見出し画像

国民投票の危険性~『デジタル・ポピュリズム 操作される世論と民主主義』(福田直子)~

ものすごく読みやすい文章ですが、内容は暗澹とするようなものです。

↑kindle版


この本は2018年に発売されたものなので、内容的にすでにちょっと古くなっています。しかし読む価値がないということは全くなく、むしろ今のうちに読んでおいた方が良い内容です。ソーシャルメディアを筆頭とするデジタル情報がビッグデータとして集められ、私たちの行動を左右するために使われていることの問題点を指摘しています。


備忘録代わりに、気になった部分を書いておきます。


すでに多くの航空会社は、利用者の過去の購入履歴、ネット行動やブラウザー履歴などから独自開発した人工知能(AI)の「ボット(Bot=自動化されたアプリケーション)」で料金を提示しているという。(中略)これは「このぐらいであれば払うだろう」という価格が利用者ごとに個別に設定されてしまうネット上の「価格個別化」である。(中略)これは消費者にとって有利にならず、サービス提供者や商品を売る側が有利となる。

p.27~28

これ、本当!? いや、本当なんでしょうね。ネットショッピング全般で、多分同じことが行われているのでしょう。


民主党候補のヒラリー・クリントンを好まず、票を誰に投じようかと迷っている特定の少人数グループにマイクロターゲット公国を送るという「ヴォーター・サプレッション・オペレーション(投票阻止作戦)」の手法は、クリントン候補に票を投じることを阻むため、投票に行くこと自体をやめさせようとする戦略である。

p.67

なるほど、必ずしも自分に票を入れさせる必要はないのか……って、感心している場合ではありません。


ユーザーにとって無料であることは便利である反面、個人的な情報をビッグデータに提供することになる。大量の個人データ、写真、そして「いいね!」ボタンの分析が巨大な規模で集積されていく。「ただほど高いものはない」とはよく言ったものだ。

p.105


サイバー時代になって、ディスインフォメーションが伝わる速度と拡散の範囲は激的に変化した。ソーシャルメディアでの偽ニュース拡散によって社会を分断、かく乱し、民主主義を相対的に弱体化させ、自国の外交に有利なムードをつくりだす。ポスト冷戦時代は、サイバー戦争時代でもある。

p.149

言うまでもなくというか、その最前線にいるのはロシアなわけです。ロシアが行っている、サイバー戦争を含めたハイブリッド戦争については、以下の記事をご覧ください。


2016年のイギリスのEU離脱をめぐる国民投票とアメリカ大統領選挙だけではなく、2017年のスペインからの離脱を問うカタルーニャの住民投票の影にもロシアがいたとは知りませんでした。もちろんこの本を信じるのであればだし、一歩間違うと「何でもロシアのせい」になりかねませんが、事実なんでしょうね。


ロシアは新しい党や社会運動をつくりだすのではなく、現存している右翼的な党、市民の抗議運動や怒りや不安を利用し、それをもとにして分断をひろげさせ、過激化させることを目論む。欧米諸国の民主主義が混乱し、EUの結束が弱まることはロシアにとって願ってもないことである。

p.177

うーむ。


国民投票は、直接民主制の1つとして、いかにも民意を反映するかのように見える。しかし、イエスか、ノーのどちらかで白黒を決めようとする国民投票では、事前に行われるキャンペーンにおいてプロパガンダが連発され、国民が扇動される危険性を孕んでいる。デジタル時代において、ましてうそや偽ニュースが瞬時に拡散される時代にあっては、世論が恣意的に操作される危険性がより高い。プロパガンダを抑止する、という意味でも多くの国が間接民主制をとっている意味を改めて考えるべきではないだろうか。

p.183

直接民主制の国民投票でいざ可決されてしまったことは、たとえ投票率が低く、「少数票」であったとしても「国民が決めたこと」として、議会のチェックバランス機能を超越したところで踏襲されてしまうことになる。

p.185

「ナチス党は好んで国民投票を行い、情報統制のもと、あたかもすべての国民の支持のもとにナチス政権があるがごとき印象を与えた」からこそ、今のドイツ基本法には国民投票の仕組みがないわけです。


ポピュリズムの本質とは、単に「大衆迎合主義」では説明することができない、他者の異論を認めない「反多元主義」にあるという。
民主主義の基本は多元性そのものであるという観点からすれば、反多元主義は民主主義と真っ向から対立する。(中略)多様な民意を守ってこそ民主主義が形成される。

p.184


近年、ネットは、同じ意見をもつ人々で「エコーチェンバー(価値観の似た者同士で共感しあう)」化し、マイクロターゲット広告や心理操作ともいえる方法で影響を与えようとしている。

p.191


もはや身を守るためには、SNSをはじめ、ネットの利用時間を、せめて自分で制限するしかないですね。スマホ脳にならないためにも。


↑新書版

この記事が参加している募集

#読書感想文

189,937件

記事の内容が、お役に立てれば幸いです。頂いたサポートは、記事を書くための書籍の購入代や映画のチケット代などの軍資金として、ありがたく使わせていただきます。