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【竹書房と漫画業界を考える】「これから漫画をどう売っていけばいいですか?」マンガボックス編集長・安江亮太のスランプさんいらっしゃい

株式会社ディー・エヌ・エーが運営するマンガ雑誌アプリ「マンガボックス」。
有名作家の人気作から新進気鋭の話題作まで、枠にとらわれない幅広いラインナップを擁し、オリジナル作品の『ホリデイラブ』はTVドラマ化、『恋と嘘』はアニメ・映画化するなど数々のヒットコンテンツを生み出してきました。
そんなマンガボックスの編集長を務めるのは安江亮太さん。今回は安江さんが公私ともにお世話になっているという、竹書房取締役の竹村響さんをお呼びして、竹書房がどのようにコンテンツを生み出しているか、業績を伸ばしていったか、今の漫画業界はどうなっていくのかなどについて語っていきます。

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安江亮太
やすえ・りょうた
DeNA IPプラットフォーム事業部長 / マンガボックス編集長
2011年DeNAに新卒入社。入社1年目の冬に韓国でのマーケティング組織の立ち上げを手がける。2年目に米国でのマーケティング業務。その後全社戦略の立案などの仕事を経て、現在はおもにマンガボックス、エブリスタの二事業を管掌する。DeNA次世代経営層ネクストボード第一期の1人。
Twitter: https://twitter.com/raytrb

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竹村響
たけむら・ひびき
1977年神戸市生まれ。同志社大学卒業後2000年竹書房入社。編集職を経た後2007年電子書籍黎明期よりデジタル事業を兼任。2014年から紙媒体の営業職として漫画作品のプロモーションとマーチャンダイジングを中心に事業を統括。2015年から編集も含めた書籍事業の統括も兼任。2018年より取締役。
Twitter: https://twitter.com/pinkkacho
note:https://note.mu/thibiki

大荒れの業界で「こういうやり方もあるんじゃないか」と提案していったら役員になっていた

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安江亮太(以下、安江):竹村さんは昔から公私ともにお世話になっているので、こうして話すのがなんだか恥ずかしいですか、ざっくばらんに話していけたらと思います。

竹村響(以下、竹村):俺で大丈夫なのかわからないけど、よろしくお願いします。

安江:まず、竹村さんが竹書房の取締役になるまでの経歴を改めて教えていただきたいんですが、そもそも出版社の役員って50歳以上の方が多いじゃないですか、でも竹村さんは今42歳で、どういう経緯で取締役になったのかなと。新入社員で竹書房に入られたんですか?

竹村:いや、俺アルバイトからなんだよね(笑)。

安江:えっ、そうなんですか?

竹村:関西出身だから関西の大学に通ってたんだけど、俺の年ってちょうど就職氷河期だったんだよ。昔から本は好きで、出版社にでも入るかーと思ってたんだけど思ってるだけじゃ入れないから(笑)、俺それぐらいテキトーな大学生だったんで結局就職できずにゼロの状態で大学を卒業したんだよね。

安江:でもゼロの状態で卒業してどうしたんですか?

竹村:どうせ関西にいたって何もないんだから、それなら東京に行ってしまおうと、家賃3万円の四畳半のアパートを借りて、出てきたんだよ。なんとかなるだろうと。

安江:ポジティブですね。

竹村:当時の出版業界の求人って、なぜかわからないけど、全部朝日新聞の日曜版に出てたんだよね。だからそこに載ってたアルバイトに片っ端から全部応募して、それで竹書房に受かって、今があるわけ。

安江:いやいや、急に今になってるじゃないですか(笑)。アルバイトからその歳で取締役になるまで、どんな実績を残していったんですか?

竹村:そうだね、一言でいうと今の出版業界って乱世なんだよね。今までやってたことが通用しなくなった大荒れの中で、「こうすればいいんじゃないの?」ということをやり続けてきた。特にウチは数年前に創業オーナーが亡くなったんだよね。

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安江:なるほど。業界的にも荒れてる中で、さらに大混乱になりますよね。

竹村:中小企業の事業継承問題って今日本のいたるところで起きてると思うんだけど、それがまさにウチでもあって。オーナーって現場にはいないけど、こっそり裏で助けれてくれてたんだよねきっと。だから後ろ盾がなくなったときに、「これどうやれば良いんだっけ」と現場は混乱して。

安江:なんとなく円滑に回っていたのにそうではなくなったと。

竹村:大混乱だよ。でも俺はただの現場だったから、その混乱を横目でぼんやりみてた。こうすればいいなあ、と思いながら。そんなときに、俺の直属の上司だった人が大抜擢で社長になったわけ。

変に照れずに面白いことを真面目にやるということ

安江:なるほど。そのとき竹村さんはどんな役職にいたんですか?

竹村:課長のときだったかな。急に社長になって絶対困ってるだろうなと思って、「僕ならなんとかできますけど、どうします?」と言いにいったんだよね。

安江:それはすごい。いけるなと確信してたんですか?

竹村:もちろん間違ってたかもしれないけど自信はあったね。一番お世話になった人を助けたいし、竹書房も出版業界ももっと良くしたいって思いがあって、俺がやった方がいいだろうって思った。それが5年前かな。

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安江:5年前というとiPhoneの画面が大きくなって、本が読みやすくなったり、いろいろ出版業界も転換期でしたよね。

竹村:そうそう。そういう転換期の中で、「普通のことを普通にやればいいんじゃない?」といろいろ見直していった。

安江:竹村さん、そのことをいつも言いますよね。

竹村:とある千葉のキャバクラ王がいるんだけど、その人の言葉がすごく好きで「当たり前のことを馬鹿にせず、ちゃんとやる」と。

安江:キャバクラ王の言葉っていうのがいいですよね(笑)。
サイバーエージェントさんのキーワードにも「言うことは壮大、やることは愚直」という言葉があって、それに近いかもしれません。

竹村:僕らエンターテインメントの会社だから、理解してくれると思うんだけど、面白いもの作るとき、めちゃくちゃ真面目に取り組んでるんだよね。変に照れてるときこそ一番滑る。特に俺は関西人だから、それを小学校で習うんだよね。

安江:小学校で(笑)。

竹村:普通のことを普通にやるってそういうことで。基礎的なことっておざなりになりがちだし、例えば会社は、今月やったことを来月もやるんだよ。
でも今月は今月で状況違うわけだから、先月のまま「まっいっか」を繰り返してくと、ダメなんだよ。

安江:結局楽したいんですよね。

竹村:全部ゼロからやらなきゃダメなんだよ。特に出版なんて今までのことが上手く行かなくなってるから、なおさらそう。

安江:僕も前にとある漫画家さんにゼロベースで考えた方がいいんじゃないかとアドバイスしたんですけど、まさにそういうことなんですよね。でも周りからの反発はなかったですか?

竹村:意外となかったんだよね。ちょうどみんな弱ってた時期だったかもしれない(笑)。

安江:でも竹村さん、例え反発されても止めなさそうですよね。

竹村:そうだね。何が正解か不正解なんてわかんないし、決めちゃえばいいんだよ。あとは正解にしていく作業なんだよね。

安江:なるほど。

落ち込んだとき、目の前のことをひたすらやるしかなかった

竹村:これよく言うんだけど、俺ナチュラルボーン偉そうなんだよね。学生時代からずっと同じことを言ってて、それをやめなかったんだよね。今はちょっと偉くなったから、控えようと思ってるけど(笑)

安江:なぜですか?

竹村:偉い人が偉そうにしてるの、すごく良くないなと思って。安江はどうなの?そういう時期あったりしたの?

安江:僕も就職活動のときありましたね。
企業の人に「採った方がいいですよ、まじで」みたいな感じでガンガン言ってて(笑)。
僕はナチュラルボーンではないですけど、そういう時期は何回かありました。

竹村:これ、中島らもさんがエッセイで言ってたんだけど、躁鬱ってあるじゃん、躁になって鬱になるってのを繰り返す人ってのがいるんだけど、その周期が100年躁なやつがたまにいるんだって。
ほんとかどうかはわからないけど、俺はその話に喩えるとずっと躁なんじゃないかなって。
その波がいつ終わるのかはわからないけど(笑)。

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安江:いいですね、それ(笑)。
それこそ、竹村さんはスランプになったときとかあるんですか?

竹村:あるある。35歳ぐらいかな、すべて歯車が合わなくなって、上手くいかないときはあったね。今思えばあのときは“偉そうさ”を失っていたかもしれない。
本当は偉そうなのに、結果が出てないからそうじゃないように振る舞っていて、また上手くいかないみたいな。

安江:どう抜け出したんですか?

竹村:きっかけは8年間一緒に暮らしてた子に振られて同居が解散になったこと。あまりにも暇になったタイミングがあって、そのとき、死ぬほど働いていろんなことを一生懸命やってやろうと思ったんだよ。
これよく言うんだけど、俺もうちの会社も、いろんな意味であの子に救われたんじゃないかって(笑)。

安江:一度そういう風に落ち込んだとき、目の前のことをひたすらやろうとしたわけですね。

竹村:多分それまでやってこなかったんだよね。35歳とかのペーペーで、何者でもなくて、「そもそもマーケットも悪いし」とか言って、逃げてたんだよね。

資本主義に反する漫画を、資本主義の中でどう配置するのかが大切

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安江:そこから快進撃が始まったんですね。でも難しいビジネスじゃないですか、出版業界って。
僕らみたいな新興企業は、◯◯×ITっていうのでこれまで勝負してきたわけですよ。
確かに今までなかった組み合わせだからイノベーション的なものは起きるし、瞬間的には売れるんですよ。でも10年20年、50年続くビジネスになるかっていうと、そうはならない

竹村:そうだね。

安江:マンガボックスでいうと、そのフェーズから抜け出している最中で、漫画が簡単に読めるだけじゃなくて、作品づくりをコアにやりだしていています。でもそれがすごく難しい。

竹村:そうだね、でも特に漫画業界って本当は簡単なことが多いはずなのに、難しくしちゃってるところがあると思う。
そもそも構造的に儲かんないんだよ。儲けるために漫画を作って、いろんな人に届けるってまどろっこしいというか。お金を稼ぐためにはお金以外の何かを動かさなきゃいけないって大常識なのに、出版って商売としてはまどろっこしすぎるわけ。

安江:そこですよね。僕みたいな上場企業の立場からすると、売上と営業利益を上げ続けなきゃいけないプレッシャーがある中で、「ちょっと違くない?」と思うこともあります。

竹村:ずっと業績を上げ続けるのって無理があるんだよね。
漫画って資本主義にものすごくなじまないものじゃない?それを資本主義の中にどう配置するのかってことがすごく大事で。自分たちがしなければならない本質はそれだと思ってるんだよね。

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安江:そうなんですよ。クリエイターたちが世に出るためには場作りをしなければならなくて、でもお金儲けにつなげなきゃいけないから、そういう発想をせざるをえない。僕は場づくりを含めてやっている分、クリエイターとぶつかることもありました。

竹村:そのバランスが大事で、僕らがやってるエンターテインメントって世の中にあってもなくてもいいものなんだよね。
でも、世の中必要なものだけでいいのかというと、そうじゃないじゃない。
なるべくならいろんな種類の“必要じゃないもの”がある方がいいじゃん。この業界に自分がいたらもう少し何かが残るんじゃないかなと。

安江:そうですね。面白い面白くないは相対的だったり絶対的だったりするから難しいですが、いろんなものが生まれる可能性を担保しなきゃいけないと思います。

竹村:そんな世の中の方が良くない?と俺は思う。

無理せず、得意なことをかけ合わせて伸ばしていけばいい

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竹村:だから、会社にもいろんなタイプの編集者がいてもいいと思うんだよね。

安江:すごく思います。漫画家の場合って担当編集が決められてしまって、この『スランプさんいらっしゃい』でも編集と合わないという悩みが非常に多いんですよ。
それで夢やぶれたという方もいて、そのとき僕が言ったのは編集者の“処女信仰”をやめて、違和感感じたなら他にあたってみてもいいんじゃないかと。

竹村:そうだね。得意なことをかけ合わせた方がいいという話だとも思う。
俺らもいろんな仕事があるけど、得意なことやってるときはやっぱり上手くいくし、苦手なことやってるときは上手くいかないことが多くて。
例えばスケジュール調整が苦手なやつはずっと苦手なんだから、無理して頑張らなくていいじゃん。そこはお互いスケジュールぐだぐだでも頑張ろうよと(笑)。漫画家と編集者、お互い不得意なところで組み合わせても絶対いいものは生まれないんだよね。

安江:ちなみに竹書房では編集者が変わるってことあるんですか?

竹村:カジュアルにあるよ。
多分、一人の編集者に一人の漫画家って大手のイメージなんだと思うな。会社によっては編集部の売上目標が決まってるところもあって、必然的に編集者にノルマが課せられてることがある。そういうところは担当も作家を手放しにくいよね。
会社ももちろん利益を上げなきゃいけないんだけど、俺はそういうのが嫌いなんだよ。
だからうちの会社は部ごとの予算も売上目標も設定してない

安江:えっ予算もないんですか?

竹村:一応会社だから、予算と決算はあるよ。でもそれを下に落とし込んでいてもしょうがないじゃん。だから予算管理は一元化して、俺がみるようにしてる。
予算を作れば作るだけ、部のハンデ戦になっちゃう。竹書房は映像もやってるけど、映像部門がガンと下がっても、出版部門が頑張ればいいとか、その管理ができていればいいんじゃないかな。

安江:経営者も従業員も、予算決めと消化に苦しんでますよね。

竹村:竹書房は7部門あるんだけど、そのときいいところを伸ばせばいいと思ってる。そういうのって時期にもよるから、今あんまり流行ってないところは無理して頑張らなくていいというか。

面白いことをしたいというとき、「どこ」でやったら一番楽しいかを考える

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安江:でもそれって「捨てられた」と思っちゃいませんか?

竹村:言い方かなと思うんだけど、種まきと収穫の時期が違うじゃん。
特に漫画は最初に声かけてからコミックス出るまでに、3年とかかかるわけ。
だから今は焦る時期じゃないし、その時期に無理して刈り取りしてもよくないということは言ってる。もちろん刈り取りの時期は頑張ってほしいけど、上手くいかないときは肥料や畑がいいのか含めて考えましょうよと。

安江:短期経営になればなるほど、刈り取らなきゃという意識が芽生えてしまいますよね。

竹村:何事も3年だと思う。一冊出していい悪いはなくて、どんなものであろうが3年はやると。何事も3年続けなきゃ信用してもらうなんて無理だよね。
とはいえ、道中の工夫ってあるわけで。そこらへんの勝ち方みたいなのは福本伸行さんの漫画読めば大丈夫です。漫画に大事なことは全部書いてありますからね。

安江:さりげなく福本さんの宣伝してません?(笑)
最後にこの連載をみているスランプの漫画家志望、漫画家の方に一言お願いします。

竹村:面白い時代になったなと思うのが、WEBで漫画を読む時代になって、うちの会社では『ポプテピピック』のユニークユーザーって何百万もいるんですよ。多分竹書房史上もっとも読まれてる。

安江:数百万ですか、それはすごい!

竹村:誰もこんな時代がくるなんて思わなかったんじゃないすか。もちろん大手のほうが良いの方が多いでしょうけど、中小が担保している多様性とかもあるわけで。竹書房が得意なことっていうのがだんだん見えてきた。

安江:そうですね。

竹村:昔は週刊少年誌が頂点にあって、だからこういう雑誌を作って、こういう漫画を作ってとみんなそれに習っていた中で、今はいろんなアプローチがあるから、自分に合ったメディアを選んでもらえるといいなと思う。
なんか面白いことやりたいというときに、どこでやったら一番楽しいかっていうところで。僕らはたくさん変わったものを生み出してきたし、上手く提供できることもいっぱいあります。
もしスランプだと思ったら竹書房に来て下さい(笑)。

安江:じゃあもし竹書房がダメだったら、マンガボックスで(笑)。
今日はありがとうございました!

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ライター・撮影:高山諒
企画:おくりバント


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