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学校のオンライン化に必要なツールのご紹介

1、「学校機能のオンライン化とは?」

オンライン教育と言っても校務の管理システムから、英単語を覚えるアプリまで多岐に渡ります。基本的には、今までのオンライン教育に関して広く得られている理解としては、「あくまで学校の補助的な役割を担う」ということだと思います。

ですが、休校措置により授業を学校で行うことが困難になり、世界中で多くの学校が学校機能自体をオンライン化するという必要性に駆られています。つまり、オンラインでの教育が補助ではなく、オンラインを中心とした学校教育体制が(少なくとも一時的に)構築されつつあります。

この記事では以下の3つの観点についてご紹介します。

1、学校機能の分類とオンライン化の具体例
2、学校機能のオンライン化が進んだ際に予想される懸念点
3、全てオンラインで運営されている高校 (Stanford Onilne High School)を例とした、学校機能のオンライン化の可能性

学校をオンラインで運営する際に必要になる情報を少しでも知っていただけたら幸いです。


2、学校機能のオンライン化の詳細

学校には多くの役割が存在します。ここでは主に、学校における「学習機能のオンライン化」について解説します。給食や部活動、文化祭や修学旅行といった「学習以外の機能のオンライン化」については、別記事で考察できればと思います。

まず、学習の機能を大まかに分類すると以下の5つに分けることができると考えます。

1、授業
2、宿題、宿題管理
3、コミュニケーション
4、模擬試験・試験
5、その他、出欠管理などの事務機能

これらをオンライン上で行うとなった際にはどのような手法を取りいれていけば良いか、それぞれいくつか例をご紹介します。

「授業」


まず、授業に関しては以下のような分け方をすることができます。

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先生あり・ライブ授業の場合

先生がいる状態でライブ授業をやるという形は、休校措置が取られている現在最も普及し始められている授業形式です。テレビ電話のサービスであるZoomや、いち早くライブ授業が導入された中国ではClassInというサービスを利用して行われることが多いです。

この教え方の利点は、生徒の集中力が継続されやすいということです。録画動画での授業の場合、生徒が画面の前で一人で長時間集中力を継続するのは至難の業です。そのため、呼びかけなどを用いて生徒の授業への注意を促すことができるのはライブ授業の大きな魅力です。また、オンライン黒板や、画面共有、その他様々なオンライン授業をサポートする機能もどんどん追加されており、教室での授業を凌ぐ質のオンライン授業も多く見られるようになってきています。

また、世界でもいち早くオンライン授業を取り入れている中国では、授業をする講師と質問に答える補助講師の2人体制で授業を行うことが主流となっています (Two Teacher Systemと呼ばれています)。この形式を取ることで、質の高い授業をしながら、授業の流れを妨げることなく生徒の疑問に答えることも可能になります。

先生あり・録画動画授業の場合


この形式は、日本でのオンライン教育では最も取り入れられている形です。衛星予備校などを利用して、有名講師の授業をどこでも受けることができる点が特長です。有名な例でいえば低価格で有名講師の授業を受け放題のスタディサプリなどがあります。

この形式では、高品質の授業を無料、もしくは安価で受けることができることが最大の利点です。長時間の動画では生徒の集中力が続かないことを考慮して、10分程度の動画にまとまっていることが多くなっています。動画の内容としても、講師が板書や、スライドを利用した動画を作成しており、いかに無駄を省いて生徒の学習を促進するかが考慮されています。

インドや東南アジアでは、先生による授業とアニメーションを掛け合わせた方式が主流となっています。この方式をとることで、黒板だけを用いた授業ではできない、より効果的でエンゲージメントが高い授業を提供することが可能です。

また、欧米の授業では、様々なプレゼンテーションを見ることができる「TED」の利用も進んでいます。学者から著名人まで多くの話し手が行った、幅広い話題についてプレゼンテーションを視聴することが可能です。事前準備や動画視聴後の議論の手助けが必要ですが、世界レベルの質の高い内容を視聴できる点で人気を博しています。

先生なし・録画動画授業の場合。



アニメーションなどを利用した授業は、先生なし・録画動画授業の一例です。アニメーションなどは制作に時間がかかる反面、板書などでは説明しきることができない事象について解説することが容易になります。また、生徒からのフィードバックに応じた動画の継続的改善が可能になり(先生ありの授業動画は再撮影が難しい)、視聴データを見ながら授業の質を高めていくことが可能になります。先生の国籍に影響を受けることなく、グローバルに受け入れられやすいという運営上の利点もあります。

また、先生が画面上の黒板を録画して授業を行う書画カメラ式の動画も普及しています。特に数式などを用いる科目を教える場合には適している手法です。アニメ動画と比較して、動画の作成は簡単ですが、生徒の集中力が途切れやすいので他の方式と組み合わせて使うことでより効果的になります。

以上が授業をオンラインで行う場合の大まかな方法になります。それぞれの手法に利点・課題点はありますし、科目や時間的な制約も考慮しながら最適な手法を選択していければと思います。また、それぞれの手法での表現の幅も広がり、動画作成補助ツールも多く存在するため、これからさらに良質のオンライン授業が増えてくることでしょう。

「宿題、宿題管理」


宿題に関しては、既にオンラインで宿題を管理するシステム上で用意されている教材を利用するか、先生や学校側が所有している教材を利用することが主流となっています。

一部のサービスでは、クラス、学年、教科ごとにレポートの作成や宿題のオンラインでの配信、回収ができます。期日や範囲なども一括で指定することが可能なので、先生は生徒の進捗、点数などを一覧でみることができます。

また、選択式のクイズなどの課題に関しては、自動採点の機能が一般的です。センター試験対策などは、選択式の問題で練習をすることも可能なので、先生の手間を省いて学習を進めることができます。

代表的な例としては、スタディサプリClassiGoogle Classroom、などがあります。それぞれ特性があり、先生自ら教材を用意するものから既にプラットフォーム上に教材やテストが用意されているものまで様々です。

学校閉鎖以前は、

1) 教室で授業をする
2) 教室で授業に付随した宿題を配布する
3) オンラインで補助的な課題を配信する
4) オンラインで補助課題の管理(採点、レポート)をする

という流れが一般的でしたが、学校閉鎖に伴い

1) 先生の授業自体をオンラインで配信する(ライブ、録画)
2) 先生が作成した授業に付随した宿題をオンラインで配信する
3) オンラインでの宿題の管理 (採点、レポート)をする
(そして必要に応じて)
4) オンラインで補助的な課題を配信する
5) オンラインで補助課題の管理(採点、レポート)をする

というかたちに変わっていくかもしれません。

「コミュニケーション」

連絡帳や電話による連絡網を通して行われていたアナログな連絡手段から、昨今ではメールやLINEを利用した連絡も増えてきています。

ですが、アメリカを始めた世界の国々では生徒、親、先生の三者がコミュニケーションを取れるようなシステムの利用が進んでいます。使われ方としては、以下の様な種類があります。

広報/アナウンスメント:
時間割の変更、イベントについて、学校・先生から生徒・親に対して一斉に連絡したい際に使われます。
メッセージ(先生:生徒):
先生から生徒に直接連絡をしたり、生徒から先生に質問したいときに使われます。
メッセージ(生徒:生徒):
生徒同士で連絡する必要があったり助け合ったりするときに使われることがあります。しかし、悪用されることも多いのでサービスに実装されていない場合なども多いです。
メッセージ(先生:親):
アメリカなどでは先生から親への直接的連絡が一般的になっています。イベントなどのお知らせ、学校のレポートの送信、学費・イベント費徴収などもメッセージを通して行われることがあります。
メッセージ (先生:先生):
生徒の自宅学習だけではなく、先生の在宅ワークのためにメッセージが使われることも増えてきています。Microsoft Teams、Zoom、G suiteなど、ビジネスの現場で使われるツールを活用して、先生間での連絡を円滑にしている学校もあります。

メールやLINEなど私的な利用がされるものとは別に、教育目的だけで使われる連絡ツールがあることで学校と個人のプライベートとの線引きがきちんと引かれるのが特長です。

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「模擬試験/試験」


オンラインで模擬試験・試験を行う動きは、密閉・密集・密接の「3密」を避ける手段として有用です。この後、長期化が予想される事態への対処法として更なる利用が期待されています。

現状としては、オンラインでの模擬試験・試験は、宿題・宿題管理の部分で述べた選択式問題が中心となっています。それらに加え、以下のような機能が追加されることで、オンラインでの試験体験がより良いものになるように工夫されています。

・タイマー機能、一斉試験機能
・模試の結果分析機能 
→志望校ごとの順位、教科ごとの分析/傾向、苦手対策方法などがわかる
・不正防止機能

この中でも特に、オンライン試験の課題となる、不正防止機能については整備が急速に進んでいます。試験官なしの状態で完全に不正を防ぐのは難しいです。ですが、試験中の目線をカメラで追い怪しい動きを察知したり、試験中は試験以外画面を開けないようにするなどの対策が取られています。

特に東南アジアにおいては、もともと紙の試験においても不正が多発しており、何より全国的に試験を行う際の利便性を考慮すると紙よりもオンライン試験の方が適しているという判断もあり、試験のオンライン化が加速しています。インドネシアでは、大学入試が紙ではなくパソコンを利用したオンライン型になるなど、世界中で試験のデジタル化は進んでいます。

ただ、日本の大学入試共通テストでも話題になったように、記述式の採点にどう対応していくかなどの問題はまだ未解決です。

「その他、出欠管理などの事務機能」


出席の管理や進路指導などの校務も学校運営においては不可欠です。オンライン上で生徒を管理するシステムを用いれば、出欠だけでなく、部活や課外活動の記録、進路指導に必要な情報なども一括で管理することが可能になります。


例えば、e-portfolio ( https://jep.jp/ ) などの高校時代の部活動、課外活動の活動を記録して高大接続を目指す仕組みを利用することで、今までは通知表などを用いて行われていた部活動の評価などもより詳細に残すことができるようになります。

3、学校機能が全てオンラインに移行したら、何が必要になるのか。


学校機能の中で、特に「学習機能のオンライン化」は、上記のような様々なサービスの登場で大きく促進されました。

一方で、様々なサービスやツールを学校に導入していく過程では、専門家からの丁寧なサポート先生・学校側の強い意志・協力体制ご家庭への丁寧なコミュニケーションが必要になるのも事実です。実際、中国でも最初からミスなくツールの導入を進めることは困難で、安定した授業の供給ができるようになるまで1か月ほどの期間を要しました。

更に、ここまで解説してきた内容は、あくまで学校機能の中でも「学習」に焦点を置かれたものでした。ですが、当然学校が担っている役割は学習促進だけではなく、オンラインへの学校機能の移行にあたり特に以下が懸念点となります。

・座学以外のアクティブラーニング(能動的学習)の促進
・生徒同士の交流の場
・生徒の身体的、精神的健康の支援

これから、学校閉鎖が長期化する可能性を見込んで、ますます上記の点への対応が求められます。これらの点に関しては、別記事でまた考察できればと思います。


4、もしも、教室機能の全てがオンラインになったら? 
「Stanford Online High School」の紹介


そんな現在の世界情勢に先駆けて、2006年からオンラインで授業を行っている高校があります。「Stanford Online High School」(以下OHS)は、現在日本人の星 友啓さんが校長を務めている、オンラインの高校です。年数回のスタンフォード大学での集会を除き、殆どの授業がオンラインで行われています。世界中から生徒が集まり、今まで累計で820名もの生徒が授業を受けてきました。

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ここからは、OHSがオンラインで授業を行うためにとった2つの施策と、授業を行う上での3つの問題点について解説します。

まず、OHSが取った複数ある施策のなかで、特にオンラインで授業を継続していく上で重要なのが以下の2点です。

様々な授業形態 ( https://stanford.io/2RlnP78)
カウンセリング( https://stanford.io/2Xl1XfB)


OHSの授業では、授業の必要性に応じて、複数の授業形式を組み合わせています。

・テキストをもとに先生が説明する授業
・10~20人ほどでのビデオ通話を用いた授業
・複数人のグループに分かれてのディスカッション
・ホワイトボードや投票機能を用いた授業
・プレゼンテーションスライドを利用した授業

OHSでは、先生は全員が博士号を持っており、各先生が生徒の集中力を保つために趣向を凝らしています。


また、OHSでは生徒に対するカウンセリングも多く行われています。精神的な面でのカウンセリングだけでなく、授業の取り方や進路に関するカウンセリング、文章に不安がある際のカウンセリングなど生徒の生活・学習を全面的にオンラインでサポートする体制が整っています。


リアルの学校が持つような、ホームルームや集会、部活動なども行われているため、生徒同士での交流も促されています。

対面で直接会う機会が少ない分、オンラインでできる限り人と人との接点を持つことができるようにすることが、オンラインで授業を長期的に続けていく上で必要とされていることが分かります。

このような体制を整えているOHSですが、同時に以下のような課題点も抱えています。

・オンライン授業準備にかかる業務負荷
・生徒の学習意欲をいかに保つか
・収容できる生徒数の制限


オンラインで授業を進めていく際には、通常の教室でできることをする際にはかからない労力がかかります。例えば、テストで学力をきちんと図るためには、生徒が教科書やインターネット検索で答えを簡単に得られるような問題を出すことは出来ないため、問題を熟考する必要があります。

また、いかに優れた教え方や教材などをそろえたとしても、生徒の学習意欲が常に高い状態で保たれるわけではありません。そのため、先生たちは議論や文章の提出、投票機能などをうまく使い、生徒たちの反応を常に見るような授業になるように取り組んでいます。


そして、何より課題となるのが収容できる生徒の数の問題です。一般的な日本の中学校、高校の1クラスあたりの生徒数は40人ほどですが、OHSではその半分以下の人数で授業が運営されています。人数が多くなるにつれて、どうしても一人一人の学習意欲を促すことは難しくなるので、人数面の問題はオンラインで授業を行う上での見過ごすことのできない課題となります。
ここまでOHSについて、一部だけにはなりますがご紹介してきました。学校の解説から14年の歴史を持つOHSの知見については、校長である星 友啓さんのブログでも紹介されています。( https://tomohirohoshi.com/?p=467 )

また、日本国内でのオンライン授業の導入に関しては、弊社Manabie(マナビー)でも取り扱っておりますので、ご気軽に連絡頂ければと思います。

5、まとめ:オンライン教育が補助から中心に変わるとき。

この記事では、学校のオンラインへの移行の際の機能の分類、移行に際しての課題、実際にオンラインで授業を行っている高校を例とした考察についてご紹介しました。

繰り返しにはなりますが、これまで補助的な役割を担ってきたオンラインでの教育は、今後さらに存在感を増して教育の中心へと置き換わっていくことが期待されます。より現実的に学校機能のオンラインへの移行を進めていくために、次回の記事ではオンライン教育の難点や落とし穴についても解説していく予定なので、ぜひそちらもご一読いただけると幸いです。

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* Manabieでは「学校のオンライン移行のサポート」を行っております。
詳細は ( https://speakerdeck.com/manabie/manabie-school-plus ) をご覧ください。

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* 「学校のオンライン移行ガイドブック」の目次は、この記事 ( https://note.com/manabie_official/n/ne16564ff2712 ) の下の方にあります。

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「学校のオンライン移行ガイドブック」 目次

*記事は随時追加していきます。

中国/韓国の休校事情とそれに伴うオンライン教育の活用
学校のオンライン化に必要なツールのご紹介
学校のオンライン化を進めるための7つのステップ
保護者目線での学校のオンライン化
生徒目線での学校のオンライン化 (小学生 / 中高生)
各国の休校措置の現状と出口戦略
After/withコロナの学習塾業界 (寄稿記事)
オンラインでも自主学習を成り立たせるには(寄稿記事)
・After/withコロナ時代の教育(分析編)
・After/withコロナ時代の教育(想い編)
よくある質問集
・その他
     - アメリカ/イギリスの休校事情とそれに伴うオンライン教育の活用
     - 学校のオンライン化において想定される問題と対策
     - 各国政府/文科省の動き
     - ケーススタディ/オンライン移行事例のご紹介
     - インタビュー
     - 日本での休校事情(*定期アップデート)
     - その他各国での休校事情(*定期アップデート)
     - 学校閉鎖が長期化へ向けての準備 (学校、生徒・親、塾)
* 目次は変更の可能性があります。

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