今日は、やっぱり無理だ。
「お前、どうするんだよ」
仲間に責められる。
「お前が言い出しっぺなんだぜ」
「誰に告白するのか知らないけどよ、さっさと済ませようぜ」
窓向こうの海を見つめる。
「やっぱり、今日は駄目だ」
その時、ガラッとドアが開いた
『人それぞれの』 # シロクマ文芸部』
ただ歩くだけでもいいんだよ。
彼は、わたしにいつも言っていた。
何もできなくていい、ただそこを歩くだけでもいいんだよ。
彼は、わかっていたはずだ。
わたしも、わかっていた。
大人は言う。
努力すれば、できないことはないと。
でも、そんなことが嘘であることくらい、それほど長く生きなくても理解できる。
彼が病に倒れたのは、高校2年生の秋だった。
3年生がいなくなり、新チームを結成してすぐの頃。
間も
『未来断捨離』 # 毎週ショートショートnote
「断捨離って商標登録されているらしいよ」
「えー、じゃあ、迂闊に断捨離って言っちゃいけないのね」
「そう、迂闊に断捨離って言っちゃいけないんだ。だって断捨離は商標登録されているんだからね」
「もう、結構言っちゃってるね、断捨離」
「僕はいまから、未来に行って、この断捨離を断捨離してこようと思うんだよ」
「ちょっと、ややこしいけど」
「すると、過去に遡って、全ての断捨離がドミノ倒しのように断捨離され
『幽霊は誰だ』 # シロクマ文芸部
文芸部のさち子さんが好きだ。
おかっぱで、眉がキリッとして、ツンとした鼻、少し薄めの唇。
まつ毛の長い目を細めて、口角を少し上げて微笑む顔は、この世のものとは思えない。
白紙のページを前に、遠くを見つめながら、唇を少し開けて考え込む姿も素敵だ。
そして、左手で髪をかき上げると、おもむろにペンを走らせる。
言っとくが、僕はストーカーじゃない。
さち子さんが好きなだけだ。
そのさち子さんが、僕のこと
『最後のマスカラ』 # 毎週ショートショートnote
もう、わかっている。
普段は絶対に自分から連絡して来ない彼なのに。
わかっている。
彼の悪いうわさをわたしに聞かせた人は、多分このあと、わたしに言うだろう。
言わんこっちゃないって。
最後くらい、きれいになりたい。
中島みゆきの歌みたいで嫌だけど。
でも、もう二度と会えないのなら、きれいなわたしを覚えていて欲しい。
普段は使うことなんかなかったマスカラに手を伸ばす。
多分、マスカラを使うのはこれ
『いのち喰い 2』 # シロクマ文芸部
平和とは何か?
この俺に聞くのか。
では、逆にお前に聞こう。
幽霊はいるのか。
あの世はあるのか。
そんなものがあると言うやつの理論はいつもこうだ。
幽霊はいない、あの世はないと言っても、ないことが証明できなければ、あるかもしれないじゃないか、とな。
お前たちの平和も同じだ。
同じ理屈をこねれば、あるかもしれない。
そんな程度のものだ。
平和とは何か?
答えはこうだ。
そんなものは、幽霊と同じだ。
『ひみつけいさつをせんでんしてみる』 # 毎週ショートショートnote
パパはおしごとのことをはなしません。
みゆがおめざめのときには、もういません。
みゆがおやすみのときには、まだかえっていません。
パパってどんなかお?
おともだちのいくちゃんのパパのかおなら、よく知っています。
でも、みゆのパパのかおはわかりません。
ママは、だいじょうぶっていつもいいます。
パパはあなたのことをあいしているからって。
でも、あいなんてのは、このよのなかでいちばんしんじられないも