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生徒目線での学校のオンライン化

現代の子供とオンライン教育への向き合い方

情報化や国際化が急速に進む中で、現代に生きる子どもたちは、予測できない社会への適応能力や、自ら課題を設定して他者と共存する力など様々な能力を持つことを期待されている世代です。

同時に、若い時からインターネットやスマートフォンなどが身近な存在として育ってきた、いわゆるデジタルネイティブの世代でもあります。この記事では、そんなデジタルネイティブ世代の小中高生の視点から、自宅でオンライン学習をするとはどういうことなのかという点について考えてみたいと思います。

今の若い世代に合わせた、これからの時代を生きていくために必要な教育とは何なのか。実際にオンラインでの教育を進めていくためには何が必要なのか、少しでも示唆を与えることができれば幸いです。

*この記事は保護者目線でのオンライン教育でも登場した、シンガポール在住の2児の母クリスティーさんのお子さんの声をもとに書かれています。オンライン学習経験者のリアルな意見をお伝えできれば幸いです。

独立的な学習者と自宅でのオンライン学習

そもそも自分で自分を律して学習することができる、「独立した学習者」はどの程度いるのでしょうか。学術的に自律学習を行うことができる学習者は、大人でもかなり少ないということが分かっています。オンラインで大学の授業を取ることができるプラットフォームのMOOCs (Massively Open Online Courses) でのコースの修了率は5%程度とされています。それに加えて、多くのコース修了者は既に学位を取得している、いわば自分で学習ができる人たちということが分かっています。

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大人でも5%以下の独立した学習者の割合が、いつも時間割通りに行動することを求められている若年層になれば更に下がることは想像に難くありません。まして、手を抜いても注意もされず誘惑の多い自宅でのオンライン学習となれば尚更のことです。

子どもの学習継続を実現するには様々な環境要因が存在します。子どもは基本的には強制力なしでは座学的な学習を継続することが難しいため、子どもが勉強をできる環境を整え、継続的に学習をする仕組みが自宅でのオンライン学習でも必要になります。一方でこのことをポジティブにとらえれば、デジタルネイティブである今の若い世代にとっては、オンラインで学習環境を整えてあげることで、従来の学習よりも更に効率的に学習ができる可能性もあります。

ここからは、クリスティさんのお子さんのリアルな声をもとにした、自宅でのオンライン学習における問題点と学習継続させるための仕組みについて検討します。

家でのオンライン学習に立ちふさがる壁]

ーーー  自宅でのオンライン学習が始まって最初の5日間、クリスティさんのお子さんの反応はどのようなものだったのでしょうか。9歳になる息子と、6歳の娘の構成です。学校からはタブレット端末で利用できるアプリの利用を推奨されましたが、それ以上のサポートはあまりなされていない状況です。

一日目
兄(9): やった、iPad使いたい放題だ!え、勉強のためならYoutube見てもいいの?
妹(6): お兄ちゃん、私も一緒に見たい!

二日目
兄:お母さん、今日の宿題動画見るだけなんだけど、難しくて全然分からないから先にYoutubeで他の動画見て勉強してもいい?(気づけば、趣味の動画を見ている。)
妹:(兄と一緒に動画を見ている)

三日目
兄:お母さん、この問題分かんないんだけど教えてくれる?先生がオンラインじゃないから誰も教えてくれない。メッセージしても反応も遅いし。
妹:お母さん、動画だけ見てるの飽きたよ。体育とか音楽とかの授業はないの?

五日目
兄・妹:学校行きたい...。友達にも会いたい...。

クリスティさんの自宅での様子が伝わったでしょうか(クリスティさん視点の親目線の意見が知りたい方はこちらから)。似たような状況が、日本でも数多く見られることと思います。中高生でも、程度は違えど、同様の状況でしょう。

これらを子ども目線でのオンライン学習における課題にとしてまとめると、以下の3つになります。

1、課題が動画を見るだけの一方的なもので双方向性がないため、すぐに飽きてしまう。また、家での学習には誘惑が多く、集中できない。

2、サポート無しで新しい内容を独学する際に挫折してしまいやすい。

3、人との関わることのできる体育や音楽などの実技科目の授業がうまく行われない。座学的な科目だけに集中し続けることが難しい。


普段学校で集団で授業をしている際にはあまり気にする必要はありませんが、自宅でひとりで学習するとなった際には分からないことに対して自分で対応する必要があります。前述した通り、人が自分の力だけで学習を継続していくことは大人でも難しいことなので、子どもであればすぐに飽きてしまい時間を持て余してしまうことでしょう。

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また、動画を見て課題に取り組むだけの学習スタイルでは、コミュニケーションの双方向性がない上に、先生や同級生からの同調圧力や、褒める励ますといったフィードバックもありません。分からない課題に対して、先生や周りの生徒の助けもない状態で一人でもくもくと取り組み、頑張って終わらせたとしても誰も褒めてくれない。そのような状態で学習を続けられる生徒は多くないと思います。

そして何よりも、人との関わりを感じることができる活動が少なくなってしまうことは大きな懸念点です。音楽や体育といった活動は現状のオンライン授業では、中国などで先進的な先生たちが試行錯誤していますが、まだ全体としては全体に普及しているとは言えません。社会との関わりが少なってしまいがちな自宅学習では、子どもたちの心身の健康の問題が見過ごせない課題となります。

では、これらにはどのように対応していくのが良いのでしょうか。

子どもが自宅で学習をするための仕組みづくり

上記課題①、②に関しては、時間割が決まっているライブ授業を行うことが効果的とされています。具体的には、以下の点において大きな効果を見込むことができます。

・朝の会、終わりの会などを含んだ時間割を設けることで、生活へのメリハリが生まれる。
・授業中に双方向性のあるコミュニケーションがあり、教師や他の生徒の目があるため手を抜くことができない。
・考えを言った際や質問をした際に即座に反応がある。
・できたら褒める、できなければ励ますなどのコミュニケーションが生まれる。

世界でいち早くオンラインでの授業を始めた中国では、上記をライブ授業の際に「Two Teacher System」という制度を導入しています。この制度では、授業中に授業をする講師と、質問に答えるチューターに分かれて2人でオンライン授業を支援するというものです。
この制度を用いることで授業の進行を妨げることなく、生徒の疑問にも答えることができるようになり、生徒一人ひとりへの関与度を高めることができます。

また、高校生を対象にした学習管理には、カウンセリングを用いた内発的動機の醸成も効果的とされています。高校生にもなると、自分の将来のことや進学をするのか就職をするのかなど、現実的に考え始めます。その際に、自分の学習内容と自分の将来へのつながりが見えれば、おのずと自発性も生まれてきます。日本でも、高校生へのコーチングのサポートは徐々に普及してきています。

実際、2006年から教室機能を殆どオンラインに移して授業を行っているアメリカの「Stanford Online High School」では、カウンセリング/チュータリングの手法を用いています。そのぶん人手もかかりますが、オンラインで学習へのモチベーションを保っていくためには効果的な手法といえます。

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次に、③の課題にはどのように対応していくのが良いのでしょうか。

iPadなどを用いた音楽や運動のアプリ関連の教育アプリは近年目覚ましい発展を遂げています。また、海外ではMasterClassと呼ばれる、著名なアスリートやアーティストからの指導動画を見ることができるサービスなども出てきています。そのため、これからのデジタルネイティブ世代は知識の質・アクセスという面では、芸術や運動科目において前の世代よりも有利といえるかもしれません。

ですが、③の課題における本質的な問題は他者との関わりになります。どうしてもオンラインで過ごす時間が長くなるほど心身の健康は損なわれてしまう傾向にあります。課題③に対する対策としては、後述のオンライン疲れに関する記述で更に詳しく考察します。

見直される学校の価値とオンライン疲れ

ここまでの話の中で度々、「学校生活ではあたりまえ」でも「オンラインでの授業ではあたりまえではないこと」が多く出てきました。周りに生徒がいることや、時間割があること、また給食や部活動、学校行事まで、学習以外の学校の価値がオンラインで授業が行われることによって改めて見直されるきっかけとなりました。かえって、学習以外の価値の方が大きいかもしれません。

オンライン授業5日目のクリスティさんのお子さんがそうだったように、長期化するオンラインでの授業は子どもたちの心身へ影響を及ぼします。いわゆる「オンライン疲れ」はオンライン授業を考える際に避けては通れない問題です。

孤独感や交流不足によるストレス、恒常的な情報過多による精神的疲弊、画面に長時間向き合っていることによる眼精疲労や運動不足など心身ともに疲弊してしまう子どもは今後増えていくことが予想されます。

これらに対する対応はまだ世界中でも模索の段階ですが、オンラインでの行動に関するマニュアルやガイドラインを設ける動きは徐々に始まっています(より具体的な例を見つけ次第更新いたします)。ただし、この分野に関してはまだ皆が手探りの状態で、先生たちにとっても未経験の事態です。もちろん、これは在宅で働いている大人も例外ではなく、社会全体で解決していく問題でしょう。

まとめ:オンライン時代の学びの形

この記事では、子ども目線でオンライン教育にどう向き合っていけばいいのかということを考えてきました。冒頭でも述べたとおり、現代を生きる子どもたちは、今までどの世代が経験したよりも予測不可能で、高度な情報化社会の中に生きています。

テクノロジーの進歩によって、今後ますます子どもたちの学習は形を変えていくことと思います。実際、現代の若年層はオンラインへの対応能力は上の世代よりもはるかに高いのが現実です。宿題の配信機能を利用した個人最適化された学習方法や、無限にインターネットの海にあふれる情報を活用していくのが今の若い世代です。

その反面、「どんな時代でも変わらず求められる力」はこれからの時代にも変わらず求められていくでしょう。

不易と流行。リアル/オフライン世界が中心のbeforeコロナの時代 、オンライン世界が主役となったwithコロナの時代 、そしてリアルとオンラインがなめらかに融合していくafterコロナの時代に、生徒たちへ求められる能力は大きく変わっていくはずです。

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* 「学校のオンライン移行ガイドブック」の目次は、この記事 ( https://note.com/manabie_official/n/ne16564ff2712 ) の下方にあります。

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「学校のオンライン移行ガイドブック」 目次

*記事は随時追加していきます。

中国/韓国の休校事情とそれに伴うオンライン教育の活用
学校のオンライン化に必要なツールのご紹介
学校のオンライン化を進めるための7つのステップ
保護者目線での学校のオンライン化
生徒目線での学校のオンライン化 (小学生 / 中高生)
各国の休校措置の現状と出口戦略
After/withコロナの学習塾業界 (寄稿記事)
オンラインでも自主学習を成り立たせるには(寄稿記事)
・After/withコロナ時代の教育(分析編)
・After/withコロナ時代の教育(想い編)
よくある質問集
・その他
     - アメリカ/イギリスの休校事情とそれに伴うオンライン教育の活用
     - 学校のオンライン化において想定される問題と対策
     - 各国政府/文科省の動き
     - ケーススタディ/オンライン移行事例のご紹介
     - インタビュー
     - 日本での休校事情(*定期アップデート)
     - その他各国での休校事情(*定期アップデート)
     - 学校閉鎖が長期化へ向けての準備 (学校、生徒・親、塾)
* 目次は変更の可能性があります。

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