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各国の休校措置の現状と出口戦略

----- この記事の要約 -----

・国ごとに対応は違うが、多くの国では (全面的/部分的) 休校措置の長期化の可能性が高い。
・学習のみならず、学習以外の学校機能が失われることによる生徒への影響は大きい。
・応急処置で凌ぐだけではなく、長期化を見越した抜本的な対策に取り組む必要がある。

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今世界中で学校はどうなっているのか


現在、世界中で全生徒の91.3%にあたる15.7億人の生徒に対して休校措置が出されています。

問題

日本国内の学校閉鎖状況をみると、予防の意味をこめて感染者が出る前に休校措置を取る学校、感染者が出た場合は休校措置を取る旨を発表している学校など、様々です。国として画一的な措置は取られていないため、各自治体、学校がそれぞれの判断で最善を尽くしているという状況です。

そんな中、都内を中心にゴールデンウィークを一つの目安として学校再開を検討している自治体もあります。刻一刻と変わり続ける事態を前に、短期間の休校延長、長期の閉鎖、即時再開など多くのオプションがあり、自治体も頭を抱えていらっしゃることと思います。そして何より、自宅待機をしている生徒さんたちが一番この不安定で先が見えない事態に翻弄されているのだと思います。

この記事では、他国における休校措置の状況、休校による感染防止効果に対する現段階における各研究をご紹介します。世界各国の先行事例を参考に、少しでも現状打破につながる示唆を示せれば幸いです。

世界各国での現在の閉鎖状況

まず、世界の閉鎖状況は大きく以下の3つに分類して紹介します。


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世界各地では多くの場合、学校閉鎖の大枠を国が決定、再開時期などの詳細を自治体レベルで決定という形で対応が進められています。以下が対応の国別の対応の詳細になります。

学校閉鎖をしている国

イギリスでは、イースターの祝日(4月12日)を目途に学校再開が期待されていましたが、現状政府は科学的根拠が出るまで学校再開の見込みはないとしています。例外的に、最前線で働く医療従事者や警察などの子供向けに学校は最新の注意を払って継続されています。それでも、国全体で800万人もの生徒に対して休校措置が取られているのが現状です。

ベトナムでは、感染者数がまだ15人程度だった2月頭から学校閉鎖が行われており、2週間ごとに閉鎖期間の延長措置が取られています。2か月半経った4月現在、感染者数は未だ250人程度と他の国に比べて抑え込めてはいるものの、依然として学校閉鎖は続いており、オンラインでの授業などの対策も学校ごとの対応で、国・自治体からの明確な指針はまだ出されていない状況です。オンライン授業が進んでいない背景としては、短期間の延長が繰り返されたため、いつ学校が再開されるか分からず折角の準備が無駄になってしまう可能性を考慮している点があります。明確な長期の学校再開プランがない中で、先行投資を伴うオンライン授業の環境整備にどう向き合うかが今後の課題となっています。

問題

アメリカのニューヨーク市では、公立学校での今年度の学校閉鎖を市長がアナウンスしました(現在ニューヨーク州知事と、州全体として同じ措置を取れないか議論中です)。アメリカでは学校年度が終わるのは6月で、新学期が始まるのは9月なため、夏休みを挟むと生徒たちは9月まで学校に行かないこととなります。感染拡大が続くアメリカでは、今後他の主要州・都市でも同期間の学校閉鎖の可能性が高いと言われています。

学校再開の見込みがある、または既に再開している国

中国では、休校中の全国的なオンライン授業での対応とともに、一部事態収束が進む地域における学校再開が行われています。特に、受験を控える中学3年、高校3年生は優先的に学校での授業が再開されています。韓国では、オンラインのみでの授業再開が進められています。4月20日を目処に小中高全ての生徒に対してオンラインでの授業が再開される見込みです。

中国・韓国の詳しい状況に関しては、「中国・韓国の休校事情とそれに伴うオンライン教育の活用」の記事をご参照下さい。

デンマークでは、一か月の休校期間を挟み4月15日から学校再開が予定されています。また、隣国のノルウェーにおいても4月20日から徐々に学校再開が行われる見通しです。現状として医療現場の収容能力があることや、消毒などの対策を徹底することを前提においての決定となります。子どもたちの精神的な健康なども考慮している対策であると考えられます。

閉鎖していない国

大規模な学校閉鎖が行われていない数少ない国として、台湾があります。
台湾では今年度冬休みの期間を2週間延長して、2月25日から授業を開始する対策を取りました。現状として授業は通常通り行われており、各学校で徹底した感染予防対策が取られています。

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マスクを必須にするなどの共通の対策の他には、上記画像の様な飛沫防止の衝立が設置されている学校もあります。また、実際に感染者がでた際の対応としては、1人の感染者が出た段階でクラスの閉鎖、2人出た段階で学校全体の閉鎖という方針が学校によっては定められています。

一部の高校では3月に感染者が発生し、3月20日から27日まで一時的に学校閉鎖が行われました。学校へ行くことができない生徒に関してはオンラインでの授業提供をすることで迅速に対応がなされました。多くの学校でも同様に、仮に一時的な休校措置が取られたとしてもオンラインによる授業継続の準備がなされているようです。現在では大学以下の小中学校に関しては通常通り学校での授業が開始されています。

このように国による対応は、各国の医療状況、感染拡大の深刻さなどに応じて異なります。コロナ感染の収束の目処が立っていない欧米各国では、6月までの授業開始は困難とし、それを前提とした準備も進み始めています。

そもそも休校の効果とは?

世界各国では、学校閉鎖の長期化が進むことによる子どもたちへの精神的・学力的な懸念も進んでおり、「いつ、どのような条件下で、どのような対策とともに学校を再開すべきか」という出口戦略の議論がされています。

そのような議論の中で、イギリスのUCL(University College London)が学校閉鎖に関する研究を発表しました。内容を簡単に要約すると以下になります。

・SARSのデータ分析では、当時の学校閉鎖は感染拡大防止に対して大きな影響を与えていない。
・生徒は重症化するリスクが少ないが、ウイルスを運ぶリスクは懸念点としてある。
・詳細についてはデータがまだ不十分であり、SARSや2009年のインフルエンザと同様の結果がコロナウイルスにも期待されるわけではない。


つまり、休校措置の感染防止に対する効果を疑った上で、一方的に休校再開を是とする主張ではありません。生徒たちへの精神的、学力的な影響を考慮した際に、学校再開がもたらす影響の議論に使われるための発表となります。イギリスの感染防止の政策に大きな影響力を持つImperial College LondonのNeil Ferguson教授は、休校措置単体では感染防止効果は小さいものの、他のソーシャルディスタンス施策と合わせると大きな効果を持つと延べています

また、休校措置が持つ生徒たちに対する悪影響に関してはアメリカ疾病予防管理センターが以下のような考察をしています。(一部抜粋、要約)

・生徒への精神的、学力的な悪影響が甚大となる。(進級や卒業への懸念など)
・給食やカウンセリングなど学校が持つ学習以外の機能が損なわれることで発生する弊害。(低所得家庭出身生徒への影響、学力格差の拡大など)
・前線で働く医療従事者などの親としての負担の増加。
・学校閉鎖の長期化によって、若年層が外出などをする恐れがあり、逆に高齢者層への感染拡大が考えられる。(学校で管理ができている方が良い)

アメリカ疾病予防管理センターによる考察では、学校閉鎖から1、2、4、8、20週経過後の影響についてそれぞれ考察をしています。詳細についてはこちらを参照ください。

休校措置からの出口戦略を考える上で、感染防止効果とそのコストの精緻な分析が重要になってくるため、今世界中で多くの専門家が分析を続けていますが、まだ決定的な結論は出されていません。

学校再開への展望は?

ここまで各国の現在の状況と、専門家たちの現状での分析結果・意見を紹介してきました。前述したように、この前代未聞の事態に対しての決定的な解はまだありません。学校が再開されたいくつかの地域においても、状況変化に応じてはまたすぐに再閉鎖される可能性も残っています。

ただ、現在の専門家のコンセンサスでは、(全面的/一部) 休校措置の長期化はある程度避けられないように思います。また、現在都内の小学校などで起きている事態として、学校という施設の性質上どれだけ工夫しても「密閉、密集、密接」の3密が避けられないという実状があります。

長期化が続けば続くほど、生徒たちが学校にいけないことによる様々な弊害は深刻化します(詳しくはこちらの「生徒目線での学校のオンライン化」を参照ください)。試験の実施や部活動、修学旅行などの学校行事や生徒の募集など、生徒のみならず学校運営への影響も甚大です。

新型コロナウイルスに対する不確実性に対しては、できる限りの対策を講じることでしか向き合うことは出来ません。その場しのぎの応急処置だけではなく、長期化することを見越した学校のオンライン化を始めとする根本的な対策が求められてくるのだと思います。今後とも各国の動向をもとに、日本の学校における新型コロナウイルス対応へのヒントを模索していければと思います。

まとめ:子どもたちを最優先した際の決断とは


この記事では各国の学校の新型コロナウイルスに対する対応と専門家の分析をもとに、今後の日本の対応について考察しました。要点は以下の通りです。

・国ごとに対応は違うが、多くの国では (全面的/部分的) 休校措置の長期化の可能性が高い。
・学習のみならず、学習以外の学校機能が失われることによる生徒への影響は大きい。
・応急処置で凌ぐだけではなく、長期化を見越した抜本的な対策に取り組む必要がある。

今回の事態を受けて社会全体が大きなダメージを受けていますが、当然子どもたちも例外ではありません。新型コロナウイルス時代に学生であったために学力が低い、社会性が低下している、などといった負の遺産を子どもたちに背負わせてしまうことは避けなければなりません。子どもたちの命、そして未来を最優先した上で、休校措置の出口戦略を考えていく必要があります。

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「学校のオンライン移行ガイドブック」 目次

*記事は随時追加していきます。

中国/韓国の休校事情とそれに伴うオンライン教育の活用
学校のオンライン化に必要なツールのご紹介
学校のオンライン化を進めるための7つのステップ
保護者目線での学校のオンライン化
生徒目線での学校のオンライン化 (小学生 / 中高生)
After/withコロナの学習塾業界 (寄稿記事)
オンラインでも自主学習を成り立たせるには(寄稿記事)
・After/withコロナ時代の教育(分析編)
・After/withコロナ時代の教育(想い編)
よくある質問集
・その他
     - アメリカ/イギリスの休校事情とそれに伴うオンライン教育の活用
     - 学校のオンライン化において想定される問題と対策
     - 各国政府/文科省の動き
     - ケーススタディ/オンライン移行事例のご紹介
     - インタビュー
     - 日本での休校事情(*定期アップデート)
     - その他各国での休校事情(*定期アップデート)
     - 学校閉鎖が長期化へ向けての準備 (学校、生徒・親、塾)
* 目次は変更の可能性があります。

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