マガジンのカバー画像

不思議夜話(ふしぎやわぁ) 第一集

23
実際に見た”夢”をほぼ忠実に書いた自作のショートショートの取りまとめ。 第一夜から二十三夜まで。何の教訓も笑いもありません。(^-^;
運営しているクリエイター

記事一覧

不思議夜話 21

薄暗い小さな部屋の中に佇んでいた。 右側に広がる窓には、重厚で黒光りのする鉄製の窓枠が嵌っており、ガラスも歪んでかなりレトロな感じがする。こちらは3階くらいなのか、見下ろす下に、小さな石畳の通りを挟んで町並みが僅かに広がり、地方都市に昔あったような小さな二階建てがハモニカの如くに並んでいる。それぞれの一階は、概ね二間間口くらいの木製でできたガラスの引き戸になっていた。夕暮れなのか、家々には黄色い明りが灯され、店だなに並べられた商品が歪んだガラスの向こうに行儀よく座っている。正

不思議夜話 22

昼食後転寝をしていたようだ。 薄ぼんやりとした頭で周りを見回すと、玄関先の三畳間との襖が開け放たれ、客人でもあれば、随分はしたない姿を曝すことになるなぁと慌てて身体を起こした。 その時、突然赤いスポーツカーが玄関先に飛び込んできた。 ドーンという振動が起き抜けの身体に響いた。 車はオープンカーで、白髪交じりの男がハンドルを握っている。運転席側のボンネットが玄関の柱に食い込み、左右の壁が崩れてもうもうと埃を立てていた。一瞬事態が呑み込めなかったが、よく見ると男は狼狽の余りか表情

不思議夜話 23

宴会場からふらり廊下へ出た。 もうすでに片付けが始まっているのだろう。幅三間はあろうかと思われる板敷きの廊下には、そこかしこに引き揚げられた膳や銚子が雑然と集められていた。そして廊下の左右には大広間が、それこそ数知れず並んでいる。随分大きな旅館かホテルだと思った。 随分飲み食いしたはずだと思ったが、不思議と酒に足を取られる訳でもなく、忙しく立ち働く女中連の間を平然と歩いている。はてさてこれからどうしようかと思案していると、後ろから背広にネクタイ姿のYが声を掛けてきた。 「お前

不思議夜話 20

片側二車線が交差する広い道路の端に、ひとり立っていた。 道路幅の割に車は少ない。斜向かいには無機質な厚みのない灰色の小さなビルが一つ立っており、それ以外には建物は無さそうだ。どうやらそのビルへ行かなければならない用事があるようだ。それにしても、射す光が黄色がかっている。どことなく南国の風情がする。服も派手な開襟シャツで、頬を撫でる風まで生温かく感じた。信号が変わって目の前に車がゆっくりと停止する。道路を横断しようとして、交差点にはスクランブル横断歩道の白線が斑に引かれているの

不思議夜話 19

二人で里道を歩いていた。 道は片側が山肌に掛かり、反対側が田の畔に接している。ともに速足で歩いている相方を見ると、詰襟のそれも随分古風な学生服のようなものを着ている。若い。が、幼くはない。高校生か大学生といったところか。丸眼鏡を掛け、髪は七三に分けてしっかりと刈り上げてある。うっすらと口ひげもあるようだ。背は低い。 ただ、どこかで見たことがあるような人物だが判然としない。親しげには並んでいる割には、面立ちに友人の影は見えなかった。 しばらく行くと、三差路に出た。 左は、集落

不思議夜話 18

気が付くと、冷たいベッドの上に仰向けになっていた。 天井に嵌め込んである化粧板の目地が作る模様が、規則正し過ぎて少し苛立ってくる。ベッドは、薄緑色のパイプでできた病院用のもので、足元にも丁度L字型にもう一つ並べてあった。どうやら、二人部屋の病室で眠っていた居たようだ。それにしても、ベッドをL字型に並べてある病室など初めて見る。奇妙な光景だと、目を凝らして足元のベッドを見た。 そこにも、一人の男が仰向けに寝ていた。 何やらリンゲル液のような袋を左のT字棒に引っ掛けて、点滴を受

不思議夜話 17

気付けばバスを”運転”していた。 それもどうやら”乗合バス”のように思う。今では珍しくなったが、クラッチ操作を伴う2世代ほど前の車両だ。 ただ、職業としてバス運転手だという訳ではなさそうだ。経緯は定かではないが、たまたま、どこかへ行くために乗り、運転席に座ったのが”乗合バス”という感じだ。わき目も振らず、ただただ楽しそうにハンドルを握っている。 はて、自分は大型二種の免許証を持ち合わせているのだろうかと考えてみるが、どうも思い出せない。現実にこの乗合バスを走らせているという

不思議夜話 16

切り立った崖の上に建つ邸宅の中にいた。 通されたラウンジはL字型に広がっているためなおさら大きく感じられる。百畳ほどはあるだろうか。そこは邸宅の角部屋で、二面とも全面大判のガラスが連続して嵌め込まれていた。まるで屋外にでもいるような雰囲気だ。ガラス面の反対、つまり建物の中心方向は、マホガニー材の長いバーカウンターが続いており、壁面は抑えた電燈光で照らされている。見たことも無いようなグラスや酒が陳列してあった。金持ちはこういったところで毎夜パーティと洒落込んでいるのだろう。ただ

不思議夜話 15

気付くと電車に乗っていた。 右の肩を扉に少しもたせて車外に目を遣ると、縦長の窓から緑一面の風景が流れていく。真夏の田畑は優しいというより、少しばかりとんがった緑だ。 と不意に、その緑色一色の中に”こげ茶の塊”が目に飛び込んできた。 目を見開いて必死でそれを追う。 漫画のコマ枠のように鉄骨の電柱がリズムを刻む度に瞳の絞りがリセットされる。その”塊”は、ガラスに吸い付くように近づいた目の端に追いやられ、やがて消えてしまった。 モヤモヤした気持ちで、あれは何だったんだろうかと考え

不思議夜話 14

無機質な白い部屋の中でポツンと立っていた。 それ程広くない部屋の中程には、所々錆びついた草色の鉄パイプで無造作に組み立てられたベッドが置かれてあり、糊の効いた白いシーツの上には誰だかわからない人物が横たわっている。微かに消毒薬の匂いがしたような気がしたのは、ここがどこかの病院だからか。それにしては古めかしい。まだ「昭和」と呼ばれていた時代に記憶がある病院の雰囲気だ。 ベッドを挟んだ向かいには、踝まである白衣を不格好に羽織った医者が、ベッドを眺めていた。その横には看護師らしき女

不思議夜話 13

連れがラーメンを食べに行くという。最近は医者から止められていてほとんど食していない。「旨いと評判だぞ」というので付いて行くことにした。 開け放たれた店内には4人掛けの卓があちこちにあり、数人の客が思い思いの席でラーメンを食べている。椅子に座ろうとすると、奥の卓にいた髭面の男が、目線を左に送ってそれを制した。見ると古ぼけた”食券販売機のようなもの”が置いてある。なるほど、食券を買ってからという事だなと合点がいった。 お金を入れようとすると、黒い手ぬぐいを頭に巻いた店員が、取り

不思議夜話 12

どこかの地方都市にある駅のベンチに腰かけて煙草を吸っていた。 横にいた連れらしき男が聞く。 「今日はどこに泊まるんだい。」 ざっと周りを見渡すと、向かいのビル越しに手書き風文字で「財宝温泉」と読める屋上看板が、3つばかりの強いライトで照らされていた。目立つものはそれ以外になく、多少面倒臭くも感じたのでそれを指さして答えた。 「さぁ、あの旅館じゃないか。」 すると向かいに腰かけていた別の男が頭を振った。 「いや、こっちのホテルだと聞いたが。」 振り返ると、ぼんやりとした景色の中

不思議夜話 11

第11夜 私は独り山道を歩いていた。 雨上がりか道は多少泥濘んでおり、周りに広がる山林からは、湿気の匂いがしてくる。深い谷あいの山道なのだろう、うねうねしている上に空が狭かった。同じ方向に向かう旅人や村人らしき人々と少し上りになった道を歩いているようだった。三叉路に差し掛かり、多くの村人たちは右手の、少し先に集落が見える方へ曲がる。賑やかな声が聞こえてきたように思うので、小さいながらも集落でお祭りでも行われているのだろうと思った。顔を向けると家から立ち上る煙か湿気の霧かはよ

不思議夜話10

第十夜 気が重くなる夢を見た。 真夜中だと思う。私は駅に向けて車を走らせていた。駅は山の頂上付近にあり、道はその駅に向けまっすぐ上っていた。誰かを迎えに行く途中だとは思うのだが、それが誰なのかはとんと思いつかない。ヘッドライトだけが迷うことなく路面を捉え続けていた。辺りは一面の草原か何かのようで、人家の気配も無い。 どれくらいの時間が経ったのだろう。漸く目指す駅に着いた。改札が一つあるだけの小さな駅だ。その駅だけがいくつかの蛍光灯で照らされて、暗闇の中に浮かんでいた。駅員が