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禍後の楽園から

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第12話 [シオ]ベーシックインカムから快適な配給制へ - 禍後の楽園から

第12話 [シオ]ベーシックインカムから快適な配給制へ - 禍後の楽園から

「物資取りに行くんだけど、一緒に来てくれない?」

サタさんの提案で、僕たちは小川沿いの小道を歩いていた。

「これ、川じゃなくて用水路なの。きれいでしょ?お花がたくさん。昔から街の人がボランティアで手入れしてるのよ」

たしかに両岸の樹木はきれいに整えられ、水面には鴨が3羽ほど泳いでいる。澄んだ水の中を魚が泳いでいるのも見える。

僕に街を案内したかったのか、サタさんは寄り道をしながらゆっくり歩

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第11話 [カショウ]新しい生活様式/号令/リミッター解除 - 禍後の楽園から

第11話 [カショウ]新しい生活様式/号令/リミッター解除 - 禍後の楽園から

私はベッドの中で、あの日のことを思い出していた。

あの日、この国のリーダーは、世界が二度ともとに戻らないことを宣言した。緊急事態宣言の解除。それが新しい時代の合図だった。

彼は“新しい生活様式”という言葉を使った。今後も人との適切な距離を取ること、通勤や通学をなるべく控えることを人々に求めた。

サタはその“号令”を聞くまで、この国がまた元の不合理な世界に戻ることを懸念していた。そのせいか、彼

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第10話 [シオ]悪の創造主/フウのゆりかご - 禍後の楽園から

第10話 [シオ]悪の創造主/フウのゆりかご - 禍後の楽園から

「気をつけろよシオ。そいつには時間の観念がない」

忠告するならもっと早くするべきだった。外はすでに白んでいた。

「何が“私が世界を壊したの”、だ。自分が破壊のヒロインか何かだと勘違いしてるんじゃないか?昔から自意識過剰なんだ、おま、いや、キミは」

「うふふ。だってそうじゃない?」

サタさんはそう言いながらテーブルの上を片付け、カップとティーポットを奥へさげた。

「たとえサタの言う通りでも

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第6話 [カショウ]ウイルスの観測問題 - 禍後の楽園から

第6話 [カショウ]ウイルスの観測問題 - 禍後の楽園から

COVID-19は、最初は肺炎を引き起こすという触れ込みで始まった。しかし次第に、他の症例も報告されるようになった。嗅覚の異常のほかに、血管内への侵入や、それと関連して肺以外の臓器もダメージを受けることがわかってきた。一口にCOVID-19と言っても、その症状の出方は千差万別だとの現場の証言もある。

もうひとつ、サイトカインストームというワードも目にするようになった。

サイトカインストームとは

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第5話 [シオ]呼吸/境界/破壊 - 禍後の楽園から

第5話 [シオ]呼吸/境界/破壊 - 禍後の楽園から

カショウは僕を連れ出した。晴れた美しい夕暮れだった。雲ひとつない空は、オレンジから濃紺へグラデーションをなし、ところどころに大粒の星をレイアウトしていた。

この世界では、どの街も自然と人工物が調和した美しい光景が見られるが、このカショウの住むMIRAH-0041も例外ではなかった。

僕たちは“シロ”に向かって歩いた。カショウによると、シロとは、古い城の周りにある盛り場のことらしい。

砂や雨の

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第4話 [カショウ]MIRAH-0017からの来客 - 禍後の楽園から

第4話 [カショウ]MIRAH-0017からの来客 - 禍後の楽園から

その青年が私を訪ねてきたのは一昨日のことだ。彼はシオと名乗り、頭脳都市(PHENO-00)へ向かうと言った。

この世界では、他の土地から人がやってくることはあまり多くない。たいていのことがオンラインで事足りてしまうということもあるが、危険が街と街との交流を阻んでいるのが最大の理由だ。

母に会うため。青年はそう言った。母に会うため、MIRAH-0017(MIRAH-XXXXとは行政区画ナンバーだ

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第3話 頭脳都市/情報統制 - 禍後の楽園から

第3話 頭脳都市/情報統制 - 禍後の楽園から

頭脳都市。

すべてにおいて例外的な場所。
この社会のすべてを管理している中枢都市。

そこに僕の母がいる。

そこは地方とはまったく勝手が違う。
そこにいる人たちは、この社会システムのために働いている。

この世界に民間企業はほとんどない。だからここにいる人たちは、たいていが(あなたたちの世界の)官僚のような仕事をしている。

各地のステーションから拾い上げたデータや、オンライン上の情報を元に、

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第1話 最適化されたシステム - 禍後の楽園から

第1話 最適化されたシステム - 禍後の楽園から

あの災禍のあと、僕たちの社会は随分変わった。
そう、今あなたたちが渦中にある災いだ。

あれから鉄道は人を運ばなくなった。そのかわり、モノを運ぶようになった。資源も限られているので、生活物資は基本的に配給制だ。

レールに乗って各ハブ拠点に到着した物資は、さらに各地の配給所に配られる。住民は、役所から配られたクーポンと交換して、生活物資を得る。

一部の地域では、ドローンを使ったり、各家庭に直通の

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