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椅子と犬

私は二足歩行となり 半世紀もの間 狩猟民族 農耕民族の時代を超えて オフィス街にたどり着いた

随分と長い間 椅子に座るままの民族

服従するイスに抵抗するイスに座る
圧力を感じながら重力に抗う
このイスから立ち上がる勇気

壁の向こうにある無数の視線から 狼の群れを感じ 

吠えられる恐怖に震える身を晒して 悪い父親の対象を引き受ける勇気

天井から自分を見下ろせる世界で 何者でもない私を確認することはたやすく イスを分け渡す勇気 もしくはしがみつく勇気

たとえ椅子取りゲームの世界から目覚めても どこにも座らず 立ったまま幽霊のように彷徨うには残酷な現実 

ある日 これまで人間だと思っていた私は この世界では犬に過ぎなかったことに気づき愕然とはした しかし 足のない幽霊となって居直り 新しい世界を作ることはできる

服従するイヌに抵抗するイヌはこの地に留まらず壁の向こう側に出た

そこにあるはずの視線達はただ風が巻き起こした空想に過ぎす そこには ただ 青く手付かずの荒野が広がっていた 

私は勇気を捨て この街を出るのだ 

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