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便利な不便

 米国でサブスクリプション(定額サービス、サブスクとも)を購入したのは1997年のメトロポリタンオペラだったと記憶している。生前のパバロッティが拝めたのは、この頃だった。事前にチケットをまとめて予約購入する便利なシステムだが、それまでは、サブスクと言えば雑誌や新聞の程度だった。

 オペラだとサブスクするとチケット料金が割引価格になるし無駄がないから、その価値は大いにあったと思う。しかし、近年では仕事で必要な経理やデザインのソフトウェア、SpotifyやApple Musicなどの音楽配信、NetflixやHuluなどの動画配信となんでもかんでもサブスクで、きっかけは限定期間の無料キャンペーンなど甘い蜜で登録を促し、いったん使い始めると便利性に負けてやめられなくなるというシナリオだ。

 毎日使うものであれば、十分に元が取れるが、時々しか使わないものだと、逆に宝の持ち腐れで損しかねない。昨年、ある動画配信サービスで見たいシリーズ番組があったので、購読して他の作品も見たりして味を占めたが、1カ月もすると、忙しくなって全く見なくなった。それでも自動引き落としされるサブスク料。契約解除したのは3カ月後くらいだったろうか。「もしかしたら、もっと見るかも」で余分なお金を払う羽目になった。

 世の中は便利に見えるものほど、不便なものはない。テレビのリモコンが見つからず、手動で電源を入れられるのに、散々探し回ったり、急いでいるからと車で出掛けたら、渋滞に巻き込まれ時間を大きくロスしたり、汗水流して稼いで買ったはずの便利が、時間の浪費につながることは少なくない。

 最近では、高級ブランドの洋服やホテルのサブスクまであるらしい。他にも自動販売機(1日1本)やラーメン(1日1杯)と、今やサブスク天国。契約中なら、いつでもハイクオリティーの商品やサービスを低価格で利用できることが最大の利点。

 ふと思う。近い将来、学校の先生や恋人のサブスク・サービスが出てくるのでは!? 便利は人間をわがままにする。サブスクに足をすくわれないように十分注意したいものだ。

文:河野 洋

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羅府新報(Vol.33,752/2021年6月8日号)『磁針』にて掲載

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