見出し画像

スマホが私たちを蝕む~『スマホ脳』(アンデシュ・ハンセン)~

いやはや、すごい本を読んでしまいました。

↑kindle版


スマホが心身の健康を害するという記事や書籍は他にもありますが、単にヒステリックに「スマホなんてダメ!」というものではありません。精神科医であるハンセンさんが、進化の過程で人類が得た特性を根拠に、ストレスが人間の脳に与える影響を科学的に説明しつつ、スマホやSNSがいかに人間の心身を蝕むかを説いているので、説得力があります。要するに「人間の脳はデジタル社会に適していない」のです。


なぜなら人間の脳は、ある意味いまだ祖先がサバンナで生きていた時と同じだから。例えばライオンを見かけたら「闘争か逃走か」の判断を即座にしなければいけなかった訳ですが、今もストレスなどで扁桃体が警告を発すると、「闘争か逃走か」になってしまう訳ですね。……しかしこの「闘争か逃走か」という訳、上手に同音異義語を使っていて、うまい!


印象に残った部分。


うつを引き起こすリスクに影響する遺伝子には、役割が2つあるようだ。ひとつは、免疫機能をきちんと作動させること。もうひとつは、危険や怪我、感染症から距離を置くことだ。後者は、その人間をうつにすることで達成される。

この2年間のコロナ禍のことを考えると、何となく理解できる気がします。


あなたの休暇の写真に「いいね」がつくのは、実は、誰かが「親指を立てたマーク」を押した瞬間ではないのだ。フェイスブックやインスタグラムは、親指マークやハートマークがつくのを保留することがある。そうやって、私たちの報酬系が最高潮に煽られる瞬間を待つのだ。

これには唖然としてしまいました。「いいね」が付いていないかな、と思って、つい何度もチェックしてしまいたくなるのは、そのせいだったのですね。

<追記>

これをフランスの国立衛生医学研究所の元所長のミシェル・デミュルジェさんは、「見逃しの恐怖」と表現していました。つまり「いいね」に限らず、スマホ等を観ていない時間に何かが起きていて。それを見逃しているのではないかと思ってしまう、というわけです。

私はフェイスブックはもともとアプリでは使わず、パソコンのみでやっていますが、意識的にチェックの回数を減らそうと思いました。ここで書くのも何ですが、noteのチェックの回数も。


でもなんと、「チェックの回数を減らそう」と思うこと自体、知能の処理能力を使うそうです。「何かを無視するというのは、脳に働くことを強いる能動的な行為」なので。一番良いのはスマホもSNSもやめてしまうことなわけです。


スティーブ・ジョブズが、自分の子のスクリーンタイムを厳しく制限している話は有名です。しかしフェイスブックの「いいね」機能を開発したローゼンスタインや、iPodやiPhoneの開発に携わったトニー・ファデルに至っては、自分たちのしたことを後悔しているそうです。

<追記>

これについても上記のデミュルジェさんが、「シリコンバレーのダークコンセンサス」という言葉を紹介していました。つまりシリコンバレーのトップにいる人たちは、自分たちが作ったものが人々にもたらす影響を理解していて、だからこそ自分の子どもたちをそこから遠ざけようとするわけです。


スマホやSNSによって集中力が落ち、長期記憶を作る能力にも悪影響が出、そもそも覚えようとすらしなくなる。

グーグル効果とかデジタル健忘症と呼ばれるのは、別の場所に保存されているからと、脳が自分では覚えようとしない現象だ。
脳はエネルギーを節約しようとするので、必要ないことには力を注がない。つまり、使わないでいると知能の一部が失われる危険性がある。脳にとっては「使うか捨てるか」なのだから。

恐ろしい話です。個人的にはやはり、高校生まではスマホを持つべきではないと思います。


それ以外にも睡眠は妨げられ、うつとの関連が否定できず、そしてもしかしたら、肥満にも影響するかもしれないとか。

ブルーライトの影響を受けるのは睡眠を促すメラトニンだけではない。ストレスホルモンのコルチゾールと空腹ホルモンのグレリンの量も増やすのだ。グレリンは食欲を増進させるだけでなく、身体に脂肪を貯めやすくもする。


ここまで読んで、「あまりに大袈裟じゃないか」と思う人も多いと思います。しかし1つの事実があります。長年にわたるティーンエイジャーの行動の研究があるのですが、2012年の調査で突然アメリカの若者の精神状態が悪化したそうです。実は前年の2011年はiPhoneが一般化し、若者のほとんどがスマホを手にするようになった年なのです。


10代は体内時計の遅延が起きる時期で、夜型になり朝起きるのが辛くなる。一方で9~10時間という、大人よりかなり長い睡眠時間を必要としてもいる。睡眠の必要性と体内時計の遅延が組み合わさり、朝起きるのが辛くなる。

なるほど、中高生の寝坊には科学的な理由があったのですね。だからこそ、夜寝る直前までブルーライトを浴びているのは、寝つきが悪くなるので、最悪なわけですが。


テクノロジーは、好き嫌いにかかわらず受け入れるしかない天気とは違う。テクノロジーのほうが私たちに対応するべきであって、その逆ではないはずだ。

この言葉には、心底同意します。私たちを蝕まないスマホやSNSが登場することを私たちが望めば、何かが変わっていくかもしれません。


スマホやSNSにハマりすぎだなと思う人は、本書の目次だけでも読み、スマホやSNSに触れる時間をせめて減らし、軽い運動を生活に取り入れることをお勧めします。


この『スマホ脳』の内容を子ども向けに分かりやすくまとめたのが、同じ著者の『最強脳』です。


見出し画像には、「みんなのフォトギャラリー」で「デジタルデトックス」で検索して出てきた画像を使わせていただきました。


<追記>

追記で名前を出したデミュルジェさんの30分ほどの講演を、2022年2月14日の17時まで、文字・活字文化推進機構のサイトで視聴することができます。


↑新書版



この記事が参加している募集

推薦図書

読書感想文

記事の内容が、お役に立てれば幸いです。頂いたサポートは、記事を書くための書籍の購入代や映画のチケット代などの軍資金として、ありがたく使わせていただきます。