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「開かれた」マインドフルネス論(藤井英雄『マインドフルネスの教科書』を読んで)

タイトルのとおり、マインドフルネスの入門書としては最適の一冊。「マインドフルネスとは何か」ということが、実に平易に説明されている。

この本は「スピリチュアルの教科書シリーズ」の中のひとつなのだが、いい意味で「スピリチュアル・スピリチュアルしてない」のだ。だからどんな人でも抵抗なく受け入れることができるだろう。

逆に、「マインドフルネス」というものを極端に霊的なもの、超自然的なもの、あるいは宗教的なものとして捉えている人にとっては(もちろんそういう要素があることは間違いないのだが)、ちょっと物足りないと感じられるかもしれない。

しかし教科書としては必要にして十分な内容なのであって、応用編からは自分の興味関心に従って自由に展開させてゆけばよいだろう。

マインドフルネスの理論だけでなく、日常の中で実践できるエクササイズもわかりやすく紹介されているので、「一回読んで終わり」ではなく、長く付き合っていける本だと思う。

実は僕の知り合いにマインドフルネスのトレーナーがいるのだが、その人が紹介していたエクササイズの中に、この本の内容と同じものがあった。もしかするとその人も、本書を読んでいたのかもしれない。だとすると、「マインドフルネス業界」(?)でも、すでに定評のある一冊になっている可能性もある。

個人的に興味深かったのは、2013年に発足したという「日本マインドフルネス学会」によるマインドフルネスの定義。

「〝今、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、評価をせずに、とらわれのない状態で、ただ観ること〟と定義する。なお、〝観る〟は、見る、聞く、嗅ぐ、味わう、触れる、さらにそれらによって生じる心の働きをも観る、という意味である」

まずこの定義がしっかり腹落ちすれば、それだけでマインドフルネスの本質にかなり近づけるのではないだろうか。もちろん実践抜きには語れないことは言うまでもないけれど。

本書ではさらに、マインドフルネスを次のようにも説明している。

「自分が『今、ここ』で何をしているのか自覚しながら行動すればそれはマインドフルネスです」

実にわかりやすい。ともすれば「簡単には説明できないもの」として神秘性の彼方に追いやられがちなその内容を、ここまで平易に表現しているのは実に親切だと思う。

もちろんマインドフルネスの定義は、この本で紹介されているものだけではないし、この本の中だけでも複数の定義が紹介されているのだが、入口はやっぱりわかりやすい方がいい。

最初のとっかかりで、「自分には無理だな」「関係ないな」と思ってしまったら、もうそこで道は閉ざされてしまうのだから。

「マインドフルネス」に関心を持って、しかもそれを実践したい気持ちを持っているなら、まず最初に手に取るべき本として間違いないと思う。それは「この本が絶対的に正しいことを書いている」ということではなく、そこから自由に発展させていく余地を持っているという意味で「開かれた」本だと思うからである。

そしてそれこそ「マインドフルネスの〝教科書〟」にふさわしい資質だと僕は思うのである。


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