中国・韓国の休校事情とそれに伴うオンライン教育の活用
日本で徐々に学校閉鎖などの措置が進む中、中国や韓国は日本に先駆けて授業のオンライン化を進めてきました。特に中国はもともと学習を助けるための技術、いわゆるEdtech (Education Technology)が世界で最も進んでいる国でもあります。
技術といえばアメリカを想像される方も多いかもしれません。ですが、実は中国国内には近年時価総額が1000億円を超える新興Edtech企業が多数生まれており、アメリカで上場をし時価総額も2兆円となった会社もオンライン教育を積極的に提供しています。日本でも有名な「TikTok」を提供している会社もオンライン教育を成長戦略の一つとして捉えています。つまり、中国はアメリカを凌ぐ世界最大のEdtech先進国なのです。
この記事では、学校閉鎖の期間も長く、世界で一番オンライン教育が進んでいる中国と、同じく長期間の学校閉鎖を経験した韓国を例に学校のオンライン移行へのヒントをご紹介します。両国が試行錯誤を経た上で得た知見は必ず日本にとっても有益なものになると考えております。ぜひご一読ください。
1、現状の閉鎖状況
中国
世界で最も早く全国的な学校閉鎖を決めた中国では、実に2億人もの生徒がオンラインでの授業開始を余儀なくされました。2月10日から学校閉鎖が続いていますが、2か月経った4月現在でも依然として多くの学校で閉鎖が続いているのが現状です。
例外的に、青梅省や山西省など被害が収まってきている一部の省では、受験を控えた中学3年、高校3年向けの学校での授業が再開されています。まだ予断は許しませんが、4月の下旬にかけて、状況に応じて他の地域や学年の生徒に対しても学校再開が予定されています。
韓国
1-a: 現在の学校におけるコロナ対策について
4月現在、日本の一部の学校では入学式が執り行われましたが、韓国では一体、どのような対応が行われたのでしょうか。
日本の新学期は4月に始まりますが、韓国の入学時期は3月から始まります。
3月時点での韓国のコロナの感染者数は深刻であり(3月1日16時 感染者数 3,736名、前日比の新規感染者数 210名増加)、韓国政府は3月初旬から4月9日まで全国的に学校の新学期の開始を延期しました。
日本は、緊急事態宣言発令により5月6日まで1ヶ月の休校要請でした。しかし、韓国は段階的に始業時期を延期していきました。初めは、3月2日から9日の1週間の延期から始まり、感染状況の悪化とともに、3回の休校延期命令を下し、最終的には4月9日からオンライン授業の開始となりました。(4月9日累積感染者数10,423名、うち6,973名隔離解除。前日比の新規感染者数39名、新規隔離解除者197)
4月から始まるオンライン授業は一斉に行われずに、学年を分けて始業予定が組まれました。
4月9日、高校3年生と中学校3年生
4月16日、高校1・2年生、中学校1・2年生と小学校4〜6年生
4月20日、小学校1〜3年生
の順番に、オンライン授業が行われる予定です(4月9日は実行済み)。
1-b:テストへの対応
韓国における大学修学能力試験(修能)は、高校生たちの将来を左右する試験です。
毎年、韓国の受験戦争は日本の受験と負けず劣らずの加熱さがあります。
この試験日程も2週間延期されることが決定しました。2021年度の修能は12月3日に行われる予定です。ただ、ウイルスの感染状況によっては、さらなる延期が要請される可能性もあります。
2、どのように授業をオンラインに移行したか
中国
中国では、学校の一斉閉鎖を受け、300都市で60万人もの先生がオンラインへと教壇を移しました。そのオンライン授業の立役者となったのが、ClassInとDingTalkという2つのサービスです。これらのサービスには、オンライン授業を円滑に進めるために以下のような機能が備わっています。
【機能一覧】
・ライブ授業機能
・オンラインでの黒板
・チャット機能
・課題配信の機能
・授業の予約、管理画面
・生徒の学習状況管理画面(先生向け)
先生たちはこれらの機能を活用することで、オンラインの授業でも教室での授業に近い体験を目指しています。このようなサービスは、LMS(ラーニングマネジメントシステム)と呼ばれ、現在海外の多くの教育機関での導入が進んでいます。
上記以外にも、民間教育会社大手のYuanfudao(猿辅导)のアプリには、初日だけで500万人もの利用者が押し寄せるなど教育のオンライン化が一挙に進みました。また、中国版のYoutubeサイトには、民間企業が提供した授業動画や、個人の先生が作成した創意工夫に富む動画などが多く共有されました。座学の授業だけではなく、音楽や体育や美術の動画なども多数作られ、すべての科目でのオンライン授業が実現されました。
韓国
政府支援:
韓国では、遠隔授業が学校で機能するように、政府が主体となって既存の「新学期始業準備推進団」という政府機関に「遠隔教育準備・点検チーム」を新設しました。
その役割として、韓国政府が最近発表した「遠隔教育支援計画」、「遠隔授業のための運営基準案」などの現場適用の支援や、*EBSオンラインクラスなどの遠隔教育システムの観察、遠隔教育モデル学校(全国490校)の運営などを支援しています。
*EBSオンラインクラスは韓国で有名な教育専門の報道局です。日本でいう教育専門のNHKのような存在です。
教育現場:
オンライン授業運営方式は複数あり、学校別条件に基づいて行われています。
学年別に開講した後、最初の2日間は遠隔授業に慣れるための期間があります。この期間に、学生は、授業内容と遠隔授業のプラットフォームなどを活用する方法を身につけます。
小学校1年生と2年生の授業は、他の学年(小学校3年生から高校まで)が行うライブ授業と異なり、EBSが提供する教育番組や資料で行われます。
3、授業オンライン移行による利点と課題
中国
オンラインでの授業を受け、様々な利点や課題点が浮かび上がってきました。
まず、利点としてはオンラインでの授業への移行による生徒と先生のオンライン授業への適応があります。今回の授業のオンラインへの移行を受けて、60万人もの先生が新たにオンラインで授業を教える経験をしました。先生の増加に伴いオンラインで学ぶ生徒の数も爆発的に増え、利用者規模は移行前と比較して40倍ほどの規模になっているとされています (ClassIn担当者)。
その反面、以下のような問題点も発生しました。
・急速な移行による負荷にサービスの通信基盤が耐えられなくなる
・先生に対する技術指導の必要性
・教材の質問題
・オンラインでのテストへの対応
・インターネット環境の地域間格差(デジタルディバイド問題)
・長期休暇の対応
この中でも特に、先生に対する技術指導と公開された教材の質は大きな課題となりました。
先生はオンラインで授業を行うにあたり、従来の教科書とノートを用いた様式から、パソコンや電子教材を使った教え方へと移行する必要がありました。そのため、授業開始初期は設備不良によって満足のいく授業ができないという状況が各地で頻繁に発生しました。
また、オンラインで公開されていた無料の教材は、カリキュラムが網羅的ではないことが多いことも問題としてありました。地域や学校によって使われている教材も異なるため、一つの基準のもとに教材を準備することができず、全員が質の高い教材を利用することは難しいのが現状でした。
上記以外にも、200円程度から利用可能なオンライン試験代行業者の発生による不正受験なども問題として挙がりました。オンラインでの試験の有効性は以前から問題になっていましたが、今回の事態を受けて改めてオンライン試験の有効性が問われることとなりました。また、地方在住の生徒がインターネット環境がないことよって授業への参加が困難になるなどの問題も発生しました。
韓国
韓国では中国同様、通信インフラをめぐる問題、生徒のオンラインでの学習環境問題などが発生しました。
4月9日に初めて行われた全オンライン授業では、通信インフラへの負荷の影響で通信問題が発生しました。ある先生は「今朝7時頃、来週の授業のための映像資料をサーバーにアップロードしようとしたが、2〜3時間が経っても完了されず、途中で放棄するしかなかった」と話します。
また、科学技術情報通信部 (The ministry of Science and ICT) が3月27日に発表した「2019インターネット利用実態調査」報告書を見ると、韓国内でコンピュータを保有している世帯は、全体の約71%程度とされています。
今回のオンライン授業に伴い、22万3千人がコンピューターを持っていなかったと報告されています。家庭内でオンラインでの学習を継続するためには、カメラのついたパソコンなどが必要となるため、この保有率からも全生徒が万全の態勢で授業に望めたとは言い難い状況です。兄弟や姉妹がいる家庭は、家庭内で複数台のパソコンや通信媒体が必要になるため、多くの生徒が満足の行く形で授業を受けることができない状態です。
もう一つ忘れてはならないのが、視覚や聴覚に障害を持つ生徒に対しては必要な学習支援が違うという点です。中国同様、短時間で進められたれた授業の準備は、特別な学習支援が必要な学習者まで対応しきれていませんでした。特別支援を必要とする学習者にいかに対応していくかが今後世界的にみても共通の課題になると考えられます。
4、課題に対する取り組み
中国
中国では、前述した問題に対して以下のような対策が取られました。
先生へのトレーニングは、大手ClassInなどを中心にライブ配信と動画で行われました。学校閉鎖初期の期間は、連日ライブ配信が行われ、多くの先生が講習に参加しました。当初はClassIn側も手探りでの指導だったため、徐々にノウハウがまとまってきた段階で動画に切り替えて先生へのトレーニングへ対応しました。
保護者としては、オンラインの授業に多少のお金をかけても質の高い教育を子どもに与えたいという声が上がりました。また、子どもたちがオンラインで授業に集中している方が、自宅で手がかからず、自分の仕事に集中できるという点も質の高い教材にお金を出す要因だったようです。
また、地域間格差などの問題に関しては、大手の企業が教育サービスを無料提供、もしくは割引などを行うことでより多くの利用者にサービスが届くように尽力しました。しかし、現状インターネットの通信基盤問題など改善の余地は多く残っています。この状況を受け、地方ではパソコンをインターネットにつないで使うよりも、スマートフォンを利用したモバイルデータ通信がより利用されました。
このような通信基盤の影響による教育格差の問題に取り組むために、中国政府は今後アリババやテンセントといった中国の最大手の企業と共同して独自の学習体制を構築するとされています。
韓国
通信インフラの問題と特別支援を必要とする学習者向けの対策として、韓国政府は以下の様な対策を取ることを表明しています。
韓国政府は対策として、デジタル疎外階層への支援を強化し、教育給与受給権者(中位所得の50%以下)を対象に、地域別のスマート機器・インターネット対応計画の用意をしました。そのため、韓国政府は、家に遠隔授業を聞く機器が不足している学生に対して、学校でのレンタルを行いました。文部科学省・教育委員会が32万1千台を確保して機器が不足しないように対策が行われました。
そして、操作に慣れない生徒のため、また、遠隔授業中に接続エラーなどが発生した場合に相談することができるコールセンターを設営しました。
また韓国政府は、聴覚障害学生や視覚障害学生に対し字幕や画面解説を行うことで支援する方針と発表しました。これらの対応が、オンライン始業に間に合ったのかは依然として不明ですが、上記の点が政府の中で共通認識として問題視されていることから、対応は時間の問題であることが伺えます。
5、まとめ
この記事では、中国と韓国がどのようにオンライン授業の導入を進めていったのかについてまとめてきました。
中国では既に一部の学校での学校が再開されており、今後、より多くの学校が再開していくことが予想されます。その際に、学校閉鎖時に使われていたオンライン教育はどうなるのでしょうか。学校再開後に導入されたオンライン教育のどの部分が失われ、どの部分が継続的に活用されていくのか、オンライン教育を先導する中国についての情報更新を引き続き継続していこうと思います。
また、中国や韓国のみならず今回の事態を受けて世界的に教育のオンライン化が進んでいます。今後欧米や東南アジアの例も踏まえて、日本の教育のオンライン化への手がかりを更新していく予定なので他の記事もぜひ参考にしていただければと思います。
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* 「学校のオンライン移行ガイドブック」の目次は、この記事 ( https://note.com/manabie_official/n/ne16564ff2712 ) の下方にあります。
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「学校のオンライン移行ガイドブック」 目次
*記事は随時追加していきます。
・中国/韓国の休校事情とそれに伴うオンライン教育の活用
・学校のオンライン化に必要なツールのご紹介
・学校のオンライン化を進めるための7つのステップ
・保護者目線での学校のオンライン化
・生徒目線での学校のオンライン化 (小学生 / 中高生)
・各国の休校措置の現状と出口戦略
・After/withコロナの学習塾業界 (寄稿記事)
・オンラインでも自主学習を成り立たせるには(寄稿記事)
・After/withコロナ時代の教育(分析編)
・After/withコロナ時代の教育(想い編)
・よくある質問集
・その他
- アメリカ/イギリスの休校事情とそれに伴うオンライン教育の活用
- 学校のオンライン化において想定される問題と対策
- 各国政府/文科省の動き
- ケーススタディ/オンライン移行事例のご紹介
- インタビュー
- 日本での休校事情(*定期アップデート)
- その他各国での休校事情(*定期アップデート)
- 学校閉鎖が長期化へ向けての準備 (学校、生徒・親、塾)
* 目次は変更の可能性があります。
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参考記事:
中国
https://bit.ly/2UWOg50 https://bit.ly/2RqQRSQ
https://bit.ly/3b0ytb7 https://bit.ly/3b0ytb7
https://wapo.st/34ypV8T https://bit.ly/2xbpDZy
https://bit.ly/3cagEqd https://bit.ly/2RtM7ff
https://nyti.ms/3b22XJH
韓国
https://bit.ly/3ecnaP4 https://bit.ly/3cagAGO
https://bit.ly/2yJfq6L https://bit.ly/2UXoca6
https://bit.ly/2Vlb90V