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いじめと差別を防止するための愛ある学びの空間づくり

この記事はこんな方向けに書いています:
・自分の学校で生徒の居場所をつくりたい
・いじめや差別を学術的に捉えたい
・いじめや差別について学びつつ、自分も防止できるような空間を体現できるようになりたい


ハーバード教育大学院の1年間のプログラムに来て、もう秋学期の前半が終わってしまいました!(1/4が過ぎてしまった…!)
私は1つだけ秋学期前半のみ開講する授業を取っていたので、今回はその授業の振り返りをしたいと思います。
この授業は「Establishing Loving Spaces for Learning: Preventing Bullying and Discrimination in US Schools」という名前で、いじめや差別を防止するためにどう学校空間を変えられるかという内容でした。


授業を受けようと思った理由


この授業は大学院に到着してから存在を知った授業で、出願したときに取る予定にしていた授業ではありませんでした。
夏の基礎コースで公平性について学んだときに、自分はアイデンティティやいじめについて惹かれるものがあるなと思ってコースカタログを眺めていたところ、「bullying」の文字を見つけてオリエンテーション資料を開いてみることにしたのです。

そうしたらまず先生にびっくり!
日本でいじめのことについて学ぼうと思ったらなんとなく暗いイメージを持ちそうですが、先生のGretchen Brion-Meiselsはすごく明るそう!

先生の明るい雰囲気とは対照的に、オリエンテーション資料は学校でのいじめや差別がマイノリティグループに起こりやすいというデータでびっしり。

オリエンテーション資料に含まれていたThe 2019 National School Climate Surveyのデータ



そして先生自身もLGBTQで女性と結婚して家庭を持っていて、ハーバードでは他にLBGTQについてや若者参加型のコミュニティリサーチについての授業を行っているとのこと。
日本の教育委員会が学校でのいじめについて「いじめは存在しませんでした」と頻繁に発言していたことにもやもやしていた私は、「いじめについてこんな体系的に学べる機会は他にないのでは!?」と思い、秋学期の6つの枠のうちの1つを捧げることにしました。


「愛ある学びの空間」の体現


秋学期前半が終わった今、8月の自分に送りたいのは「コースカタログで見つけて本当に良かったね!」という言葉です。
いじめや差別について学校の構造を理解したり、データを見たり、フレームワークを知ったり、他の生徒の体験談を聞いたりと色々勉強になったのですが、この授業で特に素晴らしかったのが「いじめや差別がないような愛ある学びの空間」をこの授業自体が体現していたことです。

月曜9時からの授業だったのですが、必ずカップケーキやフルーツを置いてくれていました。
ホームになる小グループが割り当てられ、グランドルールを決めます。
最終回のときは小グループの中で色紙を書いて、お互いを褒め称えました。


この他にも最初の授業のときにトーキング・サークルという、全員が輪になって石を持っている人が順番に話す対話をやったり(アメリカの授業で起きがちな、発言するタイミングを逃すことがなくて心理的に安全でした)、伝言ゲームをやった後にこのゲームにどういう意味合いがあるか振り返りをしたりと、話し合いを重視した授業でした。

特に最初の授業中に食べ物が置いてあるというのは大学院だからかと思うかもしれませんが、私もオランダのアメリカンスクールのときに誕生日の生徒が授業中にカップケーキを持ってきていたり、ゲームの景品がお菓子だったりと、教室に対して楽しくポジティブなイメージを未だに持っています。

生徒にとって教室がどうしたら居心地が良い空間になるかと考えたときに、人間の欲や安心感を満たすために、生徒が自分で食事・トイレ・座り方を決めることはもっと一般的になってもいいのではないかと思います。


生徒に混ざって参加するGretchen先生。


そしてGretchen先生もオリエンテーションの動画から想像したような素敵な人柄でした!
サッパリして子どもウケしそうな方なのですが、一番印象的だったのは自分がハーバードで教えるにあたっての優位的な特権を理解して私たちに説明してくれたことです。(白人であること、結婚していて経済的支柱が自分以外にもあること、ケンブリッジ出身でハーバードの地域について詳しいこと)
先生は自分の優位的な特権について気づいていないと、その特権がない生徒がなぜ同じような成果を出せないのか理解するのに苦しむことになります。
LGBTQというマイノリティの側面を持つからこそ、自分のマジョリティの部分についての理解にも説得力があり、それぞれの人が自分のマジョリティ・マイノリティの部分を認識することはすごく大事だと気づかされました。


授業の最終課題:ガイドラインと帰国子女を理解するためのリソース


最後に、この授業の課題は2回ジャーナリングをして他の生徒からフィードバックをもらうこと、そして最終課題の3つでした。
最終課題では6回の授業で学んだことをまとめたガイドラインを英語で作ったのですが、せっかくなので和訳したものをnoteで公開したいと思います。


読んでみていかがでしょうか?感想などお待ちしています!


そして最終課題ではもう1つ、自分が取り上げたいマイノリティグループについての資料一覧を作るという課題がありました。
そもそも「いじめ」というキーワードに惹かれてこの授業を取ったのですが、自分が取り上げたいマイノリティグループについて考える中で、周りの「帰国子女」が日本の学校に帰ってくると必ずいじめられ、転校したり不登校になることを余儀なくされているところを見て、「いじめ」という言葉に強い思いを持っていたのだなと気づくことができました。

帰国子女は毎年1万人前後が日本に帰国していて、この数字は日本全体の子どもの割合から見ると0.1%ほどであるため、マイノリティだと言えます。
帰国子女に会ったことがなくてどんな風に接すればいいか分からない先生方もいると思いますが、こんな本があるので是非知見を広めてもらえると、これから救われる帰国子女がたくさんいると思います。

まずは日本語で読める小説を2つ紹介します。
こちらの「Masato」は帰国子女についての物語で、日本とは別の国で感じる疎外感、帰国しても続くアイデンティティの喪失、自分の生い立ちを受け入れてくれる教育機関を選択することの難しさ、自分以外の家族のスタンスの違いが及ぼす心理的な影響などについて描いていて、共感できる場面ばかりです。


次に紹介するのは有名な「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」です。この本は帰国子女ではなく、イギリスに住むイギリス人と日本人のハーフのお子さんの生活を日本人の母親(作者のブレイディみかこさん)目線で描く場面が多くあります。この本を読むと、帰国子女が海外でどういう経験をするのか、何を見て聞いて考えるのか、ということについてイメージが湧くようになると思います。


ここから下は英語の資料になりますが、読める方は是非。
まずは教育大学院の公平性の文脈でよく登場する「Culturally Responsive Teaching & The Brain」です。
これは帰国子女というよりは、アメリカ社会でマイノリティである有色人種の生徒について、人は自分の文化のレンズを通して物事を学ぶのだから、学校の授業もその生徒の授業に対応しないと学習効果が高まらないことを書いた本です。


その次は「Third Culture Kids」という母国以外の国で幼少期を送った子どもについての本です。本全体としてはThird Culture Kids全般の話ですが、付録に日本の帰国子女・海外子女に特化した章があり、日本の文化的な側面から一般的なThird Culture Kidsとの違いについて説明してくれています。


最後に2020年に新たに出版された「Raising Up a Generation of Healthy Third Culture Kids」というもう1つのThird Culture Kidsについての本があります。こちらは授業の文脈に近く、いじめや差別に対して大人が取れる対応のフレームワークなどが収録されています。団体が出している学術論文のPDFは無料で読むことができます。


アメリカの小学校で生徒の居場所を作るためにどんな工夫をしているかは、こちらの私のnote記事からどうぞ:


最後に今回の最終課題を経て、帰国子女の数のデータはあるし、いじめの数のデータはあるけど、帰国子女がどのくらいいじめに遭っているかのデータがないと感じました。
春学期にアンケートの授業を聴講しようと思っているので、そのときに帰国子女がどのくらいいじめに遭っているかのアンケートを取ってみたいというのが直近の野望です。
学校空間デザイン、いじめ、帰国子女についての研究やプロジェクトに取り組みたい方がいらしたら気軽にお声かけください。

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