生き方としての伝統回帰を展望する(内山節『民主主義を問いなおす』を読んで)
国家というシステムが機能しなくなりつつある時代を鋭く指摘する講演録。
民主的な手続きによって成立した政権が、結果的に独裁的な政治を行う矛盾。それは民主主義の未成熟さではなく、民主主義に内在された必然的帰結である、と著者は述べているのだと思う。
本書では、政治、宗教、労働、文化などがバラバラに分離された社会から、それらを一体的に含み込んだ共同体への伝統回帰が展望される。それは単に昔に戻ることではなく、新しい技術を用いた「生き方としての伝統回帰」の試みである。
また、いま日本で問題になっている「高齢化問題」とは、単にお年寄りが増えるということではなく、その本質は「サラリーマンが高齢化することの問題」であるという指摘にははっとさせられる。
現状の政治の問題は認識しながらも、自分のポジションを失うことの怖れから変化を拒む心理など、現代日本の問題点がさまざまな論点から語られる。問題の根深さにうなりながらも、あたたかな希望の光も感じられる読後感。
平易で読みやすく、広くおすすめできる一冊。
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