読書日記*短編集(アンソロジー)おすすめの2冊
読んでいる本で、わたしのまわりの空気が変わる気がする。
たぶんその本の世界の空気が流れていたまま、時間を過ごしてしまうからじゃないかと思う。
続けて読んだ2冊は作家さんも作品も変わり、いろんな空気が流れてた。
チーズと塩と豆と
4人の直木賞作家がヨーロッパの国々を訪れて描く、味と味覚のアンソロジー。
ごはんを食べることは生きていくこと。だけどそれは楽しいことだったり、悲しんだり義務だったり、希望だったりする。
4人の作家さんの個性が出て、コース料理だけど、それぞれのお皿が旨味を出して調和する。
”あたたかな一皿が、誰かと食卓で分かちあう時間が、血となり肉となり人生を形づくる。”
親族の食事会で飲むチャコリ。
病気で倒れた夫の好きなミネストローネ。
故郷の黒麦粉のガレット。
やるせない気持ちのポテトチップスとゆでたまご。
人は食べないと元気が出ないけど、”食べるだけ”では生きていけないのだなとそう思いながら、豆のスープが作りたくなりました。
江國香織さんの作品が一番わかりにくくて、一番好きだった。
謎がいっぱいの登場人物との関わりと、読後に謎のまま放り出されるわたし。何度も読んで噛み砕きたい気もちと、なぜかわからないけどお腹いっぱいな気もちが半分づつ。
100万分の1回のねこ
佐野洋子さんの絵本『100万回生きたねこ』
”この絵本に敬意を込めて書き上げた短篇集。愛と死、生きることについて深く考えさせられる。”
『100万回生きたねこ』この絵本を何度、読んだことか。
こどもたちはねこが死ぬたびに泣いていた。
死に方があまりいいかんじではないのに、果敢に生き返るねこ。
愛することで、生まれ変わらなくなったねこ。
わたしがこの物語を題材におはなしを作るなら、どんなストーリーにするだろう。さすが作家さんたちの物語は、見事に絵本の世界とそれぞれの個性が出ていて楽しかった。
下記、わたしの神、山田詠美さまの『100万回殺したい、ハニー、スウィート ダーリン』より引用
しかし、ねこが白いねこと出会ったと読んだ瞬間から、心がそわそわし始めた。悲しみの前触れが訪れる時は、いつもそうであるように落ち着かなくなってしまう。この時もそうなった。そわそわ、という言葉は、そぐわないかもしれないけれど、それしか当てはめようがない。来るよ、来るよ、と自らを急き立てるような気持。体じゅうが甘く軋む。悲しみは、まったく歓迎したくない感情だけれども、その手前に好意やら愛やらの布石が打たれていると、甘みだって、ちゃんとある。そして、甘いからこそ、もっと悲しい。
(P194)
どうやったらこんな言葉をならべて、気もちを表現することができるのだろう。時間にしてたった1分ぐらいの時間の中に、気もちがたくさんつまってる。愛の布石が打たれてるから、甘みがちゃんと、ある。
谷川俊太郎さんはさすがのおとなな物語。
以下はまえがきみたいな文章より引用。
『100万回生きたねこ』は、佐野洋子の見果てぬ夢であった。それはこれからも、誰もの見果てぬ夢であり続ける。
(P254)
13人の13の物語。
いろんな味のチョコレートの詰め合わせの缶のような、フタをあけるだけでうれしくなるような、そんな気分でねこを想った。
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